お詫びにチート全盛りしたけど、現代日本じゃ使い道がない。   作:チート全バフ

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とある記者のまとめ②

 『樹海の魔女』の記事の売り込みのほとんどが失敗に終わっていた。

 どのメディアも都市伝説上の魔女の存在など欠片も信じておらず、まともに取り合ってくれさえしない。好感触と思える雑誌もいくつかあったがオカルトの専門誌ばかりで、『樹海の魔女』をそんなオカルトと同列に語られることは私のwebライターとしてのプライドが許さなかった。

 

 この世界に存在する本物のオカルト。死者を蘇らせ、宙にすら浮き、姿も自在に消したりもできる、そんな超常を操る魔女に関する記事が低俗な雑誌の娯楽として消化されるなんてあってはならない。だからこそ、一線級のメディアに取り合ってもらおうと必死に売り込んだのだが返事は冷笑と憐憫を向けるようなものだけだった。

 

 私自身も客観的に書いた記事を読み返せば、こんな代物を『事実』として報道しろなんて無理なことは理解している。

 【富士の樹海に魔女が住み、自殺者を見つければ蘇らせて救済する】端的に纏めればそんな内容を、科学と文明が発展した現代日本で大真面目に話したところで誰が真に受けるというのかということを。そして万が一に大手のメディアで記事として取り上げられたところで、一笑に付されて馬鹿にされ、出版した会社の品位を大きく貶める結果になることも。

 

 どうようもない現実を前にして私はただ途方に暮れていた。

 本物が存在するのに誰も信じてくれない。それは仕方ないと分かっている。逆の立場だったら彼らと同じように記事を売り込みにきた人の正気を疑うだろう。だが、理解しても悔しいという思いが消えた訳ではない。

 

 世界の常識をひっくり返す存在が現実に居るのだ。

 人類史の大きな転換点となる『樹海の魔女』がもたらす恩恵はどれほどのものか。操る超常の力の原理、人類の誰もが必ず訪れる『死』の先にあるものへの確固たる答え。天動説が間違いであり、猿が人間から進化したという学説よりも宗教そのものの根幹すら揺るがしかねない知識とその裏付けとなる力を持つ存在。

 

 ジャーナリストとしての使命、世界に真実を伝えるという上で私が体験したことを世界に伝えずにはいられない。

 

 『樹海の魔女』にも理由(ワケ)があって世間から離れているのではないか、ということを取材をした際に当事者たちから尋ねられたがそれでも伝えるべきだと私は考えている。

 

 死後の世界が証明された時の世界の混乱、宗教という人の心の支えが破綻する危険、『樹海の魔女』の力を目当てに大勢の人が訪れることだって、『樹海の魔女』が危惧していることを取材対象の体験談から察していた。それを恩を仇で返すのか、と当事者から罵られることもあったが止まるつもりなど毛頭ない。

 私は彼女を心から崇めている。敬虔な信徒が神の威光を遍く人々に伝えるが如く、命を救われた恩は『樹海の魔女』の地位と名誉、そして威光を人類に知らしめることで報いたかった。

 

 古代より神の恩寵に(あずか)った人間がその威光を讃え伝えることで報いてきたように、私も『樹海の魔女』の素晴らしさを広めることに人生を捧げるつもりだ。

 

 それにもし、彼女が本当に望まぬのならば再び目の前に現れるはずなのだから。

 

 

 

 

 結局は記事として取り上げてもらうことよりも個人サイトの情報発信から始めることにした。

 『樹海の魔女』に命を助けられた人たちの中には絵画の才能がある人がいたので、頼み込んで写実的な肖像画としての彼女の姿を描いてもらった。救われた人ならば100人が100人とも『樹海の魔女』であるという会心の出来、サイトのトップにはその肖像画が最初に目に入るように掲げられている。

 

 サイトのアクセス数自体はあまり振るわなかったが焦らなかった。

 樹海で自殺者が出れば確実に『樹海の魔女』が救うと確信している。だからこそ、彼女を信じる人は年々確実に増えてくるのは目に見えているので、私は釣りをするような気分で気長に待つことは苦ではない。

 

 その日も本業のwebライターの傍らで『樹海の魔女』の情報を纏める作業をしていた。

 東京のビッグサイトで催される『コミックマーケット』。その参加者たちが会場前で並んでいる光景を、ホテルの上層階の部屋からライブ配信があったので作業の傍らで、まるで蟻の群れのように黒い行列が何万人と集まる光景を眺める。

 

 黒い四角いブロック、そこには何千人と集まり行儀よく整列している。それが何ブロックと続く様は壮観であり、ただ俯瞰から眺めているだけのライブ配信でも見ているだけで面白いものであった。

 本来ならこの場所に『樹海の魔女』の情報を纏めた布教用の同人誌の販売も考えていたのだが、残念なことに落ちてしまって計画は頓挫してしまい電子書籍の販売を視野に入れて入稿のための執筆も始めている。

 

 そんな黒いブロックとなった参加者たちを見ていると画面の端の方から迫りくるトラックを発見した。

 中型のトラック、搬入場所間違えたのかゆっくりと彷徨うよな挙動をしながら待機列へと近づいてく。周囲も乱入してきたトラックに視線を向けていたようだが、速度もゆっくりであり騒ぐような事態でもないと遠巻きに傍観するだけで特に行動を示すものもない。私もコンビニに搬入するトラックか何かと思っていたので注目はしていたが危機感はなかったのだが、それは急激に事態が大きく動き出した。

 

 急発進をするトラックがコミケに集まった参加者の待機列に向かって突っ込み始めたのだ。

 

 密集して身動きすら取れない状況、そんな場所に巨大な質量の暴力が迫りくる。

 逃れられる訳もなく、次々となぎ倒されるように撥ねられタイヤに巻き込まれていく参加者たち。まるでローラーで塗ったようにトラックの後には血の道が出来上がり、人を巻き込み過ぎて速度が鈍ったトラックは次の凶行へとすぐさまに動き出す。

 ハンドルを大きく切って横転させたのだ。より多くの人を巻き込み犠牲にしようとする悪意を剥き出しにして、長方形の鉄塊が回転しながら待機列の参加者たちをなぎ倒しそして押し潰していく。

 

 まさに一瞬で訪れた悲劇だった。

 ホテルの上層階から撮影であるので悲鳴などは聞こえないが現場は地獄絵図だろう。巨大な鉄塊の凶器に轢かれ、大きなタイヤに潰された人体、数万人が密集している状況でのパニックは二次被害を生み出して人の将棋倒しという新たな悲劇を生む。

 まさに開いた口が塞がらないとはこのことだった。編集作業の傍らで眺めていたライブ配信が突如として地獄絵図の大量殺人現場となったのだからパソコンの前で固まることしかできない。

 

――――しかしそんな惨状と騒動の波は次の瞬間には静まり返ることとなる。

 

 惨劇の現場に光り輝く人が宙に現れ浮いていた。

 後光が差すかのような光は見る者にカメラ越しであろうと『畏敬』の念を抱かせる。このライブ配信で見るだけでも、まるで本物の神様が現れたような錯覚に陥るのだ。惨劇の現場であろうとも、間近でその人を見たのならば呆けるという感情以外を失ったようにパニックは収まり、ただ首を上げてその宙に浮かぶ存在を眺めることしかできない。

 

 私はその正体が『樹海の魔女』であると理解した時、叫び声をあげるのが止められなかった。

 急いでライブ配信のサイトを巡り、その現場でスマホを使って撮影をしている人の配信に接続する。

 

 超然として表情で『樹海の魔女』が血溜まりとなった地面に降りる瞬間が目に飛び込んでくる。人外の美貌、人の姿でありながら人ではないと教えてくれる超常の力を放つ『後光』。まるで女神が降臨したかのような優美な所作、無駄のなく洗練された白い腕の指先が頭を潰されて脳を失った人の身体へと触れる。

 

 途端、その物言わぬ肉塊だった死体は()()()

 失った頭部が瞬く間に再生して、まるで最初から怪我などしていなかったように完全な状態で死から復活を成し遂げたのだ。

 

 周囲は超常の現象を前にしてどよめきが大きくなる。そんなことを『樹海の魔女』が気にする様子もなく、次々とトラックに轢かれて撥ねられ死体と重傷を負った人たちを()()()()()()()()()

 内臓を潰された人も、手足が折れた人も、首が折れ曲がった人も、平等に『樹海の魔女』の指先が触れるだけで傷は癒え、死者は生者へと復活し、自分の身に起きたことが信じられないといった表情で傷口だった部位を眺めている。

 

 誰も歓声も悲鳴もあげられない。本物の奇跡を前にして人はただ現実を受け入れることを拒絶するように思考が停止するのだ。得体の知れない『樹海の魔女』が触れようとしても誰も抵抗や拒絶を示すこともない。ただ受け入れて、傷を癒され死から復活する。

 

 まさに神話に語られるような場面で行われる奇跡そのもの。

 

 『樹海の魔女』の対応はあまりにも的確だった。歩むような速さでありながら、数百人の死傷者の身体へと流れるように触れて癒していく。誰一人見捨てることなく、見逃すこともなく、優美でありながら無駄のない動き。

 

 誰も彼女の治癒の邪魔はしない。『後光』の与える畏怖の効果なのか、まるで畏れるように近付けば離れ、遠のけば近づくという参加者たちは『樹海の魔女』に声すら掛けられずにいた。スマホのカメラを向けるだけが精一杯、そしてものの数分もしない内に死傷者であった参加者全員の治癒は終わる。

 残されたのは血溜まりと肉塊の跡だけであり、その凄惨な現場を作り出した犠牲者たちの肉体には傷一つない。

 

 そしてこの段階になって初めて周りに人がいることを意識したのか、まるで神のような超然として表情から人間らしい不快感を強く示した表情になり。

 

『もうこの世界に現れないです』

 

 たったそれだけ。

 これだけの奇跡を起こした『樹海の魔女』は誇ることもなく、淡々と事実を述べるかのような口調で言い放ち。そして次の瞬間には大勢の参加者たちに囲まれているにもかかわらずに、影も形もなくなってその場から消えてしまった。

 そして『樹海の魔女』の雰囲気に呑まれて静まっていた群衆は我を取り戻したかのように騒然となる。何が起きたのか、何者なのか、これは現実なのか、そして血溜まりの惨状を改めて認識し、小さく悲鳴はあがるが大きなパニックになることもなく、ただ目の前で起こった現象の答えが見つからずに呆けている参加者たちが大勢映し出されている。

 

 本物のオカルトが現実に現れた。『樹海の魔女』が世間に露呈した。それは強固だった現実が大きくひっくり返った瞬間だった。

 

 私のスマホに、パソコンに、次々と『樹海の魔女』を信じてこなかった人間たちからの連絡が入る。

 誰もがあの『コミックマーケット』の現場に現れた超常の力を操る女性の情報を求めていた。私は手の平を返すようにマスメディアが近付いてくる状況に怒りではなく喜びを感じてしまう。これで大勢の人間に、世界中の全てに『樹海の魔女』の存在の証明され、彼女の言葉を余すことなく人類全体に伝えられるのだから。

 

 まさに我が世の春であった。私の目的の全てが達成され、これから更なる躍進が胸を躍らされた。

 

 敬虔な信徒として『樹海の魔女』の全てを私から伝えられる、そう思っていた。

 

『あっ、四色カクテルです!樹海の魔女さんの言葉を私から伝えるように頼まれました~!みなさん、よろしくです!えーと、早速メッセージが届きました!あんまり騒ぎすぎて世間が落ち着かない上にオカルトやカルトが出てきたので、当分の間はラジオを通して情報発信する!とのことです~!』

 

 その栄光は僅か1年もしないうちに終わってしまった。

 なぜなら、『樹海の魔女』は私ではなくローカルラジオ局に勤める学生DJの朱里という少女を代弁者として選んだのだから。

 


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