なぜ集団の数は「150人」なのか?
大澤:150人という数字は、我々の日常的な経験から考えても、なかなか説得力がある気もしますが、世の中に、150人以上の集団の単位があり得ないわけでもありません。
人間社会の特徴は、ある意味ではどこまでも数が拡大していく可能性を持っていることです。中国の人口は10億人を超えていますが、EU全体よりもまとまりがある。
人間社会は原理的にはいくらでも拡大していくのです。しかも、ただ数が増えていくわけではなくて、一定程度拡大すると、そこで一つのユニットができる。今度はそのユニットの単位で数が増えて、次の拡大があり、そこで次のレベルのユニットができる。
このように、拡大と閉鎖を繰り返しながら、どんどん大きくなっていくという性質を持っている。
ダンバー氏はこの本でも少しだけ言及していて、他の本ではもっとはっきり説明しているのですが、人間の集団は「3倍の規模で拡大していく」傾向があります。これはどうしてか分かっていません。

最も小さい集団の単位を考えた時に、家族があります。様々な世界の状況を考慮して、人類学では、家族を一般的に5人とくらいと考えます。3家族が仲良くして、15人になる。これを3倍するとおよそ50人になる。50人というのは、狩猟採集民のバンドの人数です。彼らが一緒に移動する人間の数はそのくらいなのです。
50人を3倍すると150人になる。150人は人類学では氏族(クラン)の大きさです。氏族とは、共通の祖先を持っていると考える、同じところから発生した仲間意識を持つ集団です。これがダンバー氏のこだわる150人にあたる数です。
氏族をさらに3倍するとおよそ500人になります。500人というのは内婚的共同体といって、その内部で婚姻関係がおおむね閉じられている集団の規模です。さらに500人を3倍すると1500人になり、これは部族の規模です。集団の単位はどの段階においても3倍規模で増えていく。私はむしろそこが興味深い。
──まさか集団の増え方にそんな法則性があったとは。
大澤:日本の霊長類学の研究の原点には今西錦司氏がいますが、今西氏と、今西氏の学問を継承した現代の研究者たちがしばしば強調する(他の動物にはあまり見られない)極めて重要な人間社会の特徴は、社会集団が重層化しているということです。
家族が1単位だけで生活しているということはなく、一つのバンドの中には10家族くらいが入っている。バンドが集まってより大きな集団の単位になり、またその集団の単位が、より大きな集団の単位になる。
人間の社会は重層化しながら拡大していくのです。一段重層化するたびにユニットを形成して、それがまた一段重層化して、より大きなユニットを形成する。これが、どういうわけか常に「×3」の規模で大きくなる。どうしてなのかは分かりませんが、拡大する時にはいつも同じメカニズムが働くのです。
こう考えることもできるのではないでしょうか。最小の集団の単位を5人として、それを3で割った場合、1ではなくておよそ1.5になる。ということは、人間にとって一番小さな単位は、1人ではなく1.5人なのです。
この「1.5」という数字が何を意味するのか。おそらく本当に1人だけという環境は人間にとっては不自然なのだと思います。1人でいても、1人ではいないような感覚、これが「1.5人称」です。1人称でもなく、2人称でもなく、1.5人称的な感覚。
この1.5人称的な感覚を高めるとトランス状態になる。何か別の人が自分のもとにやってきたような感覚になる。リアルにはそこに誰もいないのだけれど、誰かがやってきたような気分になる。私はそう考えています。
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長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。