お詫びにチート全盛りしたけど、現代日本じゃ使い道がない。   作:チート全バフ

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とある記者のまとめ①

 『樹海の魔女』という存在が世間に露呈するきっかけとなった事件はコミケでの無差別殺人――――厳密には未遂。

 

 その当時の『樹海の魔女』の知名度はほとんどなかった。

 富士の樹海に現れるという魔女の話など、現代日本でどれだけの人が真に受けるというのだろうか。体験談や証拠としての魔女に渡された神様の肖像画の写真を公開しても、新手の新興宗教の布教の手口と思われて都市伝説の域を超えることは決してない。助けられた人だって自分が自殺をしたことを公言するようなもので現実で口にするのも憚られる。

 

 筆者も体験をしなければ決して信じられなかっただろう。

 

 

 

 駆け出してのwebライターとしての仕事に嫌気が差し、ギャンブルに手を出して破滅した私は富士の樹海で自殺をしようとしていた。

 その場所を選んだ理由なんて特にない。ただ自殺の名所として知られていたから、自分の死に場所にちょうどいいなどと適当なことを考えて訪れたのだろう。首吊り用の縄、スーツのポケットには遺書と遺体処理の手間賃として幾許かの万札。

 

 そんな如何にもな装備で景観の良い場所で縄を吊るして首を括った。

 

 感慨もなく、恐怖もなく、ただ疲れたからという理由で自殺を始めて私はその時になって後悔が襲う。

 締まる縄が首を絞める圧迫感に呼吸ができない苦しさ、心臓が今になって生きたいと足掻くかのように激しい鼓動が胸を打ち、大地を求めて足先は暴れるが虚しく空を切る。

 それは本物の絶望であった。逃れようもない死を前にしてやっと生の大切さを理解する。溺れた者が水面から顔を出した、息を吸うことの大切さを知ったように、首を括って吊り、死が確定した段階となって初めて私は命の価値を理解した。

 

 あの絶望と恐怖は今になっても忘れることはないだろう。

 

 狭まる視界と迫りくる死の感覚、私という存在が遠のいて消えていく恐怖。死にたくないと、心の底から思えた瞬間に絶命する姿は滑稽であっただろう。

 そう、私は、あの時に確実に死んだのだ。真っ暗な闇が意識を閉ざしたのだ――――そしてその先に救いを見つけたのだ。

 

 

 

「自殺は地獄行きですから止めてください」

 

 蘇った安堵と死の恐怖で震えている私に()()がそう言い放つ。

 首吊り用の縄は首に括られたまま、腕に嵌めた時計が教える時間はあれから1日も経過している。脱糞と失禁、弛緩した肉体があらゆる汚物を体内から排出したように服は汚れて不快感が凄まじい。そしてその感覚が私はまだ生きていると教えてくれる。

 

 見上げると()()()()()()()は自殺をした愚者に対する不快感を隠そうともせずに侮蔑の視線を向けていた。

 

「あなたが……『樹海の魔女』ですか?」

「そう言われていますね。呼び名なんて勝手に付けられただけで私は魔女でもなんでもないですが」

 

 その容姿は魔女と呼ぶに相応しい人外の美貌を宿していた。

 顔立ちも四肢もあまりにも整い過ぎている。自然物ではあり得ない完璧な均衡、まるで作り物めいた魔女は嫌悪を宿した瞳でこちらの目を覗いてくる。全てを見通すように、どんな嘘偽りも見逃さないといった、そう確信させるほどの力を宿した瞳はただ私の心の奥底までジッと見つめていた。

 視線に釘付けにされたように私は身体を動かすことができない。

 

「ギャンブルで破滅ですか。死ぬ動機も感情もそこまで強くないですね。ただなんとなく生きるのに飽きたから死んだ。そして死ぬ段階になって初めて、()()()()()()()()()()()()。よくいるタイプですね……なら、あなたには特に言うこともないでしょう」

「――――ッ?!」

 

 恐るべきことに魔女はたったそれだけで私の全てを見通した。

 死ぬ理由も、感情も、死の直前に感じた恐怖と後悔も、そして私がもう自殺する気がないことも魔女の言葉は正鵠を射る。都市伝説で語られる存在が、こうして目の前に居ることにある種の感動を覚えてしまう。本物の超常、この世界には残された最後のオカルト、『樹海の魔女』は冷ややかな視線を向けたままに本物の神様と言われる肖像画を渡す。

 

「私の都市伝説を知っているようですので細かい説明は要りませんね。これを受け取ってください」

 

 原理なんて分からないが、目の前でトランプのカードのような肖像画が浮いている。

 

「これも魔術などの力なのですか?」

 

 目に見える形で超常現象を操る存在など、目の前の『樹海の魔女』しか知らない。

 仕事でオカルト向けの記事を書いたり、取材にも出掛けたこともあるが、ここまで本物だと確信させる存在など出会ったこともない。そしてそんな存在が、()()()()()本物だと言い、それ以外の全てのオカルトを否定するというのなら、この魔女のルーツは何なのかと好奇心が擽られる。

 

 私の問いに『樹海の魔女』はつまらなさそうな表情でしばらく沈黙して。

 

「受け取るのか受け取らないのか、どっちですか?」

「あっ、う、受け取ります……ッ!」

 

 『樹海の魔女』は私の言葉で露骨に不機嫌になってしまった。

 正体を隠すのにそれなりの理由があるのか、超常の存在の理屈など常人には理解できないものなのか、知りたかったがこうして出会った証拠となる肖像画だけはなんとしても確保したくてすぐに受け取る。

 

 材質は加工された紙……?魔術的な物じゃないのか……。

 

 てっきりこういうアイテムだから超自然的な物から作られたかと思っていたが、手に取って触るとどこにでもありそうなただの加工された紙であった。

 

「最後にもう一度、自殺は地獄行きだから二度としないように。これは善意ではなく、経験から地獄堕ちを見過ごすことが不快なだけの身勝手な理由からくるものですので、勘違いしないでくださいね」

「はい……」

 

 自殺は二度と御免だった。想像以上に苦しくて恐ろしい。その先に地獄まで待っているのでは堪ったもんじゃない。

 『樹海の魔女』の警告を素直に聞いて返事をすると、彼女は用が済んだと言わんばかりに満足そうにうなずいて。

 

「私とこうして出会うことは二度とないでしょう。そして訪れた死を二度も回避することも。命は大切に、そして善行はなるべく積んで、それでも人生をそれだけに捧げないほどに。あなたは……大丈夫な方なので、適当に生きるのが良いでしょう。最後に何かありますか?」

「取材を申し込みた――――」

「――――お断りします」

 

 最後に人間らしい悪戯な笑みを浮かべた『樹海の魔女』はその瞬間に姿が掻き消えた。

 まるで狸か狐に化かされたように、静謐な木々に囲まれた樹海の中でただ一人残された私は手にした神様の肖像画を見つめ。

 

「『樹海の魔女』か……本物だと分かったなら記事にしないとな」

 

 webライターとして久しく忘れていた熱意というものを取り戻している私がいた。

 

 

――――それからしばらくして、様々な体験者から話を聞いて記事の内容が纏まった頃になり、『樹海の魔女』が大衆の面前に現れるような出来事が起こる。


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