アイスとオマケと
⚫1コラボでテンション上がって書きました……が、数年ぶりのSSに手こずり9月の後半に完成しました……
ガリ⚫リ君の一員にパルデアウパー、3⚫コラボにパルデアウパー、ミルク⚫アのドオー、ポ⚫カのSARチリちゃん……と、2023年夏はチリちゃん周りのアイスネタが豊富でしたね。
※作中のコラボはフィクションなので現実とは時系列が違います
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(アカン……やってもうた……)
チリはテーブルシティのベンチに腰掛けて項垂れていた。
その手にはアイスクリームのオマケで貰えるパルデアウパーのシールが握られている。
ずっと欲しかったシールが、チリの胸を痛めてくるのだ。
☆ ☆ ☆
話は約1週間前に遡る。
パルデアで人気のアイスクリームチェーン店では今夏キャンペーンを行う事になっていた。
ダブルカップのアイスクリームを買うとポケモンのシールがランダムで貰えるのだ。
キャンペーンの告知を見た時から、チリはずっとオマケのウパーシールが欲しくて堪らなかった。
チョップドチョコレートのアイスクリームに囲まれて笑うウパーのスペシャルシールのサンプル画像を見てはニヤニヤしていた。
何個か買えばウパーに出会えるだろうと思い、キャンペーンが始まってから毎日対象のアイスを買っていたが、ランダムのオマケはそう甘くはなかった。
1週間食べ続けても一向にウパーが出てくる気配がないのだ。
「アカン……全然出てこないやん……っっ」
ある日の昼休み。
今日はダブルカップを持ち帰りで2個購入してみたが、どちらもウパーではなかった。
アイスの食べ過ぎと中々目当てを引き当てられない悔しさで頭が痛くなってきてチリは机上に項垂れる。
「………どうしましたか、体調が優れないようですが」
「おお!ええ所に来よった!!!!ちょうどええ!!
チリちゃんのこと助けたってな!!!!」
チリの同僚かつ恋人であるアオキが心配して話しかけてくれた。
これは渡りに船と思ったチリは、優しくて大食いな恋人に1つのお願いをする。
チリは素早くスマホロトムを操作すると、アイスクリームのキャンペーンページを表示してアオキの目前に突きつけた。
「アオキさん、お願い!!!
このアイスのキャンペーンで、ウパー当てて欲しいねん!!!!!」
「ウパー……ですか……」
「このウパーめーっちゃ可愛いやろ???
せやけどランダムやから全然当たらんねん」
「……つまり、このアイスを食べ続けて引け、と言うことですね」
「さすがアオキさん!話が早いわ~」
「……………」
流石はビジネスマン。
スマホロトムの画像とチリの簡単な説明で、依頼内容を理解してくれた。
当たりが出るまでアイスを食べ続けろという地味に辛い依頼内容に難色を示していたが……
「………わかりました。協力します」
「おおきに!!アオキさん大好き!!!」
「………!」
チリのお願いを断れないアオキは、渋々承諾してくれた。
感謝の軽いキスをしたチリは、アオキの手を引く。
「ほな、早よ買いに行くで!!!」
「あっ………ちょっ、まって下さい………」
軽すぎるキスに動揺するアオキを引きずるようにして、2人はそのままアイスクリームショップへ繰り出した。
ちなみにその時出たシールはイーブイとカビゴンというノーマル使いのアオキの引きが強すぎる結果となった。
☆ ☆ ☆ ☆
それから1週間。
『すみません、今日も出ませんでした。4枚目のカビゴンです』
「ぶはっwwwさすがやなアオキさんwww」
アオキは毎日マメにアイスを食べてくれて毎日報告してくれたのだが、ウパーは出てくれなかった。
ノーマル使いで大食いのせいか、やたらカビゴンに好かれるようでしょっちゅうカビゴンが出たという報告が届く。
今日もカビゴンを出したというアオキらしい引きの報告を見て思わず吹き出してしまう。
「さて、どないしよか………」
とは言え、そろそろ余裕がないのも事実。
コラボ期間の終了日は迫って来ており、今買ったアイスについてきたシールもウパーではなかった。
このままではウパーのシールに出会えないままコラボが終わってしまう。
トレードやフリマアプリの利用も考慮しなくてはならないのだろうか。
……アオキにアイスを毎日食べさせてしまったので、それは最終手段にとっておきたい。
とりあえず少しでも可能性を上げようと、アイスの追加を買いに行こうとすると……
「チ~~~~~~リちゃ~~~~~~~~~ん♡」
「うッッッッッッげ!!!!」
パルデアの新チャンピオン、ハルトがやって来た。
ご機嫌で駆け寄ってくる少年の姿を見てチリは顔を顰める。
彼は何故かチリに惚れ込んでおり、出会う度に熱烈アタックして来るのだ。
アオキとチリが付き合っていると知っていても構わず絡んでくるので、出来るだけ会いたくない。
特に今のようにテンションが下がっている時には顔も見たくない存在ではあるが………
「あ、コラボのアイス食べてたんだー!!!
僕も食べようかな?クワッスのカップもあるし」
「(………待てよ。コイツは頭数になるかも知れん……)」
彼の存在がアイスを買うのに丁度いい頭数になる事に気づいた。
1人で食べられる量に限りはあるし、今はニャオハの手も借りたい状態だ。
「ほんなら、チリちゃんがアイス奢ったるわ」
「えっ、いいの?!」
「そんかわり、出たシール貰ってもええ?」
「いいよいいよー!!!ありがとー!!
やったーー!愛しのチリちゃんの奢りアイスだ~~~♪」
こうして、チリは頭数稼ぎのためにハルトにアイスを奢り………
「チリちゃーん!!!ウパーのシール出たよーーー!!!!!!!!!!」
「……そうなるんかーーーーーい!!!!」
奢られたハルトがウパーのシールを引き当てたのであった。
☆ ☆ ☆
そして、話は冒頭に戻る。
アイスのオマケひとつでこんなに気が重くなるとは思わなかった。
自分のために毎日頑張ってアイスを食べてくれた恋人になんと伝えれば良いのだろうか。
よりによって自分に惚れている少年が引き当てたせいか、浮気したかのような罪悪感が募る。
アオキが今日の分のアイスを買う前に連絡をすべきなのだが、メッセージアプリに書くべき文章が思い付かない。
「はぁ………アオキさんに何て伝えればええねん……」
アオキ宛のメッセージが真っ白なスマホロトムを睨みつけていると………
「………自分に、何の用ですか??」
「のおわあああああああっ?!?!!!!
あああああああアオキさん何でここにいいい!!!?」
いつの間にかそこにいたアオキに話しかけられた。
気まずい思いを抱いてる相手の想定外の登場に、チリは飛び上がる。
「此方もチリさんに用があって探していたのですが……
どうしたのですか?具合が悪いようですが………」
「……………………う」
派手に驚かれた事も気にせず、アオキはチリの体調を気遣って来た。
そんな優しい恋人の好意を無駄にしてしまった申し訳なさが募り、更に胸が痛む。
……そして。
「アオキさあ゙あ゙あ゙あ゙ぁあ゙ぁん!!!」
チリちゃん、浮気してもうたあああああああああああ!!!!!!!」
「………は??」
気がつけば、誤解を招きかけない事を叫びながらアオキに抱きついていた。
浮気という聞き逃せないフレーズと、唐突なハグのダブルパンチを受けたアオキは固まる。
「アオキさんにアイスぎょーさん食うて貰ってウパーのシールおねだりしたんに、他の人にシール貰ってもうたあああああああ」
「………………お、落ち着いてください」
アオキが固まっている事も周りの目も気にせず、チリは勢いに任せて懺悔する。
本当の浮気でないと把握した事で硬直が解けたアオキは、とりあえずチリを引き離した。
言いたいことを言い切ったチリは、少し落ち着きを取り戻す。
「…………そ、それがチリさんの言う浮気なのですか」
「………せかやて、シール当てた相手っちゅーのが、チリちゃんの事好き好き言いまくっとるハルトなんよ………」
「それは嫌な借りを作ってしまいましたね……」
冷静になったチリが、シールを当てた相手のことを伝えると、アオキは少しだけ顔を顰めた。
自分と付き合っていようともチリにアプローチをし続ける男に借りを作るのは確かに気持ち良くはない。
だが、アオキは大して気にしていないようで、表情を戻してビジネスバッグを開く。
「……構いませんよ。
もし彼が妙な言いがかりつけて来たら自分が追い払いますから言ってください」
「……アオキさん優しすぎん????」
「………別に、アイスのオマケ如きで嫉妬するような心の狭い男ではないですよ。
それに、アイスのオマケなら…………どうぞ」
そう言ってアオキはビジネスバッグからやや厚みのある茶封筒を取り出した。
この流れなのでウパーのシールが出てくるかと思ったが、サイズ的に違うようだ。
アオキから渡された茶封筒を開くと、中から出てきたのは………
「嘘!!!ドオーとヌオーのブランケットやん!!!!!!!!!
アオキさん、これ当てたん??????」
「はい。本日自宅に届いていました。」
ドオーとヌオーがプリントされたブランケットだった。
それは、数ヶ月前からコラボしていた箱アイスの懸賞の景品で、2匹の人気に比べて当選人数の少ないレア商品で非売品だ。
勿論チリもかなり応募したが、当てることが出来ていない。
そんな貴重なブランケットをアオキは当ててくれたらしい。
シールを当てられなかった運は、ブランケットで使っていたようだ。
「アオキさあああああああああああああん!!!!!!!!
おおきにいいいいいいい!!!!!! 」
感極まったチリは、叫びながらアオキに抱きついた。
本日2度目のハグをされたアオキは、僅かに笑いながらチリの頭を軽く叩き、身体を離す。
流石に街のど真ん中で抱き合う勇気や無謀さはアオキにはない。
「………今日はこの箱アイスでも買って帰りましょうか?」
「おっ、ええな!!
最近ずっとダブルのアイスばっかでドオーの方食べとらんかったんよ」
さりげなくチリが食いつきそうな提案をして、抱き返さなかった事を気にさせないようにした。
チリはその提案に乗りながらごく自然に手を繋いで来た。
手を繋ぐのも恥ずかしいが、抱き合うよりはマシと思ったアオキはそのままにしておく。
「あの『ネッチョリみるく』が旨いんよね」
「……………」
「ぎゅ~っと濃くてネッチョリしとるんよ」
「あ、あの………」
「ちゃう。『ぎゅ~っと濃いねっちリッチミルク』やったな」
「そ、そうですか」
更に機嫌が良くなったチリは繋いだ手を小さく振りながらアイスのキャッチコピーについて語り出した。
そのキャッチコピーが卑猥に聞こえた気がしたアオキは小さく動揺する。
気の所為だと自分に言い聞かせながら落ち着こうとしたが………
「チリちゃん最初『濃いチリみるく』と勘違いしてビックリしたんよ。
チリちゃんのミルク売られてんのかーい!と思てな。しかも濃いやつ!!!」
「…………ぶはっ!!!!」
ダイレクトに『チリちゃんのミルク』と言われて完全に噴き出した。
「ナッハッハ!!!ほな、早よアイス買いに行くでー!!!!」
「あっ………ちょっ、まって下さい………」
トークが受けたと勘違いしたチリは、大笑いしながら繋いだ手を引っぱりながら走り出す。
『チリちゃんのミルク』という単語が頭から離れなくなったアオキは、そのまま引きずられるように売店に連れていかれたのであった。
☆ ☆ ☆
「ぎゅ~っと濃いミルク………美味やったで♡」
チリは先程のブランケットを裸体に巻き付けながら、眠るアオキの耳元でこっそり囁いたのであった。