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この作品「八方美人のモノローグ」は「アオチリ」「アオキ(トレーナー)」等のタグがつけられた作品です。
八方美人のモノローグ/よろずの小説

八方美人のモノローグ

8,105文字16分

以前書いた『朴念仁のモノローグ(novel/20307384)』と対になるお話です。
crちゃんの多大なる過去捏造などございますのでお気をつけください。

↓宣伝です↓
朴念仁と八方美人の2人をベースとした、短編集を9月オルスタで出します!多分……
限界を極めております……初同人誌作成ですのでお手柔らかにお願いします。

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 結婚したんです。第一印象最悪やった男と。
 しかし今思い返せば初恋だった男とのゴールインかもしれない。意外と初恋も実ることがある。
 え、チリちゃんが初恋? そりゃ堪忍な。モテてまうんよ。

 己の顔が他人よりも整っている。世間一般で言われるイケメンや美人など、それに属しているのだろうと気づいたのは早かった。それと同時に、味方となってくれる人の多さに気づき、反するように知らずの内に敵対してくる人の多さも驚いた。だからこそ、要領よく相手を見極めて、誰もが思い浮かべる『笑顔』と言うものを身に付けたのも早かった気がする。しかしながら、大衆のイメージに縛りつけられるのがどうにも窮屈に感じていた。やれ顔は綺麗なのだからお淑やかにしなさい、『美人な彼女』をステータスとして扱いたい奴らからの告白を流していただけで、チヤホヤされているから調子に乗っている、だの何だの。本当に耳タコだ。こんな調子で過ごすと、幼い頃からとにかくウチのことを誰も知らない地方に飛び出したいという活発すぎる少女が完成してしまった。しかし、そんな簡単に物事は進まず、いつもの日常を過ごす中で、天地をひっくり返す衝撃にあった。ポケモンバトルである。その時のテレビ中継は、新しくできたバトルコートのお披露目だったのか、野良試合の様子を映し出しており、幅広い年齢層のトレーナーが集まりバトルが行われていた。そこに映るのは、年齢も性別も関係なく只管にバトルに打ち込む人たち。己の相棒を信用し信頼されて勝負に挑む、勝ち星を掴むのは弛まぬ努力があってこそ。そんな光景を画面越しに見て、自分自身を曝け出して生きていくにはこの世界しかないと思った。他から見れば何でもない試合かもしれないが、今なお瞼の裏に、鮮明にこびりついている。
 適齢期となり、故郷であるジョウトを飛び出してはや数年、様々な土地を歩き回るのが好きだった。旅先ならではのハプニングも両手で数えるには足りないほど遭遇してきたが、それもまた醍醐味でありスパイスであり。パルデアに寄ったのも、一つの通過地点に過ぎないと思っていた。

「絶対トレーナーなんに、目が合ってもバトルが始まらへんなんて思わへんで」

 今まで重ねてきた経験値がひっくり返ってしまうような衝撃で、少しだけ拍子抜けしてしまった。ただ、自然豊かなその土地は今までよりはるかに空を近くに感じさせ、手を伸ばせば星に届くのではないかと錯覚した夜もいい思い出である。まるで、他所から来たものを、誰でも、何があっても大きく受け止めてくれるようなこの大地が、いつでも安心感をもたらせてくれた。

「新進気鋭、目を見張るものがありますね」

 アカデミーの宝探し期間はもちろんジムチャレンジを行なった。ここのアカデミーの門戸は広く、若い学生たちに混ざるのは少し気が引けていたが、始まってしまえば何も気を使うことなく勝負を挑んでいくのは楽しかった。すでに中盤まで差し掛かっていたので、その勢いのまま次は今いる場所的にチャンプルタウンを目指そうか。そう地図と睨めっこしていた時であった。

「……誰ですか」

 咄嗟ではあったが方言もとったし、受け答えもできて大丈夫なはず。凛とした振る舞い、対面したものにプレッシャーを与えるかのような立ち姿、思わず背筋が伸びたのは後にも先にもこの人の前だけだった。オモダカ、と名乗った人物は身長などさして変わらないはずが、とても大きく見えた。そして、会うたびに悉く話し込むこととなった。もちろん、バトル付きで。しかし、後にとんでもない人物とバトルをしていたことに気付かされたのは、全てが終わった後だった。

「改めて、自己紹介を」

 四天王戦も勝ち進み、トップチャンピオンと相まみえた時。はぁ?と声に出してしまったのは許してもらえるはずだ。辛くも勝利を勝ち取った今、手持ちも皆満身創痍だと言うのに。目を輝かせ話を進めるオモダカに少し不気味さを抱いてしまっていた。なんと、今ではポケモンリーグ委員長、アカデミー理事長にまで登り詰めていたらしい。そんな彼女がなぜここまで気にかけてくれたのか。

「ぜひ、パルデアのためにご尽力いただきたいのです」

 何と、ポケモンリーグ職員への打診であった。笑い飛ばしてしまいそうになるのを堪え、オモダカを見やれば冗談を言う顔ではないことは明らかであった。今まだアカデミー在学の身、そして他地方出身。冷静に思い描いてもネタにしか思えない。そもそもなぜ声をかけたのか想像がつかなかった。

「知ってるやろうけど、パルデア出身とかやないで。あ、なんやチリちゃん美人さんやから、広告塔にするっちゅうんか?」

 この人に限ってそれはない、というかあって欲しくなかった。何となく裏切られたような気になってしまう。しかしそれしか思いつかなく、わざと口に出したが、そうだと肯定されてしまったらすぐさまこの場を逃げ出したくなってしまう。己がふざけて言ったにも関わらずだ。

「いいえ。四天王を勤めて欲しいのです。貴方が開拓し、踏み固めてきた道、それをパルデアのために示してもらえませんか?」

 何を言っているんだろう。チリちゃんが、ウチが四天王。この人は、本当にどこまでも突拍子もないことを思いついて、それを実現してきた人だ。現に、「いつか貴方とまた会うときは驚かせられるようにしますね」なんて言って今日である。そんな人が、ウチを欲しいと言ってくれている。

「少しだけ、お時間をください」

 真面目に回答すべきだと思った。もちろん、と柔らかく笑っていたので多分これが最適であったはず。ポケモンリーグを背に、身体を貫く西日が熱く感じた。どれほど時間が過ぎ去ったのか分からない、気づけば回復して戻ってきた手持ちたちが勝手に出て、集まってきていた。

「今日は、キャンプして寝ようか」

 チャンピオンランクを保持してから随分と日を開けてしまった。答えは出ていないが、次の行き先を決めかねている時点で、相当に迷っていることを思い知らされる。次はガラルやカロスなんかも楽しそう、とはしゃいでいた頃が懐かしい。
 オモダカ、そしてこのパルデアは誰でも大手を振って出迎えてくれるのであろう、来るもの拒まず去る者追わず。次へ旅を続けることだって咎められているわけではない。しかしどうにもあの日の会話が棘のようにどこかに刺さり抜けてくれず、いつまでも気にしてしまう。ため息をつきながら、まずはサンドウィッチでもと荷物を見やれば何やらドオーが届かない手で漁っているようであった。

「こら!悪戯っ子はどこの誰……や」

 ドオーをひっぺがした拍子に、荷物が散らばってしまい、目に入ってきたのは手帳のどこかに挟んであったはずのグレーと黒が混じった大きな風切羽。気になる棘は複数あったことを思い出させ、ふと呼び起こされた記憶は、ジムチャレンジ中盤の試合。ポケモンリーグに所属する、つまりまたあの人と会えるのではないか。背中を押された気がしたのだ、気づいた時にはスマホロトムが繋がっていた。

「アオキです。お世話になります」

 必要最低限の挨拶にとっつきにくさを感じるとともに、ウチが四天王戦した時とちゃうな?と辺りを見渡せば元々の四天王は、ハッサクのみになっていたことに気づいた。あれから大改革でもさせられたのか、実行してしまうオモダカに身震いをした。そんな己の思いなど露知らず、「では、四天王の順番を決めましょうか」なんて続く言葉に、今日やるんか、と呟いてしまった。
 最初は以前にも戦ったハッサクを相手にした。確かドラゴン使いであったはずと、とりあえずの軽い気持ちで挑めば思った以上の返り討ちにあってしまい、目を丸くした。四天王戦は何だったのか、リミッターをかけていたとはいえ、今日の外し方は可笑しいと思ってしまうほどの戦いっぷりであった。
 次のバトルは先ほど挨拶をしたアオキである。気を入れなおしたので何とか踏ん張っていたが、ムクホークのブレイブバードが決まった時点で焦りを浮かべてしまった。刹那、膨大な映像と記憶が流れ込み、かぶりを振った。
 思い出した。あのムクホークの目。
 パルデアに留まるのもいいかもしれない、と思った一つ。まさか四天王としてもここにいるとは思わなかった、忘れもしないチャンプルタウンジムリーダー。
 鮮烈に焼きついた、あのブレイブバードやからげんき。ひとつだけ落ちてきたグレーがかった羽が、己の視界を全て奪っていくような感覚だった。気づいた時には古くからの相棒が戦闘不能になっていて。正しく、悔しいという気持ちにさせられたのは久しぶりだった。なんとかレベルを上げて、技構成を見直して、二度目には勝利を掴み取ったが、納得のいくものではなかった。
 それがまさか、こんなところで。また会えるなんて。というか、ノーマル専門ではなかったか。彼の強さは、興味は、どこからくるのだろうか。最初に抱いたのは好奇心のはずだ。
 この様子じゃ相手は覚えてないだろう、それでも予期せぬ再会に動揺してしまったチリは、その後もうまく戦況を進めることができず、ポピー戦を終えてしまった。

「面接官をやりませんか?チリ」

 この打診はもはや確定事項、と内心気づいてきたがさすがに一つ返事で頷けるものではなかった。ウチが面接官、トレーナーを見極めて四天王とのバトルをさせるに値するかを見るなんて。他にもっと経験が多い人や周りを見渡せるような人を選んだ方がリーグのためにもなるだろう、例えばハッサクさんとか。いや、生徒と先生で面識あるとやりにくいか。それでも何故声をかけてきたのか。

「何でチリちゃん?他にもぎょうさん人おるやろ?特に人事課があるんやからそこに任せるのが妥当やないんですか?」

 トップは人差し指を眉間に当てながら少しだけ逡巡した。しかし、「適任なので」の一言だけ。答えになってへんやろ、という返しは一旦我慢だ。意味をウチなりに咀嚼してみよか、と一瞬考えてみたがさっぱり思い当たらない。そもそも面接をしてから四天王戦だなんて他地方でも聞いたことがなかった。それをしたいという考えがまずどうなのだろうか。この土地は門戸が広いことが利点だと思っていた。呼応するかの如く、ジム戦の順番は好きなように挑めるし、己の足でどんなところへだって行ける。目の前のその瞬間から広がる新しい可能性に、心を弾ませたのが懐かしい。だからこそ、挑戦者を広く受け入れるために面接はしなくても十分では、と思いきや。他地方と違って、四天王がいるのにも関わらずいわゆるチャンピオンロードがない。テーブルシティの裏手から誰でも来れてしまう。そうなるとバッジもまだ揃っていない子達も来てしまうのが現状だった。今までそのまま帰していたにも関わらず新たに面接官として役割を作るとは。

「こんな美人さんがやったら怖がられてまうで?」
「えーと、チリさんがよろしいのでは?」

 自分は関係ない、とでも言うようにうんともすんとも反応を示さなかったのに。ここで急に会話に入ってくるのはずるいやろ、と思いながらチラリと横目で見れば目線は合うことなく、モニターに映るデータとの睨めっこが続く限りであった。「アオキも賛成してくださいますか」と呟いた。

「気配りが素晴らしいのと、人を見る目がある……と思いますので」

 ご自身の経験でしょうかね、と隣で呟くアオキの声はとても小さかったが耳に届いてしまった。チリの誤魔化しに乗るのではなく、チリが考えうる最適だと思う人物像と一致させながら、それに当てはまるのはチリだと言っているのか。
 この人は色眼鏡ではなく、チリをそのままに見てくれている。それがどうしようもなく恥ずかしく思え、照れくさくてもやはり嬉しさが勝つ。ジムリーダーとチャレンジャーとしては到底知り得なかったこと、同僚になれて十二分に人となりが分かってしまった今。彼がよく言うセリフが頭の中に響いてきた。奥底から湧いてくる感情に戸惑いつつも不純物を取り除き、シンプルに残ったそれを掬い上げれば、次いで彼に抱いた感情を受け入れるしかなかった。

「……あの!あ、と……ア、オキさんのことが、好きなんですわ」

 多分、というか絶対アオキさんはそう見てはくれていないだろうと思っていた。恒例になっていた飲み会を利用して、これから意識だけでもしてもらえれば、そう軽く思っていたはずだった。それなのに、いざ伝えるとなると喉奥が絞られてしまったかのように、掠れた声しか出なくて。過去こう言った場に立ち会ったというか当事者であったのに、にべもなく断ってきてしまったことに対して、胸の奥底で一抹の苦さがよぎる。

「それは、一種の憧れでは?あなたにそう思ってもらえるのはありがたいですが」

 なぜかまず先に安堵の息を吐いた。「本当なんやけどなぁ、すんません。ちょっとお手洗いに」と何とか一言断りを入れ、席を離れ駆け込めば、鏡に映る己はお世辞にも美しいだなんて言葉は似合わなかった。少しだけ血の気が引いた唇に、首筋を伝った汗。息が詰まるほど緊張していたことに気づかされた。初めての経験にどうするのが正解か分からず、浴びるように酒を煽ってしまった。

「やっぱりチリちゃん。どうしてもアオキさんのことが好きなんやけど」

 あれから段々と視線を感じるようになり、そしてアオキさんがどこからともなく現れる。そうなってくると、もしかしてと夢見てしまっていた。あの後も続いていた定期的な飲みの場で同じように言葉を吐き出してみる。あ、ひどい顔してるかも、なんて相手の瞳に映る姿を見て、沈黙に耐えきれず自嘲気味に笑ってしまった。そうなると顔を逸らされてしまうのは何だか必然のように感じてしまって。もっと迷って、揺れて、委ねてしまえばいいのに、と願ってもそう上手くはいかないものだ

「あなたには、もっと相応しい方がいるでしょう」

 今度こそは、と勝手に期待して勝手に自滅して。「チリちゃん、玉砕やん。ありゃ、アオキさん次何飲みます?」そう流さなければ震えた声が隠せそうになかった。本当は迷惑に思っていても誘いに断れず、同僚として仕方なく付き合ってくれているだけかもしれない、それでも一緒に飲むと肩肘張らずにいられるのだ。どうしても誘いはやめられなかった。
ふと気づいたことがあった、前回に続き今回もとなると思考が止まってしまった。アオキの飲むペースがチリの告白の後から必ず早まるのだ。酔って忘れたいほどの出来事なのか、それとも。都合のいい倒錯的な考えが浮かび、頭を横に振ってからお猪口を舐めた。それにしても、今日は一段と飲んでないか。

「……ち、ちゃ……ん、どこ?」

 思い切り机に突っ伏してしまったアオキに、さすがに止めるべきだったかと笑いながら、先に空飛ぶタクシーの手配をしようと思っていた時であった。最初は、あのアオキさんが、ちゃん付けでウチのことを呼び、しかも探している? と浮き足立ってしまったがすぐにはたきおとされてしまった。

「ちいちゃん」

 一度だけはっきりと聞こえた声は、己の名前を呼ぶものではなかったし、向けられたこともない顔だった。それは、どこか懐かしむような、優しさと慈しみを持った柔らかな表情であった。これ以上はやめてくれ、と願いながら揺すった彼を何とか起こし、やっと意識が戻ったのを確認してタクシーへと入れる。

「やめた方がええんかな」

 うだうだと悩むくらいなら一度頭のてっぺんまで湯に浸かろう、そう思ったのがいけなかったのか。湯船の中で冴えた頭が好き放題に回っており、気づいたら溢れていた。
 最後に呟いた名前とその時の表情が脳裏にこびりついていて離れない。同僚として見たことがなかったし、むしろあの顔をさせることのできる人がいるのか、と姿形もわからぬ相手に羨望してしまった。
蒸しタオルと冷やしたタオルを交互に目の上を覆い、何とか始業開始に滑り込んだ翌日。挨拶をしてきたアオキの目が、ほんの少し一瞬だけ驚きの色に染まったのを見逃さなかった。いい気味である、少しは動揺してくれればいいのだ、と独りごちる。それでも、今まですれ違う人たちにはまるで気づかれなかったのに、とどうしても想う気持ちは止められなかった。
2度あることは3度ある、三度目の正直、果たしてどちらに転ぶかはもう賭けだった。言い逃れはさせない、そう意気込んで乾杯も早々に、何ならお店のスピードメニューが卓に並ぶ前に。「アオキさん」と呟いた声はどうしたって掠れてしまっていて、何だか泣きそうになってしまった。それでも伝えなければと発した。

「どうしても諦めきれん。こんままやと、死んでも死に切れん。チリちゃんが選んどるんやから、相応しいも何もないやろ。チリちゃんが好きなのは、目の前にいるアオキさんただ一人なんやから、もう観念しいや」
「……あなたは、私と仕事、私とポケモンどちらが大切なの?なんて迫られたことはありますか」
「え、は……もしかしてアオキさん、そないな子らと付き合うてたん?見る目な……」
「ほっといてください」
「ちなみにチリちゃんも言われたことあります。てか、仕事も一緒、ポケモントレーナーであるチリちゃんなら絶対そないなこと言いませんし、アオキさんも言わんでしょ。チリちゃんら、お似合いとちゃいます?」

 今までと流れが違った。三度目の正直が採用された、らしい。実感が湧かずに自らのほっぺをつねれば、口元を隠して笑うアオキさんが目に入った。ちょっぴりだけ腑に落ちない、こちらはやっと実ったと言うのに。あ、『ちいちゃん』を聞かないといけないのか。
 四天王として会ったのが初ではないことすら思い出さないだろう、でもそれが彼であって、思い出してくれないからどうと言うことはない。今の、パルデアを選んで突き進む己を見てくれたことが嬉しくて、絶対に手放してやるもんかと密かに誓う。そうとなれば向こうをありじごくにはめてやろうと思ってしまうわけで。

「ナハハ、チリちゃんち手狭なんよ。このまま住んでもええ?」

 唐突な発言は意外にもすんなり許可が降りた。正直なところ、いけいけドンドンで行動していたため、転がり込むようにスタートした同棲は正直不安もあった。それでも、1日の始まりと終わりに好きな人が隣にいて、気を許して互いに生活している事実は何物にも代え難いものだと気づいた。それに、今までの一緒にいなかった、出会う前の人生を擦り合わせて、新たな道を作るような感覚がとても心地良かった。こうして『結婚』というものを考えたりするのか、と他人事ながら思う。

「あ、ポケフーズもう無くなりそうやわ。アオキさんとこの子らって、確か次のタイミングで種類変えたいって言っとたよな?どうしましょ?」
「チリさん、好きです。」
「は、え?今?」
「あなたを逃したくありません、結婚してください」
「……ちょお待て!今のやりとり、何が刺さったん?やり直してくれへんと許さんで」

 こないプロポーズなんてありなんか……やり直してくれへんと、チリちゃんどこか行ってまうよ、なーんて嘘やけど。以前ではこんなウチを一片たりとも想像がつかなかった。付き合って、一緒に住む所まで漕ぎつけたはいいが、なあなあに終わるのではないかと。過去みたいに。それが、こんな絵に描いたような幸せがあって、隣を見ればいつもの長考癖で意識が沈む相手がいて。所々聞き取れた単語に、やれ指輪だ、挨拶が、式場は……なんて聞こえて、思ったより愛されていたことに、つい彼に飛びついてしまった。

 人生何が起こるか分からない。
 ただ、こが隣にいて、ウチの半身とも呼べる相棒たちがいて。このまま死ぬまでこうありたいと、できれば相手もそうであってほしいと心底願った。

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