お詫びにチート全盛りしたけど、現代日本じゃ使い道がない。   作:チート全バフ

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『変身』すると心まで変化する

 自分たちの才能に絶望して死を選ぶ、ある種の自己陶酔によって自殺を選んだ少女の話を聞いて私は反応に困っていた。

 ロックな人生、音楽に身を捧げた者のヒロイズム的な自決、自殺する理由に適格も不適格もないがそんな雰囲気に中てられた結果が、バンドメンバーと服毒心中は馬鹿なんじゃないかという思いを抱いてしまう。

 

「やっぱり最期には後悔が残りました。ロックは生きてこそ刻めることだって……それで、そのみんなも蘇らせてください……」

「分かりました」

 

 死者の復活は順番に行うようにしていた。

 自殺という行為の果てに肉体はどのようになるのか、そして確実に自分は死んでいたことを実感させて再び死のうとすることを防ぐために。真っ当な感性をしていれば、腐臭が漂う虫食いの自殺体を見れば死ぬ気は失せるだろう。幸いにして、少女たちの自殺は若気の至りによる陶酔的な心中行為である。冷や水をぶっ掛ければ頭はすぐに冷えてくれる。

  

 目の前で腐っていく友達の死体を眺めれば、死によって訪れる肉体の末路の恐ろしさを彼女は理解していた。

 

 この心中を提案したバンドリーダーの少女は朱里(あかり)という高校二年生だった。

 髪色も僅かに赤みがかり、他の三人少女たちもそれぞれ青、黄、緑、とキャラクター性を明らかにするために染めている。自分のもたらした罪の重さと、死の恐ろしさと醜さを理解して身体の震えが止まらないようだ。『四次元空間』から取り出したポッドの珈琲を差し出すが、口を付けずにその黒い水面をただ見つめている。

 

「魔女って本当にいるんですね。物語の世界にしか存在しないファンタジーなのかと思ってました」

「そんなものいないですよ。少なくとも、私は私以外の魔女と言われるような異能を有する人は見たことありません」

 

 朱里という少女の中の私の立ち位置は魔女であるようだ。

 流石にムキムキマッチョのお兄さんの姿で現れる訳にもいかず、『変身』でサブカル系の芸大生のような姿で少女と対面しているのだが死の恐怖と超常の存在を目にした人間の畏怖の宿った瞳でこちらを視線を向けてくる。

 

 クリーム色のカーディガン、ショートボブの茶髪、そして樹海であるのに裾の長いスカート。『変身』は服装まで用意してくれるから便利であり、マッチョな男よりも大学生のお姉さんの方が遥かに話しやすいだろう。

 

「それじゃあ、順番に蘇らせますので混乱した時に備えて彼女たちを落ち着かせてください」

「…………分かりました。みんな、ごめんね」

 

 生物が完全に死ぬには時間が掛かる。

 心臓が止まっても、肉片になっても、その根源たる魂さえ残留しているのならばその存在は死んでいない。『癒しの手』という力にとっては潰れた肉塊すらも、魂さえあの世に行っていなければ治癒ができるのだ。

 

 触れれば健康な状態になるまで肉体を治癒できる。その対象の健康に対する認識によって効果範囲に個人差はあるが、生命活動を停止した生物を蘇らせるには十分であり、糞尿を垂れ流した衣服と虫を身体に這わせるという状態に悲鳴を上げる少女の悲鳴はその命を軽んじた罰として受け入れてもらおう。

 

「あっれ……?へっ、なにこれ……ひぃう!なんでこんなに――――」

(あおい)!よかった……ッ!蘇ったんだね!ごめんね……ッ!私が軽々しく死のうなんて言ったばっかりに――――」

 

 朱里が泣きながら蘇ったばかりの(あおい)という少女に抱き着いてひたすら謝罪を続けている。

 服毒死から目覚めてれば汚れた肉体、そして泣き付いて謝罪をする友達、隣には死体となった他の二人。状況を正しく把握しろという方が困難であり、悲鳴と狂乱の最中にある葵を必死に宥めている朱里を眺めながら、これがあと二回も繰り返さなくてはならないと思うと少しだけげんなりする。

 

 肉体に精神が引っ張られてるね……『変身』の弊害としては異形になると取り返しの付かない事態になりそう。

 

 私の心の形は凪という少年とは少しだけ違う。

 記憶も経験も全てを保持しながらも肉体という器が変われば。それに合わせて心も水のように形を自在に変える。あまり性別や容姿を弄るのが嫌な理由はここにあり、前世である自分の姿ならばともかくとして、こんな風に性別も容姿も別人になると自分という境界が酷く曖昧になる。

 

 少なくとも、凪という少年であれば少女たちの脆い心を寄り添い支え合う姿に同情をしていたはずだ。

 

 今の私はどこか冷笑的で憐みよりも嘲笑、命を粗末にする少女たちに侮蔑の感情を抱いている。そしてそんなことを客観的に観察して自己嫌悪に陥るこの面倒臭さが私というアイデンティティーなのだろうか。

 

 

 

「自殺はこれからやらないでね。正直、あなたたちが死ぬのはどうでも良いけど地獄行きになるのは気分が悪い。あっ、これは宗教的な話じゃなくて私の体験した事実だから。自殺は地獄に堕ちる、シンプルで分かりやすいルール。それを心に留めておいて」

「はっ、はい……魔女さんがそう言うなら正しいのでしょうね」

 

 少女たちの中でとうとう私の地位は魔女として不動のものとなったようだ。

 死んだ人間を生き返らせる女性、それを言い表すなら魔女としか言えないだろうが魔術に躓いて苦悩している私からすると実情を知らなくとも嫌味を言われてる気分になり、つい舌打ちをしてしまう。嫌な女が極まっていて余計に自己嫌悪に陥って更に嫌になる。

 

 とりあえず、本来の私ならば絶対にすることをしておく。『四次元空間』からラミネート加工した絵を渡す。

 手にした少女たちはどこから取り出したのか気になっていたが、その疑問を口にするより早く忠告する。

 

「それ、本物の神様の肖像画。もし死後の世界で出会っても、この神様だけは絶対に否定しちゃだめだよ。どんな偉人や聖人だろうと信じる神様と違うからって認めなかったら容赦なくこの神様は地獄に叩き落すから」

「本物の神様……?えっ、それってどういうことですか?」

「そのまんまの意味だよ。私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まぁ、別に信仰しろとは言わない。ただ出会ったら絶対に神様として認めて相応しい態度を示せってこと」

 

 『絵画の才能』という絵に関する技術の上達速度が凄まじい私は神様の肖像画を描いている。

 新興宗教を興すつもりはないけど、機会があったらこうやって本物の神様の存在を伝えておかなくてはならないという義務感を抱いているからだ。どんなに善行を積もうと善良であろうと神として存在を認めなければ恐ろしい地獄に突き落してくるのだから、地獄の経験者としては本心から少女たちに警告をしてしまう。

 

 捻くれて嫌な女としての私であっても、それでも地獄に堕ちる恐ろしさと回避方法を伝えなければ気が済まない。

 

「それと……あなたたちは今すぐ手を繋いで」

「わっ、分かりました……ッ!そ、それでこれからなにが――――えっ?」

 

 少女たちを連れて樹海を歩くのは面倒なので『千里眼』で人目と監視カメラのない場所を確認して『瞬間移動』ですぐに移動する。目の前の光景が突如として変わり、混乱の極みにあり呆けている少女たちに『四次元空間』から引き抜いた数枚の万札を無理やりその手に握らせる。

 

「こっから歩けば数分で樹海の出口。服は汚いから着替えて、温泉にでも入ってご飯を食べなさい。あとはあなたたちが居なくなって心配している家族の下へ帰って後の人生についてよく考えること」

 

 まるで口煩い教師のような物言いだ。でも、そういうことはしっかり言わないといけない。

 

「自殺して蘇るなんて普通はあり得ないんだからね。次やったら、間違いなくあなたたちの魂は地獄に堕ちる。これは善意の忠告じゃないからね。ただ私にとって地獄に堕ちるという体験は本当に嫌なことだから、できれば誰にも体験して欲しくないだけ。そして魔術とかオカルトとかそういう胡散臭いものには絶対に関わるな。この世界に本物は私しか存在しないから」

 

 こんな経験をしてオカルトに嵌り始めたら気に食わない。

 矢継ぎ早に言いたいだけを好き放題に私は放って煩い子供の口なんて開かせない。

 

「さっさと馬鹿げたヒロイズムに酔って自殺したことを忘れて、音楽を捨てるか続けるか、どっちでも良いけど次に進みなさい。善行だって積んでおいて、それでも人生を投げ打つほどじゃなくて日常で出来る範囲で積むのよ。死後のために今の人生を捨てるのは勿体ないのだから。それと色々と他にも言いたいことがあるけど、面倒だから端折って最後に一言だけ」

 

 少女たちが大きく息を吸い込む姿が目に映る。この最後の一言が別れになると理解しているから、だから被せるように私も遠慮なく言葉を放つ。

 

「ありがとうございました!」

「これは私のためにやっていること。でも、感謝は受け取っておく」

「それともし弟――――」

「弟子は受けつけてないから。そこら辺の図々しさがあれば、あなたたちは大丈夫そうね」

 

 こんなにも図々しくもバイタリティ溢れる少女たちの姿にちょっとだけ口端が緩むのが止めらない。

 最後の最後に私の笑みをみて少しだけ晴れやかな彼女たちに手を振り『瞬間移動』でその場からすぐに去る。一期一会の関係、これが少女たちの人生にどう影響するのか少しだけ気になりながらも樹海の草原で大きく息を吐いて『変身』を解除する。

 

 そこには魔女と言われた女性ではなく少年が目を瞑り『千里眼』で少女たちが駅まで歩く姿を見守っていた。


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