お詫びにチート全盛りしたけど、現代日本じゃ使い道がない。 作:チート全バフ
深夜、ふとした気配で目覚めた俺は窓から煌めく星々の夜空を眺める。
「どうしましたか、創造主様?」
「嫌な感じがしてね。空にその原因があるようなんだけど……何も見えないな」
『危機察知』という力が反応するので周囲を窺うが異変はない。
玩具たちも集まって窓辺より上空を見つめ、初めて反応した『危機感知』に不安を覚えた俺は視界を広げるためにベランダの手摺りへと足を掛けて大きく跳躍した。
『万能武術』と他の様々な才能と力によって動かされる俺の身体は、そのまま屋根へと着地して危なげなく二本の足で立つ。
「不死の俺が危険を感じるとしたら核ミサイルとかか?うーん、この力だと大まかな危険が迫ってくる方角しか分からないからぁ」
空のある一点から『危機感知』が脅威を教えてくれるが正体が分からなかった。
『千里眼』の遠見の力を以てしても何も見えず、この感じる危機がミサイルなどのようなものでないことを理解する。そうなると浮かぶ可能性は、隕石などの宇宙から迫りくるモノであるのだが対処に困っていた。
肉眼か『千里眼』で目視できるものなら『念力』で角度を少しずらすことで回避できることだろう。だが、まだこちらの知覚外の存在にまでどうこうできる力など有していない。
単身で宇宙空間を遊泳することも可能であるが、その宇宙から迫る脅威がどこに存在するかまでは行ってみるまで分からない。『危機感知』の探知範囲も把握してないので、何百年を経て地球に辿り着く隕石だとしたら多大な労力を払ってまで今から除去しようとは思えなかった。
太陽系までは視界を『千里眼』で飛ばせるけど、その遥か先の外宇宙には届かないからな。そもそもどの程度を俺にとっての『危機』と判断してるか不明だし。
不死である俺が感じるほどの危機であるが正体不明で手の届かないところとなればどうしようもない。
気配としては微弱であるので脅威がすぐに迫るわけではないだろう。気になりはするが、こちらの射程圏内に入ってから対処をすれば良いと思い、部屋で主の帰還を待っていた玩具たちに気のせいと言い含めてベッドに入る。
外宇宙の脅威……まさか宇宙人?いや、流石にそれはないか。
二度目の人生で死後の世界で出会った神の他に神仏の類と出会ったこともない。
幽霊も魑魅魍魎も、超能力者も魔術師も、およそ超常と呼べる存在など見たことない俺にとっては宇宙人という存在もオカルトの産物であると認識していた。
マッサージと称して病人を治したからといって、SCP財団や映画の『メン・イン・ブラック』のような組織が接触してくることもなかったので、世界には本物のオカルトを取り扱う組織など存在しないのだろう。
隕石が1番可能性高いなぁ……でも、隕石くらいなら対処は簡単だから良いか
現実的な可能性をいくつか浮かべて結論は隕石と判断した。
ただの巨大な岩石の塊ならば『念力』だけでも十分。目に見える範囲ならば対象の重さに関係なく動かせる力は、そういったただの物理的な存在に対してはめっぽう強いのだ。これが気候変動のような形のない現象であるならば別の才能と力を使う必要があるが、空から降ってくる石など地球と衝突されたら流石に困るが宇宙空間ならば手早く処理は済ませられる。
「どっちにしろまだ遠い未来の話だし、今日はもう寝よう。おやすみなさい」
「創造主様の御就寝だ!お前たち、決して音を立てるではないぞ!」
玩具たちが慌ただしく元居た位置に戻る音を聞きながら俺はゆっくりと深い睡眠へと落ちていく。
『あなたも是非、私共の会員制コミュニティにご参加ください』
『いえ、そういうのは興味はないので』
マッサージの施術も細々と続けているが、最近はこういった勧誘活動を受けることが多くなっていた。
珍しい外国人のお客様、金と権力でごり押しして席を取ったことは老人たちの謝罪により理解していたがこういうタイプはどうも苦手である。施術を通して身体に不具合もないのに俺と接触をするためだけにこの状況を作り出し、病人たちよりも自分の都合を優先する傲慢な人間を絵に描いたような人物。
『万能通訳』によって淀みなく会話もできるので、通訳の人も手持ち無沙汰で居心地が悪そうでちょっと可哀そうだ。
『何故だい?コミュニティに属すれば多大な恩恵に授かれる。どれだけの超富裕層が所属してると――――』
利己的な人間って好きじゃないからこの人とは合わないなぁ……。
名前をあげられる富裕層の人は俺でも知っている存在が何人か居た。きっと今までのような、組織としての力を付けるために俺を利用しようとする木っ端の団体ではなく、本物の超富裕層と呼べる権力者や金持ちのコミュニティへの勧誘なのだろうが俺は食指が伸びなかった。
単純に施術の順番を得る為だけに病人を押し退けたのも不快だし、その過程でボランティアで協力してくれる老人たちに大金をばら撒いて懐柔しようとする品のなさが嫌いだった。
将を射んとする者はまず馬を射よ、と言うように本丸を攻める前に俺の活動を支えてくれる老人たちを狙うのは戦略として理解できる。暴力や脅しではなく、金という力による懐柔策だから不満はあるけど怒るほどでもない。だが、このボランティア活動に分かりやすい実益を提示して、行いを穢すような真似だけは許せなかった。
善意を金に換算するような行為は下品としかいいようがない。
堕落を招く悪魔のように協力している老人たちの厚意を金で汚すような品位を貶める行い。綺麗な水に泥をぶち込まれた気分になり、それがお前たちコミュニティの手本となるやり方と言うなら印象は最悪だ。
『君の力は莫大な利益をもたらすだろう。私たちのコミュニティがより効率の良い稼ぎ方を指導してあげよう』
その物言いに俺は怒りを通り越して呆れという感情を抱いてしまう。
明らかにその勧誘は悪手であった。金銭を必要としないマッサージ活動を行う俺に金をチラつかせるという選択肢など、それで本気で靡くとでも思っているのだろうか。通訳の人の表情も失策を悟って狼狽えているし、そもそも超富裕層というトップクラスに頭の回るであろう人で構成されたコミュニティで、なぜこの程度の人間心理を理解しない者が選ばれたのだろう。
勧誘をするなら事前にプロファイリングを済ませ、専門の交渉術に長けた人を派遣すべきだろう。そうすれば俺だって1流の口車に誑かされる可能性だってあった。
大方、このIT長者がコミュニティ内の地位の向上を狙って先走ったのだろう。そうでなければ頭の悪さに超富裕層の名前が泣くし、それに本来なら成功の芽のあった勧誘も完全に潰えたコミュニティに同情する。
『すいません。お帰りください』
『待て、本当に良いのか?これはチャンスなんだ――――』
『帰ってください。あなたの失策は翻訳の方が理解していると思うので話を聞いてから出直した方が良いですよ』
突然のキラーパスに通訳の人が本当に困っていたので、ちょっと投げやり過ぎたかと反省する。
とりあえず話は終わりと告げるがそれでも引き下がらないIT長者は、やがて切羽詰まった病人たちの怒りを買い強引に外に連れ出されてしまう。命に関わる病とその家族の前では金の威光も意味をなさず、追い立てられるように車に乗せられる光景を『千里眼』で見物してから大きく嘆息して。
「宗教勧誘お断りとか、そういう勧誘お断りの知らせを告知しておくか……」
本当に切羽詰まった病人しか訪れられないはずの場所にああいう手合いは勘弁願いたい。
新規を打ち切って半年、その治った病人の家族や知り合いといった縁も徐々に薄くなり、ゆっくりと施術を受ける人が減ってきたのになぜ、最近になってコミュニティといった組織や団体からの誘いが増えるのか悩みが少し増える。
『魔術』の本格的な学術体形も完成し、そろそろ実践と検証に入りたい頃合いになったので注目は浴びるのはよろしくなかった。
「次の方ー、どうぞお入りください」
これが終わったら『魔術』の実験、とご褒美を想像して苦々しい勧誘のことを忘れることに俺は努めることにした。