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この作品「ずるい奴とにぶい奴」は「アオチリ」「二次創作」等のタグがつけられた作品です。
ずるい奴とにぶい奴/松ぼっくりの小説

ずるい奴とにぶい奴

8,605文字17分

プライベッターで公開してる分を支部にも移植〜

アオキさんに片想い中のチリちゃんが、なんでかアオキさんのことをゲイだと思い込んでる話です
当初の予定はコメディの予定だったんですが なんか毛色が変わった
リップ、ナンジャモ、カエデ出てきます
メンバーが同じだから、ちょっと前のまとめにある酔っ払いアオチリの馴れ初めなのかもしれない
作者も意図してなかったやつです

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チリちゃんな、アオキさんのこと好きやねん。
どういうとこが好きかって言うと、まず顔!
自分では冴えへんとか言うてはるけど、男の人らしいしっかりした骨格で、彫り深くて、目も案外大きい男前な顔立ちしてるやん。
ほんで、長身なところ!
チリちゃんわりと背高めやからチリちゃんより背高い人の方がやっぱタイプなんやけど、アオキさん頭ひとつ分違うからな!
あっ、見た目だけちゃうで?
トレーナーなんやから当たり前って言われるかもやけど、ポケモンに対してめちゃくちゃ優しいんよ。
家に十二匹もいてはるんやで、そやのにな、みんな綺麗な毛艶で顔立ちも可愛がられてる子の顔してるんよ。
いっぱい時間使こてみんなのこと可愛がってはるんやと思うわ。
ほんで、めっちゃ優しいねん!
困ってる人見たらさりげなく助けてて、それがみんな分け隔てないねん。
人のこともよう見てはってな、チリちゃんとかハッサクさんが体調悪かったり抱えてる仕事でパンクしかけてたら何個か持ってってくれたりな。
ジムも四天王も営業も掛け持ちしてんのに、どっからそんな時間捻出してるんやろ?
あ、あとな!無口に見えるかもしれへんけど、言葉数がそんな多ないだけで普通におもろいこと言いはるし、四天王の成人三人で飲みに行かんかって誘ってくることも多いねんで!
大抵はハッサクさんがアカデミーの仕事が残ってるとかでチリちゃんと二人きりなんやけど。
…あ、バレた?ハッサクさんには悪いけど、ラッキーやなって思ってる。
そうやねん。チリちゃん、ほんまにアオキさんのこと好きなんよ。
うん、彼女にしてもらいたい。
チリちゃん結構アピールしてるつもりなんやで?
二人で飲みに行った時に、アオキさんのジョッキからお酒貰ったり、アオキさんのお箸からもの食べたり、トイレ行く時と帰ってきた時とボディタッチしてみたり…。
仕事中もな、喋れそうなチャンスあったら喋りかけたりさ、退勤後もちょっとしたことのお礼とかでメッセージ入れてみたりさ。
前なんか、たまたま雨降った時に相合傘したんやで!?
でもな、アオキさん、全く表情変わらんねん。
ずっとテンションも変わらん。
この美人さんがこんなにアピールしてるのに、アオキさん一個も変わらへん。
それでな、チリちゃん、一つの真実に辿り着いたんよ。
それがな………、アオキさん、ゲイなんとちゃうかな。
だってな、チリちゃんに興味あったらさ、わざわざハッサクさんも誘わんとチリちゃんだけ誘ったらええ話やん?
それをハッサクさんも誘うってことは…アオキさん、ハッサクさんのことが好きなんとちゃうかな。
…残念ながら、チリちゃん失恋確定。
でもさ、散々今までイケメンって言われてきたんやけど、それじゃあかんかな!?
……んー、あかんよなぁ、どこまでいってもチリちゃんは女のコなんやもん。
なぁどう思う?どうしたらいいかな?
うち、諦めた方がええよな?
でもめっちゃ好きすぎて簡単に諦められへん。
どうしよう。
チリちゃんなんで男に生まれへんかったんやろ。




「ていうことがあったんだけど、ジャモ子とカエちゃんはどう思う?
リップはチャンチリの言うアオキさんゲイ説は間違ってると思うんだけど」

ハッコウシティの隠れ家的居酒屋で、リップとナンジャモとカエデは鮮やかなカクテルとお洒落な料理に舌鼓を打っていた。
いつもはチリも交え四人で行う女子会であるが、チリはリーグの仕事が立て込んでいるとかで不参加であった。
『また誘ってな!』と泣いているドオーのスタンプがグループチャットに送られてきて、三人が眉を下げて笑ったのは昨日のこと。
リップは先日、ベイクタウンに視察に来たチリと業務終了後にカフェでティータイムをとった際に聞いた話を、話せるチャンスが来たとばかりにナンジャモとカエデにも話したのだった。

「…アオキ氏がゲイでハッサクさんを好き?」

「アオキさんが?
うーん、そんなことはないと思うんだけど〜」

チリの立てた仮説を聞いた二人は、んんん?と首を傾げた。
アオキがゲイかどうかは置いておいて、ハッサクのことを恋愛的に好きな訳がない。
四天王であるチリは知る由もないであろうが、ジムリーダーである三人はそれをよく知っていた。
アオキは酒が入ると、ボソボソと仕事の愚痴を言い始めるのだ。
その際によく耳を澄ませると、ハッサクの声がデカすぎるだの、泣くのはいいけど頻度が高くて手に負えないだの、恋愛的には好きと思えない表情で語るのだ。
他にもジムの愚痴や営業の愚痴も出てくる出てくる。
このモードになったアオキは放っておくと寝てしまうため、アオキが愚痴をこぼし始めると解散の合図なのがジムリーダー飲み会の暗黙の了解だった。

「てゆーか、アオキ氏実はチャンチリのこと好きなんでは!?て思ってたのボクだけ?」

「リップも思ってるわよ」

「私も思ってました〜。
アオキさん、どれだけ酔っ払ってもチリちゃんの愚痴だけは言わないんですよね〜」

「ま、本人から聞いた訳じゃないからチャンチリには言えないんだけど」

「ていうかあんな綺麗な顔しといて男に生まれたかったとかほんとやめてほしい!」

ナンジャモの叫びに、全員がうんうんと深く頷いた。
しかし、チリの立場に立ってみればそういう思考になってしまうのも無理はないだろう。
三人とも、チリとは飲み会を開くほどの親友なのだ。
あの飄々として隙をなかなか見せない彼女が、初めて語った自分の気持ちを三人は大切にしたかった。
できることなら成就させてあげたい。
自分たちにできることはなんなのだろう、とうーんと唸った。

「あっ」

声を上げたカエデに二人の視線が向いた。
良いことを考えた!とでも言うように、カエデはその優しげな顔をにっこり笑みに変えた。





「なぁ、なんでなん?
チリちゃんこないだリップちゃんに言うたやんね?」

早朝、リップに呼び出されたチリは半泣きになりながらベイクタウンにあるリップのスタジオでメイクを施されていた。
陶器のような肌に、控えめなコーラルピンクのチークに、チリが元来持っているタレ目に沿うように引いたブラウンのアイライン。
甘めなオレンジブラウンのアイシャドウで、チリが元来持っている華やかな目元をさらに引き立てた。
くるりと上げたまつげにブラックブラウンのマスカラを塗って、さらに存在感を出していく。
唇には、チークと同じ薄づきなコーラルピンクのリップを乗せた。

「さ、完パケよ。
うん、誰が見たってベリベリキュートよ、チャンチリ。
極力崩れないようにしたけど、崩れたらティッシュオフしてからこのパウダー叩いてね。
使ったコスメは全部ここに入れておくから」

「……でも、可愛くしたって、見てもらわれへんやん」

チリの形のいい眉がへにゃんと下がる。
目にじわりと涙が溜まったのが見えて、リップは慌ててティッシュを数枚掴むとチリの目頭に優しく当てた。

「泣いたらせっかくのメイクが落ちちゃう。
自信持ってよチャンチリ。
リップは魔法をかけたのよ、うんとキュートになって、好きな人が振り返ってくれる魔法」

白いティッシュがじわりじわりと濡れ、グレーに色が変わってゆく。
リップは止めはしなかった。
ただただ、彼女の想いの大きさに、あのオトコはなんて贅沢ものなのかしらとホッと息を吐いた。

「……無理。
アオキさん、チリちゃんには興味ないもん。
ごめんな、リップちゃん。
めっちゃくちゃ可愛くメイクしてくれたけど、チリちゃんが可愛くなっても、見てもらわれへん」

情けない顔をしてそう言うチリの背中を、リップはばしりと思い切り叩いた。

「最初っからそんな弱気でいるのはダメダメよ!
ハートごと掻っ攫うくらいの気持ちでいかないと」

「…いけるかなぁ」

「自信持って。
チャンチリは最高の女のコだわ。
さー、シータク呼んでるから早く準備しちゃいなさい!
リップも人気モノで忙しいの、ケツカッチンだからドロンしちゃうわね」

「…うん、リップちゃんありがと」

リップが去ったあと、チリもスタジオのスタッフに軽くお礼を伝えてベイクタウンを後にした。
リップが呼んでくれていたタクシーに乗り込み、テーブルシティを目指す。
リップはああ言うが、チリはやはり自信が持てず、車窓に反射する自分の顔を見て深いため息をついた。
ペタペタと頬や額を触る。
そこはハッサクとは違ってやはり丸みを帯びていて、嫌でも自分が女性であることを雄弁に物語っていた。
これだけ落ち込んでもアオキのことを好きな気持ちは変わらないというのだから、随分諦めが悪いなと痛々しく笑った。
テーブルシティに到着し、お金を払おうとするともうお代は頂いているので、と断られた。
リップが払ってくれたのかと気づいて、運転手にお礼を言うとすぐにリップにもお礼のメッセージを入れた。

『お返しは良い結果報告で!』

「無理やって…」

泣きそうになりながらリーグを目指した。
ポケモンセンターの辺りで一度深く息を吐いて、自身の波立った気持ちを落ち着ける。
覚悟を決めて歩き出そうとすると、フルリとチリのスマホロトムが震えた。
メッセージの受信か、とチリが開くと、差出人はナンジャモであった。

『おはこんハロちゃお〜っ!
チャンチリ、リップちゃんのメイク終わったんだって?また後で写真送ってね!!
そんでこれ、いつも頑張ってるチャンチリに、ジャモ子からのプレゼントなのだ〜ッ』

添付されていたのは動画のようで、チリはなんだ?と思いながらそれを開く。
そこに写っていたのは。

『このジムリーダー何者なんじゃ!?質問コーナー!』

『……』

『アオキ氏もっとテンション上げんかッ!』

『上がるわけないでしょう…』

『まぁまぁいっか!じゃあ早速質問だよ!
でれれれれれ…でん!好きなタイプは!?』

『ノーマルです』

『そういうことじゃなーーーいっ!
好きな人のタイプ!答えなさい、はいっ!』

『………明るくて笑顔が素敵な人、です』

『ほーほー、そんで??』

『そんで、って…。
………芯が一本通ってて、しなやかな女性らしさも兼ね備えてて、周りをよく見る人、ですかね』

『おおーっ!アオキ氏ありがとね!』

チリは呆気に取られた。
しかし、アオキの発した言葉の意味を理解した途端、ジワジワと胸が高揚していく。
同時にナンジャモからももう一通メッセージが入る。

『チャンチリ、分かってるとは思うけどごめんね。
リップ氏から話聞いたの。
この質問コーナー自体偽企画だから、アオキ氏には悪いけど騙されてもらったんだ。
聞いたでしょ?女性らしさって!
大丈夫、チャンチリは超絶キュートで笑顔が可愛くて、一本芯が通ってかっこよくて最高の女のコだから自信持ってよ!!』

ナンジャモの鼓舞に、チリの乾いたはずの涙がまた溢れそうになる。
リップが施してくれた最高の魔法を解かさないために、空を仰いで深呼吸をする。
手鏡で自身の顔を確認すると、ニッと笑顔を浮かべた。

「最高に可愛いで、チリちゃん」

守衛に挨拶をしリーグに入ると、ポピーがぽてぽて近寄ってきて、チリのメイクに気づいてわあ!と手を叩いて喜んだ。

「チリちゃん、いつも可愛いけど今日はさらにさらに可愛いですの!」

「ありがと!」

キョロキョロとアオキを探すと、その視線の動きを見たポピーがコソッと、『アオキのおじちゃんは今トップのところに行ってますの!もうすぐ戻ってくるはずですの』と教えてくれた。
こんなに小さな子にも自身の気持ちはバレていたのかとカァッと顔に熱がこもる。

「れでぃですもの!」

えっへんとニッカリ笑顔で言うポピーの頭を撫でて、ありがとうと小さくお礼を言いアオキを待った。
程なくして戻ってきたアオキはいつにも増して顔が死んでおり、またトップに無茶振りをされたのだなと伺える。
アオキさんおはよう、と手を振ると、バチっと目が合った。
チリしか気付けないほどの、些細な変化。
アオキの目が僅かに見開かれた。

「おはようございます、チリさん」

何も無かったかのように席に着くアオキに、チリはどういう気持ちなんかな、と思案する。
午前中はつつがなく終わり、昼休憩を迎える。
ポピーは既に帰っており、ハッサクも今日は一日アカデミーでの勤務。
他の職員たちも昼ごはんを食べに外に出ていた。
執務室にはアオキと二人きり。
チリはグッと拳に力を込めると、アオキに呼びかけた。

「アオキさん、あの、今日の夜、空いてます?」

「ええ、空いています」

チリはアオキの返答に、心内でよっしゃー!とガッツポーズを決めた。
がんばれ、今日のチリちゃんはいつにも増して可愛いで、と自分自身を鼓舞しながら口を開いた。

「夜、ご飯食べに行きません?話したいことあって…」

「話したいこと、ですか。
……奇遇ですね、自分もです」

アオキの真剣な顔に、胸がどきりと鳴った。
もしかして悪い方の話なのでは、とどんどん弱くなっていく心を、リップやナンジャモの顔を思い出すことでなんとか保った。

「ほんなら、夜に」

「はい、では自分は昼休憩とって参ります」

「うん、チリちゃんも食べるわ」

アオキが退室してから、チリは手鏡で自身の顔をチェックする。
さすがリップというべきか、崩れているところもなく完成した瞬間と変わらないままである。
ひとまず安心したチリは、持ってきていたサンドイッチに齧り付いた。

終業時間を迎え、チリはチラリとアオキを伺うと、アオキも既に片付けモードに入っていた。
目がパチリと合うと、ぺこっと会釈をされる。
チリは先に片付けを終え、お疲れ様でしたと一旦リーグの外に出ると、いつも待ち合わせに使っている場所でアオキが出てくるのを待った。

「すみません、お待たせしましたか」

程なくして出てきたアオキは、ハァと一度だけ大きく息を吐いた。
走ってきたのだろうか、少しだけ暑そうにパタパタと首元を仰いでいる。
では行きましょうか、といつもの店への道を歩もうとするアオキの裾をキュッと掴み、上目遣いにアオキを見つめた。

「…今日、行ってみたいところあるんやけど、そこでもいい……?」

アオキはぐ、と喉元から変な音を出して、少し思案したような表情のあと「いいですよ」と小さな声で言った。
テーブルシティの路地裏、隠れ家的な新しくできたフレンチの店に二人で入った。
比較的リーズナブルで、若めのカップルや女性二人組の姿もちらほら見える。

「こんなお店に自分みたいなおじさんが…」

この後話す内容にチリは緊張して固まりかけていたが、アオキは別の部分で緊張していたようで、普段から猫背気味の背中を更に丸めて、大きい身体を小さく見せようとする姿にチリは破顔した。

「大丈夫ですよ、せっかくやし美味しいもんいっぱい食べましょ」

運ばれてくる料理の一つ一つに二人で反応しながら、チリは勇気が振り絞れず他愛のない話を繰り返した。
アオキの「たまにはこんな贅沢も良いですね」というひと言に胸を撫で下ろす。
デザートまで堪能し、二人の皿が空になった頃、チリは姿勢を正してアオキに向き直った。

「あの、アオキさん」

「昼間言ってた、言いたいことなんやけど…」

「…ああ、そうでしたね。
すみませんが、先に自分からでもよろしいでしょうか?」

アオキも先程まで丸まっていた背中をスッと天に伸ばし、チリを見据えた。
その真剣な表情に、腹の奥底に何やら冷えたものが広がり始める。
振られてもいいから、先に言わせてほしかった。
チリは鼻の奥が痛くなって、じわじわと涙腺が緩んでいくのを自覚して、泣くな泣くなと念じながらアオキの言葉を待った。

「チリさん。
自分は貴女のことを愛しています。
秘めておくつもりでしたが、今日の貴女の姿を一目見て欲が出ました。
貴女は自分で幸せをつかみ取れる女性なので、幸せにしますとは言いません。
不幸になった時に、側で笑い合いませんか?」

ポロリ、とチリの大きな目から涙がこぼれた。
それは堰を切ったようにボロボロと溢れて止まらなくなって、チリのどこか冷静な部分がリップちゃんに悪いな、と言っていた。

「…返事はイエスだと思っているのですが、いかがでしょうか」

アオキがそう発し、チリはその言葉の意味を理解すると一瞬で涙が引っ込んだ。

「なんで…?え…?」

「普段からとても素敵ですが、今日のメイクも本当に似合っていて素敵です。
…秘めようとしていたのは、確信が持てなかったからです。
自分のような歳上の男が、貴女のように美しくて若い女性に言い寄るなど地獄絵図でしょう。
ですが、今日のいつもと雰囲気の違う貴女を見て、この姿を見せたいと思う相手が自分なのかどうか…もし違えば、嫉妬でどうにかなってしまうと思っていました。
でも、貴女は自分を食事に誘った。
その素敵な姿で一緒に居たいと思う相手に、自分を選んでくれた。
そう思ったら、止まれる訳などないでしょう」

アオキの言葉に、いろいろ言いたいことは浮かんでくる。
憎からず思っていたのならそのあまりにも変わらない表情はなんなんだとか、悩んで萎れていた時間を返してほしいとか、気づいてて何も言わないのは狡くないかとか、確信を持って告白するのも卑怯じゃないかとか。
でも、そんなこと全てどうでもよくなる程、チリは歓喜に満ちみちていた。

「…うちも、アオキさん、のことが、好きです…ッ」

アオキさんの骨っぽい大きな手がチリの白魚のようにしなやかで華奢な手を包み込む。
初めて感じるアオキの体温に、チリはギュッと目を瞑った。

「よろしくお願いします。
何よりも大切にさせてくださいね」

あの後なんとか泣き止んだチリは、店を出る時に四人のグループチャットに『叶ったよ』とひと言送った。
アオキと手を繋いでテーブルシティを歩く。
見慣れたはずの街が、とてもキラキラして見えてチリはスキップしたくなるほどの多幸感に包まれていた。

後日、久しぶりの休日でゴロゴロしていたチリの家のインターホンが鳴った。
宅配の人が抱えていたのは、カエデが店長を勤めるムクロジの箱で。
チリは何か頼んだかな、と疑問符を頭に浮かべながら、その箱をパカリと開ける。
そこにあったのは、デコレーションされたバームクーヘン。
黒めのチョコレートがかかっていて、パンプキンシードであろう緑色のナッツが散らばっていた。
そして上にちょこんと、ドオーのミニシューとムクホークのアイシングがされたクッキー。

『チリさんへ
想いが叶って本当に嬉しかったです。
ささやかですが、私からもお祝いさせてくださいね!
バームクーヘンは、「二人で幸せを重ねていく」という意味があります。
アオキさんと二人、ずっとずっと仲良しで私たちの憧れになるような関係でいてくださいね!
またお二人でお店にも来てください。
お幸せに!
カエデ』

メッセージカードを読んで、チリはうるりと目を潤ませる。
急いでカエデにお礼のメッセージを送ると、すぐに『わーい、美味しく食べてくださいね!』とビビヨンのスタンプと共に返事が来た。
仕事中であるアオキにもバームクーヘンの写真と共に連絡を入れ、仕事が終わったらぜひ食べに来てほしいと伝えた。
定時きっかりに仕事を終えたアオキは、その絶品なバームクーヘンを幸せそうに食べていたのだった。





自分ですか?
……はい、お恥ずかしながら、チリさんのことを好いています。
まぁ、想いを打ち明ける気はさらさらありません。
どうしてって……。
一般的に考えて、自分のようなおじさんが若くて美しい女性に言い寄ってるなど、通報案件でしょう。地獄絵図です。
そんなことないって…いやそんなことあるんですよ。
……どこが好きかと?難しい質問ですね。
いや、なんとなくとかそんな理由で好きになったわけじゃないです。ええ、もちろん。
全てに於いて素晴らしいと思う方ですから、こうピックアップするのが難しいといいますか。
まぁそうですね…まず、あの澱みなく前を見据える目が好きですね。
何も知らない純粋な子どもと同じってわけではない、彼女の二十数年間で見てきた色々なものを自分の中に落とし込んで、それでも尚真っ直ぐと見据えるところが素敵だと思っています。
それに、人のことをよく見てられますよね。
困っている方がいたらすぐに声をかけて助け舟を出されてます。
ただ、自分のことになると無頓着なので、そこも放っておけないところですね。
……まだですか。
あの明るくて笑顔が素敵なところも、彼女の良いところですよね。
笑顔が素敵な女性はそれだけで素晴らしいです。
周りをパッと明るくしますから。
チリさんはそういうタイプの女性です。
……すみません、自分もうジムに戻らないと。
ではまた、視察の際はよろしくお願いいたしますね、カエデさん。

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