1人ぐらい食べてもまぁバレへんやろ   作:こだまりパン

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7-そろそろ狩るか…♠

_人人人人人人人人人人人人_

>                   <

> アジトを紹介するぜ!(唐突) <

>                   <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

 ……。

 

 はい。

 

 前話でふれつつも全く説明できないまま終わってしまい申し訳ない。

 そのうえ唐突な展開になってしまいさらに申し訳ないところだが、もうこの際だから最後まで突っ走らせて欲しいところ。

 

 んで早速説明に移るわけだけど。

 おれのアジトというのは、実は名探偵コナンの第2巻もしくはアニメ第20話で登場する幽霊屋敷のことで、そこの屋根裏を(ねぐら)として勝手に使わせてもらってる状態だ。

 

 

 以上!(ドン)

 

 

 説明としてはこれで事足りると思うんだけどどうだろう。

 だめ? あ、はい。

 とはいえまぁ、幽霊屋敷と言われてもピンとこない人もいるかもしれない。

 ということで、はい。この屋敷についての情報をまとめました。以下のとおりです。

 

・この屋敷には父、母、子(高校生)の三人家族が住んでいた。

・五年前に何者かに父が殺され、母と子は遠方へ引っ越した。

・しかし空きになったはずの家から時折うめき声が聞こえる。

・きっと悪霊が住み着いてしまったせいだ、幽霊屋敷だ、と近所で噂されている。

 

 これが表向きの情報でね、ご近所さんとかが噂話でひそひそし合ってるレベルの内容ね。

 で、まぁ、表向きというからには当たり前だけど裏もあってね。

 

・実は父を殺したのは子。

・母と子は引っ越しておらず、母によって地下牢に閉じ込められた子とその世話をする母がひっそりと生活を続けている。

・母は父の死を部外者(強盗とか)による他殺として誤魔化すために、子の殺人罪が時効になるその時まで子を監禁し続けるつもりでいる。

・屋敷から聞こえるうめき声の正体は地下牢から響く子の声。

 

 幽霊の正体見たり枯れ尾花。

 本編だとコナン君たち少年探偵団がお化け退治のために屋敷にやって来て……という感じで物語が進んでいったんだったかな。

 初期のコナンはショッキングというか、まだまだ始まったばっかりの頃だったからかかなり印象深い(ぶっとんだ)エピソードが多くあり、この幽霊屋敷にまつわるあれこれも結構よく覚えていた。

 それで米花町に来て町内を観光しているうちにティンと来たんだ。

 

 ここ、隠れ家に持って来いでは? と。

 

 そこそこ広い敷地があり、の割に住人は母子二人だけ。

 近所や外部の目も、わざわざ幽霊屋敷に関わりたがる物好きがいないためスルーしやすい。

 周囲から空き家扱いされているが実態(住民票や登記関係など)はちゃんと人が住んでいることになっているため外部の手が入ることもほとんどない。

 もともと良い噂が流れていないため、おれ一人がうろちょろしたところで肝試しのクソガキか何かと違和感を持たれることもなく出入りが容易。

 要するに住人二人(実質母一人)にさえバレなければ寝泊りし放題。

 

 勝った! 完! 風呂食って飯入るわガハハ!

 

 冗談は置いといて。

 

 実際この幽霊屋敷、入り込むのはかなり簡単だった。

 何せ幽霊母がマメな性格なのか、広い屋敷だというのに掃除のためだとか換気のためだとか事あるごとに窓を開けることが多いので侵入経路に事欠かず。…の割に年齢による体力の衰えと、地下牢の子の世話という最優先事項があるせいで上の階に幽霊母が来る頻度は少なくセキュリティもガバガバ。

 加えておれのマンパワーさえあれば屋根板を外して屋根裏に侵入するのも難しくなく、屋根裏の掃除で多少ホコリを室内に落としていても、幽霊母は屋敷の掃除ついでに気にせずきれいにしてくれるという。上階の清掃頻度は下の階に比べて少ないため、多少ホコリごみが増えても幽霊母にとっては不自然ではないらしい。

 

 近所の人間の目は幽霊屋敷というフィルターで誤魔化せる。

 行政からの目は幽霊母が対外的な手続き関係を滞らせないおかげで素通り。

 幽霊親子からは「まさか二階より上の空間にチビガキが隠れ潜んでるわけがない」という当たり前の常識により全く感知されない。

 塒からの出入りは探索時にこっそり作った出入口(通りから見えない屋敷裏側の窓、上階にあるものの一つ。鍵をイジっていたら施錠が利かなくなった)を使うことで体制は盤石である。

 

 ……完璧な布陣だ。

 実際俺も幽霊屋敷に帰ってくるのは風呂とか済ませて夜暗くなってからだから、タイミングにもよるが幽霊親子はだいたい就寝済みで、勝手に住み着いて一週間以上経っても一向にバレる様子はなかった。

 

 

 

 ……なかったんだけどなぁ。

 

 

 


 

「そう……確かにこのまま隠れていれば警察からは逃げられる……。だが、犯した罪からは決して逃げられませんよ……」

 

 そうだよねぇ! いつか必ずやってくるよねコナン君!

 

 幽霊屋敷に住み着いて二週目。思ったより早かったがとうとうこの日がやってきてしまった。

 少年探偵団の幽霊退治・屋敷探検に始まり、あれよあれよと幽霊母子の自首シーンまで展開が進んでいく。

 幽霊親子がパトカーに乗せられ、少年探偵団は迎えにきた家族にがっつり絞られ、幽霊屋敷は家主不在に。

 それから数日、そして一週間ほど、警察やらお役所の人や作業員らが屋敷に出入りし、屋敷の中(特に地下牢など)の調査や家主不在に備えた住宅インフラの後始末、塀の向こうにいる幽霊母子の手続きに必要な書類関係の運び出し等々…。とりあえずよくわからないが人の出入りがたくさんあった。

 

 そしてその出入りが落ち着くころには、おれだけの、おれ専用の拠点が完成していた。

 

 どうやら家主逮捕となったこの屋敷だが、結局のところ幽霊母子は手放さないことにしたらしく、塀の中でも継続受給できる年金や元々蓄えていた財産等で維持管理が続けられることになったようだ。

 つまり幽霊母子が出所してくるまでこの屋敷はおれの拠点として好き放題できることが決まったわけだ。もちろん周囲から怪しまれない程度に節度は守るけど。

 家主は不在。警察や行政の手も入らない。近隣住民の目を気にする必要もない。この隠れ家最強か?

 

 こうしておれはとうとう、この世界にきてなんと最初の一か月で衣食住全ての問題を解決するに至ったのだった。

 ヤーさんモデル事務所からかっぱらった大量の現金のおかげで当分の資金には困らず、家主不在の幽霊屋敷を手に入れた(不法占拠)ので寝床にも困らず、あとは犯罪都市米花の治安の悪さに紛れてしまえば食糧調達とて容易。……くくく、勝ったな。

 いやガチでこれは勝ち確でしょ。

 

 ということで、割と順風満帆(?)な異世界生活に先行きの明るさを感じて悦に浸っていたところ……。

 

 

──ぐぅ。

 

 

 ……。

 

 あー、そうか。

 もう一か月経つのかぁ……。

 

 ……。

 

 

 

 腹へったな。

 

 

 

 


 

 ということで米花町から電車を乗り継……ぐわけないよねえ!

 暗さと人通りの少なさにこれ幸いと爆速キックボードと路地裏&ビルの屋上走りを駆使して時刻は夜の八時過ぎ。

 ほぼひと月ぶりにやってきました風俗街の片隅。

 例の白スーツショタコンハゲおぢ893(役満)とひと時の逢瀬を愉しんだ歪みねぇ想い出の地であります。

 

 おれの現在の服装は生足魅惑の茶色ショーパン+白ソックス+スニーカーに、鎖骨と胸元がチラ見えするぶかめの白Tシャツと前開き黒パーカー。ませたガキんちょらしさ全開のラベンダー色リュックサック(アニメキャラ缶バッジでデコり済み)を背負って、さらにキャルン♡とした字体の英語が刺繍された女児黒キャップをかぶって♡ハート♡型ファスナーの長財布を片手に抱えればほら。神待ち非行少女の一丁上がり!

 ぐへへ、あとは他の非行少女たちに紛れて獲物が引っかかるのを待つだけって寸法よ。

 

 おれの周りには、といっても1~数mずつ距離を置いてぽつぽつといった感じだが、おれと同じように神待ちあるいはマッチングアプリでの待ち合わせらしき若い少女~女性が何人もいる。

 通りがかった、あるいは約束をしていた様子の男たちがそれぞれ女の子に声をかけ、二人で腕を組んでこの場から離れたり、話がこじれたのか互いに小さく悪態をつきながら離れていったり。ここだけでもちょっとした特集が組めそうな人間ドラマ模様を垣間見ることができる。

 

 そうして、以前ヤクザおぢからパクったスマホ(機内モードオン・GPSオフ)でオフラインゲームをぽちぽちしながら暇を潰すこと20分ほど。

 

「ねぇきみ、チョットいいかな?」

 

 若い男が声をかけてきた。

 袖をめくって胸元を開けたヴィトンの黒Yシャツを着こなす、どこか軽い雰囲気の伊達メガネ男子だ。

 

 男は「隣いい?」とこちらの返事を聞くまでもなくおれの隣にくると、おれに倣ってビルの壁に背を預けてマイペースに話し始めた。顔だけはおれの方に向けながら。

 

 暇そうにしてたから思わず声かけちゃった。どっから来たの? 小学生? おうちの人は心配してない? ボクは○○大の学生で──、ここら辺はたまたま遊びに──、女の子が一人でいるのは──、などなど、いかにも親切なお兄さんといった感じで色々としゃべってくる。

 対しておれは「早い反抗期で家を飛び出してきた非行少女」の態でおしゃべりに付き合った。親がうるさい(嘘)、学校が面白くない(嘘)、まわりの友だちはみんな子どもっぽくて話が合わない(嘘)、この街にはよく遊びに来てる(嘘)から子ども扱いしないでちょーだいプンッ、ていうかお兄さんもしかしてナンパぁ? 鏡見なよ(笑)……などなど。見よ! この灰色ベリーショートロリ(BBA)から繰り出される思わず理解(わか)らせてやりたくなるメスガキムーブを! ……キッツ

 

 この時代まだメスガキ概念は一般的ではないはずだけど、まぁこういう生意気なガキんちょは古今東西どこにでもいるもの。おれのメスガキムーブを受けたメガネくんはそれでもにこやかなまま「うんうん」「そっかぁ」「大人なんだね」「すごいね」とあくまで理解あるお兄さんの態で返してくるものだから思わず心の中で感心してしまう。

 これは手慣れてますねメガネ野郎……。

 ということで次弾装填、からのファイア。

 

 はぁ? なにそれ。

 理解あるボクかっこいーとかやってるつもり?

 ……ダッッッサ! 見ててサムいからやめてくんない?

 うわ鳥肌立ったし、まじキモい……。

 

 嫌そうな口調とは裏腹にニヤついた表情で下から見上げてやる。ついでに犬歯とチロチロ舌のちょい見せというおまけつき。ぶかめのシャツ襟から貧相な小山が見えそうで見えないようになっているのがポイント。ちっぱいを覗く時、ちっぱいもまたそちらを覗いているのだ。

 ……見えてないよね?

 と、とりあえず。

 

 食らえメスガキインパクト! 相手はイラッ()とくる。

 

「……、…」ムラァッ

 

 にこやかなまま不自然に動きを止めたメガネ野郎だが、次の瞬間ちょいと雄くせえ脂っぽさを増したのが嗅覚で判った。

 

 すげえ、このメガネ上級者だ……! メスガキに対する全イライラを凍てつくほどの煩悩として溜めまくってやがる……! こいつぁやべえ……! それこそ除夜の鐘()を突く頃には相手が壊れることもお構いなしの暴れん棒()と化すに違ェねえ……!

 

 ……。

 

 ……え、まじでちょっと怖いんだけど?

 グール対人間だから物理的に安全なことはわかってるんだけど性犯罪者予備軍と真正面から相対するのはちょっと違うじゃん……雰囲気が迫真すぎるじゃんアゼルバイジャン……。

 

 ということで若干本気で「年上相手にもしかしてお、怒らせちゃった……!?」と急に不安になったかのような弱々ムーブに移行し、取り繕うように慌てて謝ってるようで謝ってないようでその実敗北宣言に等しい謝罪を繰り出した。生意気なメスガキの癖してチョロさの片鱗が窺えるおれの態度にまた「うんうん」と理解ある年上ムーブでにこやかに受け止めるメガネ君。

 

「……(にこにこ)」ムラァッ

 

 ……や、やべえ。余計にメガネ野郎のイライラ()度が増してるぞ……! 今度はこっちが気遣うような姿勢を見せたらそれはそれで燃料にしかならねえとかコイツ無敵か!?

 

 釣る相手間違えたかなー、食べるにしたってもうちょっと気持ち悪くないやつが良かったなー、と思いながらも、その上級口車に乗せられる形で非行少女(グール)はメガネ君と連れ立って休憩所(意味深)へ移動することにした。

 

 っべー。このメガネっべー。

 理解あるボク君どころか理解(わか)らせ大得意のボク君だったとはこのリハクの目をもってしても(ry

 よく見ればわかるけど、にこやかに笑ってるその目元、ギラついた黒目が本当にうっすら見え隠れしてるのガチホラーすぎる。

 休憩所()が近づくごとに暴れん棒()のイライラ()度も増しているようで、すぐ隣を歩くおれからしたらまじで雄臭さが刻々と凄みを増してきてるのがキッッッツい!

 

 んぁー、早くぶっ○してぇよこいつ……。

 伊達眼鏡へし折って*に突っ込んで現代アートオブジェにしてやりたい……。

 

 もういいや。

 そこの角曲がったらわざと小道に入って誘って、さくっと()って食ってトンズラしよ……。

 

 

 

「──そこの二人、ちょっといいかしら」

 

 

 

 角を曲がる直前、芯の通った女性の声が後ろからかかった。

 

 ふぁ!? と思いメガネ君と同時に振り返れば、クリーム色のレディーススーツをピシッと着こなす黒髪ショートのお姉さまが立っていらっしゃる。

 腕を組み、険しい顔つきでこちらを……どちらかと言えばメガネ君をにらみ、かと思えばおれの方にもちらと視線を寄越すその女性はパンプスをカツカツ鳴らしてこちらに近づくと、懐から小さい黒手帳を取り出して広げて見せた。

 

「こんな時間に小さい女の子を連れて何をしているのかしら?」

 

 広げられた下半分にはギラっと存在を主張するPOLICEのエンブレム。上半分には目の前のお姉さまの写真と職氏名の記載が……。

 

「お時間あるなら、少しお話伺っても?」

 

 お姉さまの後方からは茶色スーツの長身あんちゃんが「佐藤さぁーーん!」と慌てて駆け寄ってくる姿が見えていた。

 

 ……。

 

 おっふ。


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