1人ぐらい食べてもまぁバレへんやろ 作:こだまりパン
東京グールの世界にグールとして生れ落ち、前世の倫理観を引きずりつつも襲い来る食欲にはあらがえず、テキトウに路地裏や人通りの少ないところで半グレとか不良とかヤクザとかの比較的世間様に迷惑をかけにくい連中だけを標的にして生きながらえていたものの、結局はハトの連中に首ちょんぱされて人生(グール生)を終えたところ。
気づけば現代日本(らしき街並み)の路地裏に突っ立っていた。
あれ? 死んだよね?
首ぽーんって、小学生がタンポポのつぼみで「首ちょーんぱ!」って飛ばして遊ぶくらいすぽぽーんって頭吹っ飛んでったよね?
覚えてるよおれ。視界がくるくる回りまくってるのに元・自分の体がぴゅーぴゅー真っ赤な噴水型現代芸術オブジェになってるの、グールの動体視力で死に際なのにめっちゃ見まくったの覚えてるよ?
あれか?
もしかして異世界(日本っぽいけど?)転生か?
二度あることは三度あるってか?
二度目の人生終わったのに三度目もあるとかどんだけ最初の人生で徳つんだってのよ。
(「徳」って概念があるなら絶対にグール生でマイナス値でカンストしてる自信あるわ)
──ぐぅ。
うお、おなか減った。
シリアス入るかと思ったのに急にシリアルが欲しくなる空気感。
さあここで問題です。今世のおれは「何」でしょう。
人⇒グール…ときて三度目の人生。また人に戻ってるんかな。
路地裏、飲食店の裏口がずらずら並んでるっぽいので換気扇の出口に近づいてにおいをくんくん。ちょうどお昼の時間帯だから予想が正しければ美味そうなごはんのにおいが
「ヴぉおおえぇ!!??」
くっさ! 無理!
A.今世もグールです。
以上!
クソァッ!!
ごはんを求めて移動移動。
路地裏から出ないように薄暗い通りをとにかく思いつくままに奥へ奥へと進んでいく。
今のおれの服装は最後にハトとバトってた時そのままのズタボロスタイルなので、人目につきやすい表通りにでも出たらすぐにお巡りさんがこんにちは!してくるだろうことは火を見るよりも明らか。おれ未成年だし発育不良児だし、すわ虐待児相案件かってすぐ騒ぎになるだろうし。
小学生くらいからめっきり成長しなくなったちんちくりんな体もこういう狭苦しい路地を抜けるのにはとても便利だ。グール生の時は学校なんて通えなかったし誕生日祝ってくれるような人もいなかったから年齢感覚バグってるけど。
あてもないくせに足取りだけは強くずんどこずんどこ進み続けているとちらほら人の姿が目に入る。
薄暗い場所に似合わない高級そうな黒スーツのおっさんから顔に生傷こさえたガチ浮浪者(ホームレスグループからはじかれたハグれかな?)からチャラチャラアクセサリー&だぼだぼスウェットスタイルのやんちゃ集団からエトセトラ。
さて、誰がいいかなー。
「お?」
おあつらえ向きな廃ビル発見。
めし調達も良いけど当面の拠点ももっと大事だから空腹にはちょっと我慢してもらって内見だー。
八階建ての廃ビル、中は普通のオフィスビルって感じ。
ご丁寧に床材やら壁紙やら全部きれいに剥がされてコンクリートむき出しの感じがアウトロー感出ていて良き。
ぽつぽつと放置されたブルーシートやら片付けサボりの資材やらを避けて階段を上へ上へ。
「あ」
「あぁ?」
「んだぁ?」
「へ?」
するとなんとびっくり先住民と鉢合わせ。男が二人と女が一人。なんでこんなところにおんねん。
男Aはオラついたパーカーにシルバーアクセサリーと袖から覗く腕にはイカつい入れ墨がムカデのようにのたくっている。
男Bは黒い革ジャンとごつい指ぬきグローブに、ケツ丸出しに下げられたジーパンとぶら下がってカチャカチャ宙ぶらりんの革ベルト。いきり立ったご立派さんが男の動揺に合わせてこれまたご立派にぶるんぶるん。
紅一点はちょっと派手に遊んでそうな雰囲気のオフィスレディで男Bに組み伏せられた状態で下着ごとスカートをキャストオフさせられている。びりびりに破れたパンストとか口元にはりついた髪一筋が……うーんエロティック。
どう見ても事案現場ですね。
「な、ガキ!?」
「なんだこいつ……」
性犯罪者2名とその被害者女性(まだ未遂っぽい)という現場を目の当たりにしたおれが取るべき正解とは?
「あ、た、助け──ぺ゛っ」
A.騒ぎそうな女から殺す。
肩甲骨の下から伸ばした赫子で女の頭をすくい上げるようにゴルフショット。うーんホールインワン。
ぱん! とも ぱきゃ! とも言い難い音と一緒に弾けて男ABが血と肉片まみれになったが知ったこっちゃない。
「はっ? え……!?」
「ひいっ!!? なんっ」
男Aは腰を抜かして尻もち、男Bは特に返り血をモロにかぶって慌てふためいている。ご立派さんも一気に縮み上がってもはやフジツボ状態。
はい、じゃあどいてねーお兄さんたち。
あ、逃げんなよ? そこで正座な? ちょっと腹ごしらえするから。
軽く肩を押せば男二人は簡単にころころ転がった。
首がすわったばかりの赤ん坊のごときバランスの悪さだ。うける。
「なに、な、はっ……?」
「意味わかんねえ、意味わかんねえよ……っ」
それじゃあ女の人、ごめんねー。いただきますねー。
せめてきれいにいただきますからねー。
おれの食事中、男ABは余計なこともせず、ただひたすらにガタガタ正座するだけの置物に徹してくれていた。
良い子や。なでなでしとこうか? おれの赫子もイイコイイコしたがってるし?
「ヒィッ」
余計なお世話だったらしい。
それはそれとして、おれはよほどお腹がすいていたらしい。
普段ならステーキ一枚分というかふつうの人間と同じ一食分の量とかでも食べれば十分お腹いっぱいになるはずなのに、太ももからかじり始めたら食欲さんが働き者らしくそのままふくらはぎから土踏まずやら指先まで丸々脚一本を平らげてしまった。
しかもそこで満腹にならず感覚的には「まだいけるやん……?」となったのでもう一本の脚も……食べたのにまだまだ食べられそうだったので両腕いってお腹とかおっぱい(は脂っこかったので途中でペッ)とか内臓やらも堪能し……たのにもうちょいイケそうだったのでとうとうその辺に散らばった脳みそも拾えるだけちゅーちゅー。
オラ、男B、お前がひっかぶったヤツもよこすんだよちゅーちゅー。
「ひ、ひっ、い゛いぃぃぃぃ……っ」
まるでゴキブリに体をまさぐられたかのようなリアクション。失礼な!
「ぃぃいっ──ぁ、……───」
き、気絶しやがった。
まあ吸いやすいから良いか。こいつの上着革ジャンだからくっついた脳ミソぺろぺろしやすいんよね。
男Aからとんだ化け物を見るような視線が飛んでくるが無視無視。とりあえず脳ペロ最優先やで。
「──い、以上です。もう知り、知りませんっこれ以上」
「あ、あのっ、マジで、マジ秘密にしまスんで……! あの、おれたち──」
ABメンズの正座は引き続き、だとコンクリの床では辛そうだったので、そこらに転がっていた壊れかけのパイプ椅子なんかに座らせて、おれは二人の前まで元・事務デスクな鉄塊を赫子でドスンと置いてそこに座っている。
メンズらからはこの町の情報とか一般常識的なものを喋ってもらった。
ABの表情からは90%の恐怖と、その奥に「なんでこの程度の情報を?」という10%の疑問符が見て取れたけど、まぁ客観的に見て今の状況「とある実験施設から逃げ出した超生命体が手近なパンピーを尋問する」っていうB級映画の冒頭みたいな感じだからな。一度喋り始めればほんの少しだけど緊張がマシになって恐怖もマシになって(感覚が麻痺してるだけという)か、むしろ状況に順応し始めたのかぺらぺらとお互い先を争うように色々しゃべってくれたけど。
お話の内容から色々とわかったことがある。ここが日本という国の東京都によくある風俗街(前々世の新宿歌舞伎町的なアダルトシティー)の端っこであることとか、東京のことを「東都」と呼んでいるらしいこととか、東京タワーならぬ東都タワーが建っていることとか最近は殺人事件数が急上昇中とか云々かんぬん。
……。
名探偵コナンやないかい!
思わず腰かけていた廃事務デスクを赫子で粉砕してしまった。
「うわぁっ!?」
「ひゃぎゃっ!!」
メンズABがびびっているがスマンこ。許してちょ。けど漏らしてんじゃねーよAメン。
わたしはいま、れいせいさを、かこうとしています。
内心の動揺につられておれの甲赫さんもそわそわしておられますことよ。
おれ的にはそわそわだけど、現実には廃材やら近くの柱やらをどかんばきんと殴りまくりの荒ぶりまくりーのでパンピーABにとっては危険極まりない状況になっているわけだけど。
「なん、なんでっ……! だすけ──でぇ」
「クソがぁ! ふざっけ、ぺ」
心の動揺と赫子さんが落ち着きを取り戻した頃には合い挽き肉ABが完成していましたとさ。
もったいな。
ぺろぺろしとこ。