21年来島海峡衝突事故
貨物船航海士に猶予刑「注意義務を怠った」 松山地裁判決
2023年2月7日(火)(愛媛新聞)
今治市沖の来島海峡航路西口付近で2021年5月、貨物船「白虎」と外国船籍ケミカル船が衝突し3人が死亡した事故で、業務上過失致死傷と業務上過失往来危険の罪に問われた白虎の2等航海士の被告(45)=北海道北広島市=の判決公判が7日、松山地裁であった。高杉昌希裁判長は「レーダーでケミカル船の動静を的確に把握して安全を確認するなどの注意義務を怠った」として禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑禁錮2年)を言い渡した。無罪主張していた弁護側は、不服として即日控訴した。
高杉裁判長は、双方が右にかじを切り避けるといったん合意しながら、相手の「ウルサン パイオニア」の男性船長=業務上過失致死傷容疑などで書類送検、不起訴=が左に曲がるよう指示したことなどを「衝突直前や衝突後の操船が不適切で被害が拡大した可能性も否定できない」と指摘。「双方の過失が競合して事故が起きたとみる余地がある」とし、ケミカル船にも相応の落ち度があると判断した。
沈没した白虎を操船していた被告について、海峡西口を出て左に進路変更する前から左前方にケミカル船がいると認識しており「さらに接近し、相手の動きによっては衝突の恐れがあると具体的に予見できた」と認定。相手の動向が分かるレーダーをその後に確認せず「衝突の危険に気付くまで約1分間、的確な監視を怠った」と強調した。
一方で進路変更をするべきではなかったとの検察側主張に関しては「変更には合理性があり、衝突回避手段があるなら差し控えることまで義務づけることはできない」と認めなかった。執行猶予の理由に、死亡した3人の遺族らが処罰を求めていないことを挙げた。
松山地検の山口あきこ次席検事は「おおむね適正な判断をしていただけた」とコメント。弁護側は「海上交通に関する法令を理解していない」と批判した。
判決によると、被告は21年5月27日午後11時51分ごろ、海峡西口付近を西へ航行中、レーダーや目視で左前方約1・8キロ先に、北東に向かうケミカル船を確認し左側に進路変更したが、約1分後に目前にいると気づいた。右に転進したものの、相手の船首と衝突させて白虎を沈没させ、船長(66)と1等機関士(27)、2等機関士(22)を死亡させるなどした。
【「不当判決だ」不満あらわ 白虎関係者】
「不当判決だ」「公平ではない」―。業務上過失致死傷罪などに問われた貨物船「白虎」2等航海士の判決公判後、松山地裁に訪れた白虎の関係者は口をそろえて不満をあらわにした。
弁護人の戸田満弘弁護士(東京弁護士会)は、開口一番「不当判決。即日控訴する」と宣言した。海上衝突予防法を根拠に「白虎を右舷側に見るケミカル船が右に避けるべきだった」と主張したが、認められなかった。「衝突の恐れは進路変更で生じたのだから、同法は適用しないと言いながら、一方で進路変更自体はとがめないという。自己矛盾だ」と指摘する。
ケミカル船の船長と航海士が衝突直前に逆の回避措置を判断した対応などについて、判決は「判断に疑問は残るが、異常とまではいえない」と結論づけた。戸田弁護士は「船頭が2人いるようなもの」と問題視し、国際条約違反だと重ねて主張した。一方で判決がケミカル船の落ち度を認めたことは評価できるとし、船長を不起訴とした松山地検の判断は不当だと強調。再捜査を求め、松山検察審査会に審査を申し立てていると明らかにした。
白虎を所有する北星海運(東京)の大沢渡取締役も、衝突直前のケミカル船の進路変更を「自分も船に乗っていた経験があるが、ありえない」と非難。「大事な船員を3人も失った。向こうが全く罪に問われないのは許されない」と憤った。
海事補佐人の鈴木邦裕さん(85)=松山市=は、判決について「証拠に基づいて合理的に事実を認定した」と評価した。船舶自動識別システム(AIS)の情報から、ケミカル船が衝突直前に進路変更していなくても衝突は避けられなかったと分析。船長が海外在住であることが不起訴の判断に影響した可能性はあるとした上で「白虎側の過失が明らかに大きい」との認識を示した。
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