お詫びにチート全盛りしたけど、現代日本じゃ使い道がない。 作:チート全バフ
数百人の死傷者を救った本物のオカルト存在。
指先で触れるだけで傷口が癒え、死者は蘇るという奇跡を起こす女性となれば、世界中のマスメディアが放っておくことなどあり得ないだろう。誰もが正体を知りたがり、そしてその『力』の秘密を求め、恩恵に与ろうとする人たちは連日のように東京ビッグサイトの現場に訪れていた。
伝聞でも書物に書かれる伝説でもない。カメラの映像を通して、骨が露出するほどの傷口が癒え、頭部を失った死体すら元通りに蘇り、『畏敬』を与える後光が差す存在がその奇跡を見せれば、世間が熱狂の渦に巻き込まれるのも仕方のないことだろう。
宗教家が謳う聖人伝説、神の御業、古くから語られはすれど大衆の面前で映像記録として残るのは人類史で初めて。現実という強固な世界に
次はどんな超常の現象が起きるのか、あの女性は世界に何をもたらすのか、その力の秘訣とは知ることはできるのか。舞台の幕開けを心待ちにするように、世界は常識が一変するような
『樹海の魔女』は最初は魔女という蔑称ではなく、聖女や女神と言われるような存在として世界に伝えられていた。
後光が差す人外の美貌といえる女性、指先で触れるだけで傷は癒え、空を飛び、次の瞬間にはその場から消える力を有している。その起こした奇跡も万人が讃えるような善行そのもの。名誉を求めず、行いに驕らず、対価すらも望まない。ただ数百人の死傷者を救ったあとはその場から静かに立ち去る。その姿はまさに聖人であっただろう。
だから、世界は彼女を善なる超常の存在として持て囃した。
様々な宗教は自らの信ずる世界観の善なる者に位置する存在であると謳い、その手柄を自分たちの組織の利益にしようとするものは後を絶たない。なにせ、目に見える本物なのだ。その存在を広告塔に据えれば宗教界隈で覇権を握ることが確実だと思えるほどの強大な力と見目麗しい容姿をした彼女なのだから。
このまま何事もなく順調にことが進めば、彼女の立ち位置はどうあっても善なる存在として扱われるはずだった。
――――それをとある日本の記者がぶち壊しにするまでは。
都市伝説上の『樹海の魔女』としての彼女は宗教的にみればとても危うい立ち位置だった。
魔女という呼称もそうであるが、彼女が信じる
それは神はひとりのみと考える一神教の宗教のみならず多神教からしても、彼女は異端の神を崇め超常の力を操る魔女そのもの。
彼女がただの人間であるならば別に宗教家たちも騒がなかっただろう。だが、彼女は本物の奇跡を操る力を有する異端の魔女であり、それが世界に露呈して絶大な影響力を持ち得る潜在的な脅威となれば迫害という選択を取らざるを得なかった。
万病を癒し、死者すらも復活させる力。その奇跡によって魔女が信じる神を崇める宗教を立ち上げればどうなるか。
数千年前の書物の言葉と、言葉ではなく目に見える形として提示される奇跡。そして魔女から語られる世界観となれば現代人の感覚からすればどちらが信用に足り得るか、という現実的な問題になってくる。
寿命があるか怪しい超常の存在、それが何十年、何百年と本物の奇跡を使って布教を続ければ世代を経るごとに宗教の勢力図は大きく塗り替えられることは確実であった。自分たちの世代と子と孫世代までは守れても、文明がより発展して価値観も大きく変容していく社会で魔女の立ち上げた宗教の影響は未知数だ。
共存の道は最初から存在しない。日本の記者がもたらした魔女の提示する世界観は、この地球の多くの宗教と相容れられるものではなかったのだから。
他の超常の存在を根本から否定し、本物の神を騙る存在の肖像画を
彼女がまだ神仏の類の存在を肯定するような存在であるならば味方となる宗教は数多くあっただろう。
しかし記者が伝える魔女の思想は、
これは暗に、多神教の神や精霊の存在すらも否定していることと同義であったのだ。
かくして彼女は自らの言葉で語るよりも早く、宗教家から忌み嫌われて魔女のレッテルを貼られることとなる。
その影響下にあるマスメディアは聖女や女神という呼称から一転して、魔の手先である魔女という蔑称で語られることが徐々に多くなる。とはいえ、行い自体は否定できるものではないので、有力な宗教勢力は次に魔女が現れたときのために、彼女を本格的に叩くための準備は着々と進めていた。
陣営に取り込めるならば守り、取り込めないならば世論を操作して社会的に抹殺する。そんな奸智術数を巡らせる情勢を幸運にも知らずに、魔女の烙印を押された彼女は表舞台から完全に退いてしまっていた。
何週間、何か月も経過しても魔女は世界の表舞台に立つことはない。
各国の諜報機関だって超常の力を操る魔女を必死で探していた。
瞬間移動としか言いようのない能力など、既存の要人警護のマニュアルを根本から覆しかねない力。本人にその気はなくとも、そんな力が現実に存在すると知ってしまった以上は、魔女本人からその力の原理を聞き出し対応策を練らなければならないのは当然のこと。
しかしどれだけ監視カメラの映像から顔認証システムで調査しても引っかからず、SNSなどを通してもその影も形も見つからない。この情報化時代において完全に透明人間な魔女に担当部門はほぼ匙を投げていた。
超富裕層のコミュニティは魔女の思想や信条などより、その能力を高く評価していた。
万病を癒す力、どれだけ金銭を積もうと健康を買うことにも限界があることを知っており、場合によっては若さも買えるかも知れないと思うと何としても魔女をコミュニティに引き入れたかった。
日本のマッサージ少年の勧誘も二度目で半ば成功していたので、他の勢力のように焦ってはいなかったが、それでも機会があったら何としても手に入れようと高額な賞金を懸けて情報を集める。
どの勢力も業を煮やしていた。待てども待てども魔女は現れず、成果を早く出せと上からせっつかれる日々。
しかしそんなことを言われたって魔女が表舞台に出てこないのならば仕方がない。とはいえ、仕事として働いている以上はある程度の成果を出さなくてはいけないことも理解しているので、とりあえず形だけでも調査が前進していることを上に報告したかった。
魔女の代弁者を語る日本の女子高生に目を付けたのだが、信ぴょう性も薄い上に情報としての信用度は低かった。調査はしたがテレパシーで魔女と繋がっているという正気を疑うような内容、この程度のカルトやオカルトは当たり前に蔓延る昨今なのでもっと確実性の高い情報を持つ人物に白羽の矢が立った。
『樹海の魔女』の情報を誰よりも早く届けた第一人者。
敬虔な魔女の信徒と公言して憚らない記者は、魔女と親密な関係であると知人や友人たちに話している、という情報が飛び込んできた。情報の信用性に難はあるが、それでも記者の残した魔女の情報はどれも正確でありその点における部分は信用されているので彼が標的になることに決まってしまう。
とある諜報機関が記者を狙い始め、その情報を入手した別の諜報機関も同じような行動を起こし、そして別の諜報機関も組織も他の組織が記者を標的にするのならば情報は確かなのだろうと、まるで伝言ゲームのように『樹海の魔女』の情報を求める様々な機関から有力な情報を持つ人物として認知されるようになる。
記者は不運であった。誇大妄想甚だしい魔女との関係を他者に吹き込み、その嘘で自分の身が狙われる事態となってしまうことに。
『樹海の魔女』の記者として名を馳せてしまったばかりに、魔女と親密な関係にある男という嘘に信ぴょう性を持たせてしまう。
――――名声の代償を払う時が、本人の知らぬ間に迫っていることに彼は気付かない。