携帯・8
程なくして、机上で充電中の徳川の携帯が鳴った。
「徳川くん、携帯が」
「ああ、すまない」
マナーモードにしてなかった事を大和に詫びて、徳川は携帯を手にした。
「………。」
『おやすみなさい。from跡部
(返信はいいです)』
「カノジョからですか?」
笑いを含んだ大和の問いに、徳川は「いや…。そんなものはいない」と答えた。
「そうですか。なんだか珍しく優しい顔をしてたんで。ああ、喋りすぎましたかね、すみません」
徳川が詮索も会話自体もあまり好きでない事を知っている大和はそのまま引き下がり「じゃあ、お先に」とベッドに入った。
徳川はじっと画面を見つめ、やがて何かを諦めたように右手の親指を何度か動かし、そして携帯をパタリと閉じた。
***
「なんや。何ニヤけてんねん、跡部」
ある程度の空間を挟み隣に置かれたベッドから忍足が言って寄越した。
「いや…何でもねえ」
跡部は今夜届いた3通目のメールの画面を見ていた。
『俺にメールする暇があったら早く寝ろ。睡眠不足は明日の練習に響くぞ。
あと、俺がメールした事は誰にも言うな。 ―徳川』
…きっと明日の朝は、今夜のおやすみメールの話題が出るだろう。
そうしたらどうやって入江の追及を切り抜けようかと考え、でもたぶん誤魔化しきれないであろう自分を、徳川はきっと困った様子で…だけど許してくれそうな…そんな確信めいた予感が跡部にはあった。
(おわり)※おまけ1Pあり
- 127 -
戻る