1人ぐらい食べてもまぁバレへんやろ   作:こだまりパン

5 / 8
5-突然ボーイ・ミーツ・ガール

 うほっ、いい金庫……!

 

 あの後例のラスボス金庫ちゃんを甲赫パンチ(マスターキー)でくぱぁしたところ出るわ出るわ、わざとらしくピン札じゃないのだけできれいに収められた札束ちゃんたち。

 すげーぞーこれ。100万束がひのふのみー……いっぱい!

 追加でナップザックをもひとつ用意して札束をざんざか放り込むことにして、金庫の中に一緒に入ってた貴金属類もついでにわしづかみ。

 

 宝石? ゴールド? 売らないよ? だって身分証ないもん。ふつーの店じゃ買い取ってもらえないよね。そもそも闇市とか知らんし。

 じゃあどうするかって?

 もしかしたらどっかその辺(ホームレスたちの近く)でたまたま落としちゃうかもね。

 人は争い合ってこそ真の輝きを発するのだ……!(邪神並感)

 

 金目のものをあらかた詰め終えたところで外からサイレンの音が聞こえてきた。しかも複数。

 きたわね(迫真)

 最初に使った出入口までたったか戻り(もう足音を隠す意味もないため靴は履き直した)、非常階段の手すりに足をかけて大ジャンプ。同じ通りに面してる隣のビルの屋上まで、赫子も伸ばして一発登頂。もし目撃者がいたら(殺すけど)でかいリュック+ナップザック2袋括り付けての挙動とは思えないだろうな。

 着いた屋上……とはいっても、だいたいの屋上ってもう一段階登れるとこあるよね? 機械室っていうの? おれはそっちに乗ってる感じ。

 

 登り切ったところで眼下を見下ろせば深夜を切り裂くサイレンの群れが、さっきまでキラーごっこやってたビルの入り口から裏口まですべてを取り囲んでいた。

 パトカーから降りてきたお巡りさんも、ガチ突入要員のフル装備メンツ(いっぱい)から現場で足稼いでそうなよれよれコート姿(まあまあ多い)、お前ふだん現場来ねーだろ的なキャリア組っぽい四角メガネの人(極少数)まで揃い踏みだ。

 もしかしてこのビルって前から目をつけられてて……あ。

 

 窓にめっちゃ血しぶき張りついてるー!?

 うわ、まじか、ビルの中ってかなり暗かったから大して目立たなかったけど、接待()部屋が明るすぎて廊下まで後光差してやがるじゃねーか! おかげで外から見たらめっちゃ血みどろ窓ガラスやんけ! そら事件性100%で通りすがりも通報するわな!? おれチョーシ乗ってたから叫び声とか破壊音とかのオンパレードにもなってただろうし!

 

 警察側も一応外からの呼びかけ(「おまえたちはー かんぜんに ほういされているー」とか最早やる気ねーだろ)とかやってるけどどこかおざなりだし、何なら突入の段取り済んでるのかどんどん隊列整えて、裏口なんか非常階段から各階の出入り口まで全部ガチガチに封鎖してやがりますよ。

 

 と観察していたところで はい突入! どーん!

 例のどっちがヤクザかわからんばりの勢いで警察が雪崩れ込んでいく。砂時計の砂が落ちていく、もしくは掃除機に吸い込まれるチリゴミどもを見ているようでちょっと気持てぃー。

 ビルの中から聞こえる声は、流石にどっちがヤクザかわからんほどではなかった。まぁ東都(関東)だし? これが大阪だったらわからんけどね。

 

 しばらくすると突入隊の怒鳴り声は鳴りを潜め、代わりに動揺を孕んだ呻き声が聞こえてくるようになった。壁越し+距離もあるのになぜ聞こえるかって? ふつうの人間なら無理だろうけどこっちはグールイヤーやぞ。この程度の聞き耳ぐらいちょちょいのちょい…………悪い、やっぱムズィわ。……まぁ、本当頑張って集中すればなんと、か? こういう感じの声色かなぁ? ていうぐらいなら聞き取れるのよ。ほんとちょっとだけど……。

 

 お、外で待機組の刑事さん方のところに連絡いったっぽい。みんなして慌てたように顔を見合わせて、ビル内に飛び込んでく人と慌ただしく別のところに報告入れ始める人とかできれいに分かれた。

 

 ん? お? おお!? おー、おぉおぉ、おほー。

 ビル内に飛び込んだ刑事さんたちって、案外女性職員もちらほらいたのよね。そういう人たちが現場(特に接待()部屋)の惨状を前にしてなんか水っぽい音を揃って垂れ流したりえずいたりしてるっぽいのが聞こえたのよ。

 ん、んっんー……、うむ、……な、なんかエッチぃな。大人のおねえさんの苦悶の声ってなんでエッチぃの? 有識者の諸君にはぜひともこの謎を解明してほしいところだが……。

 

 ……んー、あとはもう特に真新しいことはない感じかなぁ。

 転がってる死体はみんな揃って頭部欠損状態だし、ぱっと見生存者ゼロなのはわかるよね。

 おまけにビル内は上から下まですべての部屋が荒らされてて、防火扉やら窓やら扉の鍵やらが不自然に手を加えられた状態になっていて、極めつけは破壊に困難を極めそうなでかい金庫が葛飾北斎の浮世絵(波)バリにぐぱぁしてるときた。なぁにこれぇ。まるで意味が分からんぞ! とりま捜査頑張ってくださいお巡りさん。

 

 それじゃあみんな! おれはこいつ(札束)と旅(都内限定)に出るんで!

 


 

 後日、持ち物欄を圧迫する大量の貴金属類を都内各所にばら撒いておいた。捜査攪乱にもなるし一般ピーポーのプチお年玉争奪戦にもなって一石二鳥やで。(争え…もっと争え…)

 やたらと嵩を増した現ナマについては仕方ないので、ぴったりサイズで収納できるアタッシュケースを近場のホームセンターで購入して詰めなおした。へへ、これだけあれば(今のおれなら)十年は暮らせるぜ……! まぁナップザックに入れてたら多少丈夫な日本円のお札といえど折れたりしてまずいもんね。

 

 ここ最近、日中はキックボード(中古ショップで購入・非電動・ベル付き・ヘルメットも装備)で街中を散策して暇を潰している。土地勘を養うためでもあるので無駄な外出ではないと言いたい。でかいリュックなどの目立ちそうなものは最近見繕ったアジト(後述)に放り込んだので、大荷物の子ども不審者として通報されることもないだろう。偽装として防犯ブザーも首から提げているので「保護者公認の外出です!」的な雰囲気も出せていることだろうしおおよそオッケー。

 

 移動はキックボードと言ったが、もちろん公共交通機関も利用する。むしろそっちがメインだ。

 や、別に全部キックボードで移動してもいいんだけど、そしたら移動時間の関係上、ロードバイクすら追い越す爆速クソガキロケットが出没するということに……。それはちょっと、ねぇ?

 ……え? 似たようなスケボー少年が存在するからセーフ? バーロー、主人公補正とバケモノ部外者を一緒にするんじゃないやい。ぷんすこ。

 

 まぁそんな感じでね、都内のあちこちを見て回ってるわけだけど、どうにも浮ついた雰囲気がそこかしこから伝わってくるんだよね。

 どうやら「宝石を拾った」「自販機の下から18金のネックレスが出てきた」とか、色んなところでそういう情報が出てるもんだからトレジャーハント(笑)が一部界隈で流行してるみたいなのよね。この前ケ○ズデンキのテレビコーナーで見たから。バラエティ番組で紹介されてたから。間違いないね。

 

 都内の色んな場所でジュエリーが発見されている?

 いったいどういうことなんだ……?(すっとぼけ)

 

 まあみんな楽しんでくれてるならええやろ。

 下校中の小学生もちょうどその話題で盛り上がっているらしく「オレたちも宝探ししようぜ!」「宝探し!」「いいですね~!」「お前らなぁ……」とわいわい道の向こうから歩いてきたところだ。

 ちょっと面白かったので暇つぶしがてら話しかけてみることにする。

 

 ねえねえ、君たちもトレジャーハンターなのぉ?

 

「あぁ? だれだオメー?」

「ちょっと元太くん! ダメだよそんな言いかた!」

 

 げんっ、げふんげふん……!

 ……あ、ごめんね! 急に話しかけちゃって。

 実はおれ、今流行りのお宝探ししててさ!

 ちょうどその話をしてるのが聞こえたからつい……。

 

「そうなの!?」

「オメーもお宝をさがしてんのか!」

「ライバル登場ですねぇ!」

「………」

 

 上から順に元気な女の子、でかい図体のおにぎりヘッド男子、そばかすつり目の男の子、どこか呆れた表情の眼鏡男子、という四人組。……うん。

 おにぎり男子はともかく残り三人はおれよりも背が小さいので……ランドセルの新品具合も勘案すれば小学1年生かな? あ、いや、そばかす男子もちょっと背丈あるな……もしかしておれよりも……いやいやおれの方がでかい、ぜったい、うん、大丈夫……!

 ……あー、うん……これ、もしかしなくとも。

 

 そのー、もし良かったらだけどおれも一緒に宝探ししていい?

 実はおれ、電車できたばかりだからこの辺のこと詳しく知らなくってさぁ。

 君たち地元の小学生でしょ?

 もしよかったらおれに町のこといろいろ教えてよ!

 

「おういいぜ! オレたちに任せとけ!」

「歩美もいいよ! いっしょにお宝さがしがんばろ!」

「もしかして少年探偵団の出番ですか!?」

「じゃあじゃあ! 依頼の内容は『お宝さがし』と『町案内』ね! ね?」

 

 アッハイ。それでおなしゃす!

 

「ぃよーし! そういうことなら! 少年探偵団、出動だー!」

「「おー!!」」

 

 ……。

 

 うん。あー……。

 

「……ねえ、どうしたの?」

 

 うおっ、びっくりした。

 急に横から眼鏡男子。

 

「なにか気になることでもあった?」

 

 え? ああ、いや、少年探偵団ってなんのことかなぁ~? ……って。

 

「ふーん……?」

「オレたちのことが気になるか!?」

「ボクたち、少年探偵団として活動しているんです!」

「いっしょに教えてあげるね!」

「うわっ、おまえら落ち着けって……っ」

 

 う、うんうん! 知りたい知りたい!

 いっぱいおしえて~?

 

 ……。

 

 ということで畳んだキックボードを肩に担ぎ(肩掛けストラップで運搬もOK!)、わいわいと先導してくれる小学生もとい少年探偵団とのお宝探しが始まったのである。

 

 ……。

 

 うん。

 

 原作主人公勢で草ァ!

 おハーブ生え散らかしますわ!!

 

 一応狙って米花町に来たとはいえさぁ!

 アジト(まだ後述)も町内に用意してみたけどさぁ!

 こんなに早く遭遇するとは思わないよねぇ!

 

 この世界に来てまだ一か月と経ってないんだけど? やらかしてること(無差別連続猟奇強盗殺人事件)は一か月でやらかして良いような内容じゃないんだけどまぁそこは置いといて……。

 

 しっかしまぁ、あれだな。おれの前を歩く三人組を見る感じ、本当ふつうの子どもにしか見えねーわ。

 あれだよあれ、一発で「あ、こいつ原作キャラだ!」ってわかる見た目じゃないって意味ね。

 良く言えば現実的。漫画とかアニメって基本的に人の特徴を強調して描いてるから、記号的に「あぁこのキャラは○○だね」って判別できるじゃんね。でも今のおれがいるのって、メタ視点から見れば「二次元の世界」だけどおれ視点では「現実の延長線上」だから、目の前に二次元のキャラクターご本人がいてもわからないのよ……。

 元気な女の子、おにぎりデブ、そばかすつり目、冷静な眼鏡男子、少年探偵団……ここまで揃ってようやっと確信できる感じ? いやまぁ米花町でそんな特徴的な小学生四人組とくればそれだろってツッコまれちゃえばそれまでなんだけどさ……。

 

 いやー、ほんと。

 

 ……。

 

 ……。

 

 とりあえずこの状況を楽しむかぁ!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。