離婚後の共同親権を導入する改正民法が成立した。今は離婚すれば単独親権となり、父母のどちらか一方が子どもの親権を持つ。それを双方で話し合って共同か単独か選べるようにし、折り合いがつかないときは家庭裁判所が決める。公布から2年以内に施行され、その前に離婚した人も単独から共同への変更を申し立てることができる。
1947年の民法改正で規定された家族の形が大きく変わる。近年、年間20万人近い未成年の子が父母の離婚を経験している。夫婦としてうまくいかなくても協力し合い、子の養育に責任を持って関わっていけるのであれば、共同親権は子の利益になろう。だが、そう簡単なことではない。
離婚の背景にドメスティックバイオレンス(DV)や虐待があるケースで、加害者がもう一方の親や子と関わり続けると、被害継続のリスクは増す。DVを受け、子を連れて家を出た女性らが猛反対。法案審議ではDVをいかに防ぐかが最大の論点になったが議論は深まらず、政府は「子の利益のため」と繰り返し、押し切った形だ。
懸念と不安を拭えない。要綱案をまとめた法相の諮問機関・法制審議会部会に自民党保守系議員が共同親権を「原則」とするよう要求するなど不透明な経緯に不信感も残る。子の利益にかなうか、不断の検証と見直しの議論が必要になろう。
子を巡る紛争は年々増えている。離婚に際し一方の親が子を連れ去った場合などに、もう一方は子の引き渡しを求め家裁に調停や審判を申し立てる。家裁は調査官が親子関係や経済状況などを調べたり、子の意向を確認したりして、どちらが子と一緒に暮らすのがふさわしいかを決定する。
最高裁の司法統計では、子の引き渡しを求める調停と審判の申し立ては2022年に計3592件。10年前から3割増えた。男性も育児を担うようになり、申し立ての増加につながっている。そんな中、共同親権が導入される。単独から共同への申し立てが相次ぐのは想像に難くない。共同になれば、子の進学や医療など重要事項は父母が話し合って決める。DVから逃れ、子と暮らす女性は元夫と接点を持たざるを得ず、被害が続きかねないと危惧するのはもっともといえよう。
法制審部会では複数の委員が「共同親権は父母の真摯(しんし)な合意がある場合に限定すべきだ」とし、要綱案の採決で反対。野党は父母の同意を共同親権の条件とするよう自民党に修正を求めたが、付則に「真意を確認する措置を検討する」と盛り込まれるにとどまった。
DVなどの恐れがあって子の利益を害するなら、家裁は共同親権を認めず、必ず単独親権にする。とはいえ、父母が合意できない多くの場面で最終判断を委ねられる家裁は、家族のさまざまな事情を的確に見極められるだろうか。子の引き渡しで裁判所の判断が二転三転した例もある。またDVには暴言など精神的DVも含まれ、密室の出来事について判断するのは容易ではないだろう。
共同親権下でも一方が単独で親権を行使できる「急迫の事情」の線引きなどにまだ曖昧さが残る。施行までに詰めなくてはならない。さらに施行後も見直しを欠かさず、父母の対立が長期化して子の将来に深刻な影を落とすことがないよう、細心の注意を払いたい。