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この作品「その意味に気づいたら」は「アオチリ」「チリ(トレーナー)」等のタグがつけられた作品です。
その意味に気づいたら/ばらんの小説

その意味に気づいたら

2,886文字5分

交際前アオチリです。
aocrワンドロ 第13回 【ホワイトデー/残業】
こちらのテーマで上げた物をpixiv用に手直し、編集したものになります。

※注意※

・二次創作です
・コガネ弁ネイティブではありません
(変換サイト様使用)
・何でも許せる方のみ

大丈夫な方はどうぞ。

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現在、三月十四日、午後十一時。


世間はホワイトデー。先月のバレンタインデーと対をなす、れっきとした一大イベント。
―――のはずだが、アオキは今日も今日とて残業に励んでいた。本来ならば、もうとっくに帰れているはずだった。
仕事がスムーズに進み、ノー残業で仕事を終えられそうだった所、定時ギリギリに放たれた上司の鶴の一声。


『これから会議するから』


その瞬間、残業が確定したアオキを含む社員たちは、全員肩を落とした。思ったよりも会議が長引き、その時点で午後七時。そこから、プレゼンは明日だと言うのに、会議で決まった事を踏まえて一から資料を作り直せと、血も涙もない上司に名指しで頼まれ、はや数時間。気づいたらこんな時間だ。
でもほとんど完成したので、日付が変わるまでには終わるだろうと、アオキは一息ついた。


鼻の付け根を解し、一つ伸びをする。
身体を戻して、足元にある鞄から綺麗にラッピングされた包みを取り出した。


―――今日中に渡せなかった。


《HAPPY WHITE DAY》と書かれたタグの付いたそれは、本当だったら既に手元にはないはずだったモノ。アオキは嘆息を漏らし、それをそっと机の上に置いた。


ちょうど一か月前の二月十四日。
バレンタインデーであるその日、同僚であるチリから、日頃のお礼だとティラミスを貰った。
視察でセルクルタウンを訪れていたらしく、帰りにムクロジへ寄ったそうだ。


『アオキさんだけ特別―――みんなには内緒やで』


そう言ってチリは笑っていた。
他意はないのだろうが、気になっている女性から『特別』と言われてしまうと、意味を見出したくなるのが男の性で。思わず『バレンタインにティラミスを贈る』意味を調べてしまったのは、仕方の無いことだろう。
もしそういう意味で渡されていたなら、とアオキはお返しにマカロンを選んだ。例え意味がなかったとしても、それこそチリに言われたように、日頃のお礼だと言って渡してしまえばいい。


そう思いながら今日を迎えたものの、渡すタイミングもなくこの時間になってしまった。たかがプレゼント一つで連絡するのも迷惑だろう。
明日以降の都合のつく時に渡せばいい。
アオキが包みを鞄に仕舞おうと手を伸ばした時、執務室のドアが静かに開いた。現れた人物にアオキは目を見張る。


「あれ、アオキさんやない。まだ仕事してはったん?」


チリが「相変わらずやなぁ」とケラケラと笑いながら部屋に入ってくる。まさかの登場にアオキは、プレゼントを仕舞うことも、伸ばした手を引っ込めることも出来なかった。


「チリさんこそ、こんな時間にどうしたんですか」
「あー、チリちゃんは忘れ物。……お、あったあった」


チリが自分の机に移動すると何かを手に取る。忘れ物はすぐに見つかったようだ。


「財布、今日に限ってここに忘れてなぁ。ロトムがあればどうとでもなるから、明日でも良かったんやけど……。気になって落ち着かんから、結局取りに来てしもたわ」
「あったなら何よりです。……もう、お帰りになりますよね?」
「財布取りに来ただけやからな。帰ろ思っとるけど、その前にアオキさんに一つ聞きたいことあんねん」
「なんでしょうか」


チリの細い指が、ある一点を指し示す。アオキもそれに促されるように視線をゆっくり動かすと、あ、と短い声が漏れた。
そこには仕舞い損ねたプレゼントがあった。


「アオキさん、それ誰かにあげるん? それか貰いもん?」


なんとなくだが、チリの目が笑ってない気がする。


「なぁ、どっち? チリちゃん、ちょっと気になってしもたわ」


そう言うと、チリがアオキの前に移動してくる。
アオキは、渡すなら今かもしれない、と思った。
プレゼントに手を伸ばすと、それをチリに差し出す。それを見てチリは驚いたような顔をした。


「こちら、チリさんにです」
「へっ」
「どうぞご検収ください」
「えっと……チリちゃんにくれるんですか」
「はい、先月はありがとうございました。大した物ではないですがお返しです」


そう言うとチリはプレゼントを受け取る。アオキは渡すことが出来て、ひとまずほっとした。


「中身、聞いてもええですか」
「マカロンです。お店の方が若い人達に人気だと仰っていたので」


勝手に意味を深読みしました、なんて言えないので、アオキは怪しまれない程度に誤魔化した。
チリは「……マカロン」と小さく呟いて、プレゼントをじっと見つめて動かない。


「そうなんや。アオキさん、これ他の誰かにもあげたん?」
「いいえ。個人的に渡したのはチリさんだけですね。特に日頃お世話になってますので」
「わざわざありがとさんです。……なぁアオキさん、こういうお菓子って意味があるの知ってます?」
「……知識程度には」
「へぇ、知っとるんや、意外」


チリがプレゼントから目を離し、ニヤニヤとアオキを見る。アオキはなんだかいたたまれなくなって、チリから目を逸らした。


「じゃぁ、ティラミスの意味もマカロンの意味も知っとる、ってことやんな? そうなんやな?」
「…………黙秘します」
「なはは! それ、知ってます、って言ってるようなもんですやん」


アオキはチリにそう言われて何も言えなくなる。チリはそんなアオキを見て、更に悪戯っぽい笑みを深めた。


「チリちゃん、先月ん時言ったやろ? 『アオキさんだけ特別』って。その上でこのお返し選んでくれたんやったら、そう言う意味で受け取ってもええですよね?」
「それは……」
「『私を恋人にして』に対して『あなたは特別な人』って返ってきたらなぁ……ここでOK貰えたら、これ以上ないお返しになるんやけどなぁ?」


バレてしまった。
もう後戻りはできないと悟る。諦めて顔を戻せば、目の前には嬉しそうに笑っている想い人。


―――腹を括るしかない、アオキはそう思った。


「……そういう意味で、受け取って頂いて構いませんよ」
「ほんまに……?」
「はい、二言はありません」
「いよっしゃぁ! お返しくれへんから、気づいてへんと思ってたわ〜。それなのに、めっちゃ綺麗なプレゼント持ってはったから、ほんま焦ったで」
「中々渡すタイミングがなくて……すいません」


素直に謝ると「今、最高の気分やから問題ないわ」とチリに肩をバシバシ叩かれた。


「ところでアオキさん。その仕事もう終わるん?」
「あと少しで終わると思います」
「じゃ、チリちゃん待ってますさかい。一緒に帰りましょ」
「……急ぎで終わらせます」


チリは「コーヒー入れて来たるわ!」と部屋を出ていった。
アオキはそれを見送ると、時計をちらりと見る。


―――あと十五分で終わらせる。


チリを待たせてはいけない、とアオキは大急ぎで手を動かし始めた。

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