1人ぐらい食べてもまぁバレへんやろ   作:こだまりパン

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3-その日ぐらしのグルエッティ

 一夜にして拠点を追われる(自滅)ことになった、この世界唯一のグールですこんにちは。

 野次馬やらテレビ取材の群れに回れ右をして再び路地裏を右左。

 はーつっかえ。新しい拠点探さなきゃじゃんかい。

 せっかくめっちゃ服とか買い足したのにどうしたもんかね。

 

 地味に両手に大袋は大変だったので、一緒に購入しておいたリュックサックに荷物を詰め、人がいないことを確認した袋小路で新しい服にチャチャっと着替えを済ませる。

 ぼろっちくなった服は赫子でにぎにぎギチギチすり潰し、端切れや糸くずレベルになったところで風に乗せてサヨナラ。

 新しい服装は黒のタンクトップの上に同色の黒パーカーとカーキ色の迷彩ズボン。それと大人から顔が隠しやすくなるメッシュ生地の帽子(涼しい! 軽い! 洗いやすい!)。これにリュックサックと安全靴を合わせればはい完成。キャンプしてても違和感ないアウトドア少年のできあがり!

 これは違和感ゼロですわ! コンクリートジャングルの真っただ中でさえなければな!

 

 衣装チェンジもしたことだし、さて次は──とりあえずお風呂だ!

 

 拠点? あとで考えるよ。

 


 

 服がきれいでも体が臭けりゃ元も子もない。

 世の中にはくっせえムワムワに高評価をくれる紳士淑女が存在するようだけど今全然その層に媚び売る必要もないしな。

 

 スマホぽちぽちで見つけたこじんまりとした銭湯に突撃し、じっくりお風呂を堪能してから出ていく。てきとうな大人の後ろをしれっとついてけば保護者同伴認定してくれるから平和ボケした国はちょれーわ。

 

 お腹は空いてないから拠点探しにじっくり時間が使える。

 軍資金は……ぶっちゃけカードを使えるのももう今日明日くらいを最後にした方が良いんだろうな。使用履歴とか防犯カメラの合わせ技で追跡とかできちゃいそうだし。これからは現金オンリーにした方が良さそう。そろそろ怖いからカード、とついでにスマホも近場で処分……あ、そうだ。

 その場でくるりと方向転換。わざとホームレスのニオイが多い方面に向かい、いかにもそれっぽく、ベンチの下にややわかりにくく財布とスマホ(電源オフ)をセットでぽぽい。もちろん可能な限り指紋をぬぐっておくことも忘れない。

 げへへ、ホームレスさんがたや、おれの証拠隠滅にちょいと協力してくれや。お礼はこの持ち主不明スマホ3台といつ使用停止になるかわからないクレカたちでヨロ。適当にバラシて売っ払うなりちょいとカード不正利用するなり好きにしておくれ。あ、現金はまだ必要なんでもらってくからよろぴく。

 おれが立ち去るなり浮浪者複数がのろのろとベンチ周りでドロップアイテム(比喩)を探しはじめ、じきに何やら胸倉を掴み合う姿が最後に見えた。

 

 自分用に買ったコンパクト財布(マジでワ○クマン神)に現金をきれいに仕舞いなおしたところで再び移動開始。ぶっちゃけ子ども同然のちびぼでぃだからホームレスの連中にしれっと混ざることもできないんだよな。

 ただの浮浪児一人くらいほっとけと思ってしまうけど、まぁ日本じゃ無理だよな。子どもがひとり出歩いてたら誰かしらは警察に通報しちゃうだろうし。良識的な人の多さもメリットデメリットよりけりだわ。

 

 財布に残った現金も、ぶっちゃけ万札がいくらかあったところで一か月過ごせるかもわからん。

 なんやかんや東京って物価高いし、グールだから普通の食費がゼロ円なのはメリットだけど、かといって衣と住をほったらかしにしたら周囲から悪目立ちしてしまうわけで。それなりに見目を整え続けようとするととにかく金・金・金! ほわぁぁぁぁおれたちゃお金の奴隷だわさぁ!

 

 金がほしい。戸籍が存在しない浮浪児でもできる金稼ぎってないっすかね?

 え、(まともなのは)ない? そっかぁ……。

 身売りとかはしたくないしなぁ。仮にもグールの身で下等生物ホモサピエンス(終末差別思想)相手に腰を振るのも振らされるのも想像するだけでもごめんだし。ぱっと見性別年齢不詳のこのちびぼでぃにそーゆー需要があるのもわからんではないけどノーセンキューだわな。

 ってことはやっぱり……まぁ、あれだ。

 

 お金はまともじゃなさそうな輩からかっぱらうのが一番ってわけ。

 


 

「やめ、やめ゛っ……ごべ、な、ざぃ……助、げ……!」

 

 セリフだけなら薄い本で襲われてる女の子みたいだけど実際は蛇革靴に白スーツ(中に赤シャツ!?)キメたグラサン坊主のおっさんの命乞いである。

 きたねえ顔だなぁ。

 

 今おれは夜の風俗街の、喧噪ですら薄っすらとしか聞こえない路地の奥にいる。

 さっきまでは風俗街、といってもその横の小道をぶらぶらしてただけだったんだけど、店からふらっと出てきた酒臭いこのおっさん、何を思ったのかニヤニヤしながらおれの後ろを尾け始めるんだもん。

 

 ふえぇ、こわいよぉぉ…(棒読)

 

 もちろんすぐに気づいたから、チラ、チラチラ、チラ、と怯えた眼差しをプレゼント。

 おっさんのにやにやもレベルアップ。気のせいでなければポッケに突っ込んでる手がもぞもぞ動いてやがるな。きっしょ。オエーッ。

 

 おう、やる気か? そのつもりなんだな?

 

 ということでそれとなく怯えた演技(表彰もの)を続行し、土地勘のない非行少年のふりのまま、怪しいおっさん(事実)から逃げたい一心でわざと細い路地の奥へ奥へと自ら入り込んでいく。後ろに今にも腰を振り始めそうなおっさんを添えて。

 

 で、曲がり角を曲がってすぐの行き止まりで慌てたようにきょろきょろするおれの退路を塞ぐように、満を持しておっさん登場。

 

「どうしたぁ? 迷子かぁ? 困ってんなら助けてやろうか」

 

 ここまで人助けが似合わないツラも珍しいなおっさん。

 ていうかくっさ。完璧に出来上がってますねこれ。

 

「世の中助け合いぃ、ってもんだしよぉ。うひ、ついでによぉ。助け合いってぇ、ことでよぉ、な? おっちゃんのお願いもなぁ、聞いて──」

 

 はいギルティ。

 

 おっさんが片手をこっちに、もう片方の手でベルトをかちゃかちゃし始めたところで距離を詰めてジャンピングヤクザキック!

 相手は死ぬ!(死なない)

 

 ごへっ!? だかなんだか声をあげてギャグ漫画ばりの吹っ飛び方で壁に叩きつけられたおっさんが痛みでもがく姿は芋虫そっくりだ。このまま踏みつぶしてやろうか?

 

「お、おご……はらっ、腹──ヴぇぇっ」

 

 ちょっと強すぎたらしい。さっきまで気持ちよく飲んでいたのであろう酒やらツマミやらが逆流したようで、その中に血の筋がまざっているのが見えた。

 

 にしてもくっさ。人肉とか人の血以外ほとんど本能として受け付けられないこの体(嗅覚)に人間の食い物100%の吐瀉物は劇物でしかない。まじでクッサ。ハゲてるうえにくせーのかよマジかんべん。

 

 腹部の激痛と収まらない嘔吐感と戦っているらしきおっさんの頭皮には青筋が何本も浮かび、おれを見上げる目には色々とよくなさそうな黒い感情が乗っているのが見て取れた。

 どう見てもいきなりやばいキックかましてきた異常者を見る目つきじゃねーぞこれ。何か明らかに「私ぜっていに仕返ししますよ!」って色々考えてる目つきだよ。ガチでヤクザものだったりするんじゃねこのおっさん。

 

「て、てめぇ! 俺を誰だと思って……!」

 

 正解っぽい?

 なんかプルプルしながらも気力で立ち上がりつつあるの普通にすげえ。手加減はしてたけどグールの飛び前蹴り食らって立ち上がれるのはやや人類やめてる感あるよ?

 

 まぁ関係ないけど。

 

「もう遅ぇゾ……泣こうが喚こうが死ぬまで(マワ)して──……は、ぁ?」

 

 こちらもある意味満を持して赫子をずるりと出してやれば、流石のヤクザーマンもぽかんとして目を見開いた。今の今まであった「絶対わからせマン」みたいな雰囲気(性欲混じりの殺気?)が一瞬で霧散するのちょっとおもろい。

 

「なん、は? テメエいった──い゛っ」

 

 はいブスり。

 まっすぐ伸ばした甲赫ちゃんで鳩尾に向かって、その場から動かず静の一突き。背中に貫通したところで一回ひねって傷口広げたらすぐに引き抜く。

 収納する前に赫子をペロ !? こ、これは血液……!! ハゲのくせに美味いじゃねーかおっさん! だてにハゲてねーな!

 

 刺されたところを押さえながらおっさんが倒れ込む。もうそこに先ほどまでの反抗的な態度はない。というかそれどころではなさそうだ。おっさんからしたら一瞬過ぎて何があったか意味不明だろうけど、鳩尾に風穴空いた異常ぐらいは体感で何か理解できてるだろうし。

 

 そして始まる命乞い。まぁ手遅れである。

 別の意味で青筋が浮かんだハゲ頭。今では脂汗(冷や汗?)だらけで無駄にテカテカしておるわい。

 なんか「たしゅけて」とか「お、かね。おかね、あげましゅ」とか虫の息で聞こえてくるけど……あ、お金は欲しいです。

 

 おら金よこせや。

 

 げし、っと蹴り転がして仰向けにし、お腹を踏んで押さえつける。

 うめき声が一層ひどくなったが無視。あ、いやこのままじゃやばいか。やべーやべー。

 

 はい、もう静かにしてていいよ。

 

「ぐぺっ」

 

 おっさんのあごを強めに蹴って意識を強制シャットダウン。気絶か昇天かわからんけどまぁ誤差やろ。人からあまり鳴っちゃいけない音とか結構エグめのゴキャ音とか聞こえた気がしたけど気のせいったら気のせい。

 

 静かになったおっさんの懐とけつポケットを漁ってみれば……はい高級そうな革財布ゲットー! ついでにスマホも新たにゲットー!

 ひゃっはー! 新鮮な現金だー!!

 まぁスマホは使えるかわからんからポチポチしてみて……おいおいおいまたしてもロック設定なしかよ! ガバガバやんけ!(歓喜) あ、GPS機能はオフで(冷静)

 

 おっさんの死体は……このままでも別にいい、いや良くないわな。わざわざどデカい足跡残してく意味ないよな。

 赫子ちゃん、もっかい出番ですよーってことで、おっさん死体を赫子でひと包みにして密閉状態のままぐにゃんぐにゃんのもみもみ刑に処す。

 からあげを美味しく作るCM(平成時代感)のごとく、人体構造ガン無視で数分もみもみ(ぐしゃぐしゃ)しまくれば、はい出来上がり。肉も骨も革靴もスーツもぜんぶぐっちょぐちょの汚ねぇ肉団子の完成です。80kgぐらいありそうだな。餃子何皿分?

 

 肉団子のぬちょぬちょをちょっと楽しんで……うわばっちい。やっぱ汚ねぇわこれ(興醒め)

 血肉まみれのまま収納する気はないのでその辺の壁やら地面やら放置されたのぼり旗やらに擦りつけて拭きまくり。

 それなりに拭き取れたらしまっちゃおーねー。人の血肉なら多少残ってるくらいなら収納ついでに体に吸収されるっぽい? なんか赫子の付け根って不思議構造になってるっぽいんよな。詳しく調べたことないから知らんけど。とりあえず簡単な証拠処分にはもってこいで助かってます。

 

 えーとどれどれ、財布の中身は万札さんがひーふーみーよー……じゅー、じゅうごー、にじゅーの……めっちゃいっぱい!?

 え、待って。この人お金持ちくさくなーい?

 ちょっと住所住所……保険証、免許証……お、名刺?

 

 ……芸能事務所? 「モデル派遣します」……?

 

 ほー……?

 

 ……。

 

 ぜってぇフロント企業だろこれ。

 

 ほーん、ふーん、へぇ……。

 

 ……。

 

 ……いいじゃん。

 

 いけっフロント企業! キミにきめた!


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