食塩水の濃度や往復の平均速度など、仕事などでちょっとした算数の知識が問われる場面に出くわして、ドキッとしたことはないだろうか。「昔は解けたのに……」、そう思うのに解けない。そんな大人たちのために『昔は解けたのに……大人のための算数力講義』(講談社+α新書)の著者で桜美林大学名誉教授の芳沢光雄氏が、「算数の基礎」の重要性を説く。
『大人のための算数力講義』連載第1回
整数は「1対1の対応」を理解することから始まる
客観的な議論で必須の「数(整数)」の起源を考えると、紀元前8000年頃から始まる新石器時代の近東で、様々な形をした小さな粘土製品の「トークン」に行き着く。それぞれの物品を管理するために、対応する特定のトークンを用いた。
たとえば、1壺の油は卵型トークン1個で、2壺の油は卵型トークン2個で、3壺の油は卵型トークン3個でというように、「1対1の対応」(1つ1つに対応させる関係)に基づいて使われていた。その後、個々の物品の概念から独立して整数の概念が萌芽したのである。
いわゆる「幼児教育」で、「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、……、ヒャク、ヒャクイチ、ヒャクニ、……」と単に暗記させる教育を行っているところが一部にある。しかし、「1対1の対応」による整数の理解を軽んじていることから、十数人程度の人数を数えられない幼児の姿を何度か目にしたことがある。