お詫びにチート全盛りしたけど、現代日本じゃ使い道がない。   作:チート全バフ

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自殺は困る

 基礎となる土台作りから始めた魔術の探究であるが、やはり最初は地味なものになったのは予想通りだった。

 

「魔力を圧縮して解放することで爆発を起こす。うん、原始人が棒先に石を括り付けた程度の進歩だな……」

 

 富士の樹海のなかで、平原のように拓けた場所で魔術の実験をすること数時間、ただ圧縮した魔力を手榴弾のように投げては爆発させる行為を繰り返して楽しんでいた。『無限魔力』があるからといって調子は乗らず、爆竹を楽しむ程度の規模でひたすらに魔力で構成されたボールを投げて続けている。

 技術のスキルツリーが初歩の初歩すぎてこれしかないのだ。『魔術の才能』があろうと流石にゼロから出発ではどうしようもない。

 

 圧縮したエネルギーの解放。その辺の鳥の知能でも思い付きそうな魔術であるが、これのおかげで魔力とはなんなのかという漠然としたイメージは掴めた。

 

「現実に干渉して改変する力と言えば素晴らしいほどの可能性は秘めてるけど発展させる側なのが悲しい」

 

 数学で言うならば数字を使い始めた段階。形もなかった魔力という力を把握しそれを集約させれば何が起きるかを発見した。

 才能があっても階段を飛ばすように技術は発展できない。むしろ、魔術という分野の開拓者という立場だからこそ基礎という地盤をしっかり固めて、知識に誤りがないように慎重に進めなくてはならないのだ。大学生のレポートや研究者の発表のように目聡く問題点を指摘する人は存在しないのだから。

 

 人類の偉大なる発明であるコンピューターも、元はただの電子計算機だった。この魔力を集約するという技術もいずれは拡散と圧縮が0と1を形作り何か大きな発明に繋がるかも知れない。

 少なくとも、俺はそうなったら良いなと思っていた。

 

「『光る玉』……うん、ただの光ってる玉だコレ」

 

 魔力を圧縮させ状態を維持すると輝き出す術を『光る玉』と名付けた。酷いネーミングセンスだが魔術の基礎の基礎である魔力は、世界を改変させる力そのものなので分かりやすいイメージが大切なのだ。

 魔力の圧縮と拡散による解放のもたらす爆発は『爆散』。ストレートすぎるが、どうせ魔術を使える存在はこの世界に俺しかいないのだか別に問題ないだろう。

 

 どちらも現段階では使い道なんて全くない。

 神様から授かった『才能』と『力』の方が遥かに魔術っぽい現象を引き起こしているので、独学で与えられた『才能』と『力』を魔術という形に発展させた程度の満足感くらいしか得られなかった。

 富士の樹海に来るために使った力である『瞬間移動』と『千里眼』の方が悲しいことに魔力のボール作りより役に立つ。

 

「技術は積み上げが大事なんだ!そうだ!数学の定理だって大天才が次々と発見して積み上げて現代の科学に貢献したじゃないか!」

 

 声に出して自分を鼓舞しなきゃ心が折れそうだった。万が一の身バレに備えて『変身』で姿を変えているが、正直なところこっちの方が遥かに魔術である。

 男性像の具現化たる究極の肉体を再現した生きた芸術と言ってもいい美しい姿。まるでダビデの作品のように肥大化しながも引き絞られた筋肉、『万能武術』によって所作の流麗な動き、『変身』をできるなら俺は美少女よりも男らしさを追求したいタイプなので、前世の筋トレ道は道半ばで途絶えたが今世でズルとはいえ極限まで鍛えられた男となって満足である。

 

 『四次元収納』より姿見を取り出して己の完璧な肉体を眺める。

 

「いずれは『変身』に頼らずにこの究極の肉体美を体現するぞ……ッ!」

 

 目指すべき目標として定めた姿。

 『万能武術』と『気功術の才能』によって肉体を知り尽くした俺がなれる到達点の頂。『変身』で好きに容姿を弄れるのになぜ鍛えるのか、と問われれば自分の力だけでなりたいからである。

 これは山登りのように何の記録にならなくとも登り切ったという達成感、ぶっちゃければ自己満足の世界なのだから。魔術の利便性と発展性を考えても『力』を使った方が遥かに凄いし楽である。それでも悩みながらも頑張ることが楽しいからしているのだ。

 

 そんなことを考えていると哨戒中のシーツのお化けが現れ『テレパシー』を介して連絡が入る。

 

「んっ?どうした?」

 

――――自殺した人間の死体。四人。

 

「マジかぁ……それ死んだばかり?」

 

――――腐敗僅か。蘇生可能。

 

 生物にもよるが三日間くらいは蘇生が可能である。

 あの世に行く前まで肉体に残留する魂、それが残っている限りは俺の『力』でどんな状態だって生き返らせられる。極論、肉塊の一部であろうとも魂さえ残っていれば再生して蘇るだろう。車に轢かれて敷物になった猫すら元通りの姿になるのだ。

 色んな宗教に助走を付けて中指立てながらぶん殴る行為な上に、倫理的にもちょっとどうなの?って気分になるので積極的にはやってない。というか、本物の死者復活はラインを超えて過激な原理主義者に殺しに掛かられる未来が見える。

 

 それでも自殺者を発見したら俺はなるべく蘇生させるようにしている。

 

 地獄で会った人の話を聞くと自殺は地獄行きっぽいからなぁ……。個人的に色々と考えたうえで絶望の果てに自殺したんだろうけど、地獄行きをそのまま見過ごすのはその世界で責め苦にあった俺には出来ないな。

 

 本人の気持ちなんて知ったことではない。この世で絶望してあの世で死ぬ程後悔しても後悔しきれない魂たちを大勢見てきた俺からすれば、地獄に堕ちようとしている魂は見つけたら全力で止めなければならない。

 どんな救いようのない極悪人だろうと後悔して救いを求める責め苦の体験者からすれば死者の尊厳を踏みにじろうとも堕ちる前に蘇らせる。

 

「場所は?」

 

――――こっち。

 

 シーツのお化けは事務的な口調で告げる。玩具としての設定がないぶん、幽霊としての在り方の人格なのだろう。

 

 まるで鬼火のように仄かに輝くシーツのお化けに連れられて大樹の下で高校生たちの死体を見つける。

 学生服を着たままでブレザーを着た女子高生、死体にはそれぞれ楽器を胸に抱いて仰向けになっている。ギター、ドラムのスティック、電子鍵盤、マイク、とあの世でバンド活動するための副葬品のようだった。

 

「死んで……二日も経過してないな。糞尿の香りと腐臭、うん、人間は綺麗に死ねないもんだ」

 

 死肉を貪うとする虫、腐臭、糞尿、着飾って死んだつもりだろうと死に様は晒せば醜くなる。

 女子高生の心中死体を見ても俺はあまり動揺しなかった。本質は魂であると知っているので肉体は器でしかないと知っているから。そんなことより四人とも魂が残留している辺り、生に対して強い未練のようなものがあるのだろう。死期を悟った者の魂は綺麗にこの世から去っていくのと比べると、やはり最後に後悔が過ぎったのが感じられる。

 

「とりあえず蘇らせるか。地獄に堕ちてないから希死念慮はあるだろうけど、大抵の人間は死の直後に後悔と絶望に襲われるもんだし……まぁ、なんとかしてみるか」

 

 四人のバンドマンの絶望がどの程度のものか知らないが、地獄に堕ちるのだけは阻止するために『力』によって蘇生を行う。

 


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