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この作品「この時間を、永遠に」は「チリ(トレーナー)」「アオキ(トレーナー)」等のタグがつけられた作品です。
この時間を、永遠に/ばらんの小説

この時間を、永遠に

3,346文字6分

交際済アオチリです。
aocrワンドロ 第11回 【手料理】
こちらのテーマで上げた物をpixiv用に編集したものになります。

※注意※

・二次創作です
・コガネ弁ネイティブではありません
(変換サイト様使用)

大丈夫な方はどうぞ。

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アオキの家にチリが来ることになったのは、本日の就業前のことである。「今日、アオキさん家行ってもええ?」とチリから連絡が来たからだ。


「お待たせしました」


既にロビーで待っていたチリにアオキが声をかけると、チリはひらりと手を振った。


「おつかれさんです!」
「チリさんも」


お互いに労いの声を掛け合い並んで歩きだす。


「飯、どうしますか」
「外で食べて帰りたいのもやまやまなんやけど、アオキさん家の卵の賞味期限、今日やったよな?」
「……ああ、この前買ったやつですか」
「そうそう。覚えてるうちに使っとかんと、そのまま忘れそうやし、アオキさん家でご飯にしましょ! 卵以外に何あったっけなー」


アオキとチリはアレがあった、コレがあった、と冷蔵庫の中身を思い出しながら、家路を急いだ。


アオキが自宅の鍵を開けて扉を開く。チリが先に家の中に入った。


「ただいま〜! そんでもって、アオキさんお帰り!」
「はい、ただいま戻りました。チリさんもお帰りなさい」


そう言い合って、アオキとチリは部屋へと入る。
入ってすぐに冷蔵庫の中身を確認し始めたチリは「よし、決めた! ちゃちゃっと作ってまうから、座ってくつろいでてや〜」と言って台所で作業を始める。


少し経って、ふと香ってきたバターの香りにつられてアオキは顔を上げた。ソファに座ったアオキからは、手際よくフライパンを振っているチリが見える。
アオキとチリが交際を開始して早数年。
だいぶ見慣れた光景になったものだ、とアオキは一人笑みをこぼした。




「アオキさん、できたで〜」


待ち時間を使ってお互いのポケモン達にご飯を与えているアオキに、チリが後ろから声をかけた。
アオキは席に着いて、差し出された皿を見る。


「おまちどうさん」
「……! オムライスですか」


ふわふわ柔らかそうな卵。
隙間から覗くケチャップライス。
先程香ったバターは、それを炒める時に使っていたようだ。卵の上にはケチャップで大きなハートが描かれている。


「使いかけの玉ねぎとベーコンが冷蔵庫にあったからな、それもまとめて使っといたで。そんでもって、上のハートはチリちゃんからの大サービス! どや、アオキさん嬉しぃ?」
「とても嬉しいです。食ってもいいですか?」
「なはは! そりゃよかった! せやな、チリちゃんもお腹ぺこぺこやし、早よ頂きましょか」


心なしか、アオキの顔は生き生きとしている様に見える。早く食べたい、と子供のように訴えるアオキを見てチリは嬉しくなった。
アオキの喜ぶ顔が見たい。それが見たくてご飯を作っていると言っても過言では無い。


―――アオキさんの事好きすぎて我ながら重症やな、とチリは内心で一人ごちた。


「いただきます」


アオキは胸の前で手を合わると、ぐわっと大きく口を開けて勢いよく食べ始めた。もぐもぐと咀嚼しながら、満面の笑みを浮かべている。
オムライスは「チリさん、これ美味いです」と言いながら、手を動かし続けるアオキの口にどんどん吸い込まれていった。本当に美味しそうに食べるアオキを見て、チリは少し照れくさくなる。


「喜んでもろて嬉しいんやけどな、そんなに急いで食べんくても、オムライスは逃げんよ。さっ、チリちゃんも食ーべよ。いただきます!」


胸の前で手を合わせてチリも食事を開始した。



チリのオムライスが残り半分ぐらいになった頃。アオキの皿は既に空になっていた。そのまま空の皿をじっと見つめて動かない。


「あれアオキさん、もしかして足りんかった?」
「……いえ、そんなことは」
「でも空の皿見て動かんし、もうちょい食べたかったんやろ? チリちゃんの分けたるわ。……はい、あーんしぃ?」


オムライスを掬ってアオキに差し出す。


「あ……いや、その」
「早よ食べてくれんと落ちてまうわ」
「……いただきます」


少し躊躇ってアオキは差し出されたオムライスを口に入れた。口の端に着いたケチャップを、親指でぐいっと拭う。
その仕草にいつぞやの情事を思い出して―――チリは身体中が熱くなった。


「…………顔赤くなってますけど」
「ア、アオキさんのせいやろ! アホ!」
「なんで自分のせいなんですか」
「うっさい! 知らん!」


内に燻る熱を誤魔化すように、チリは残りのオムライスを口にかきこんだ。




「チリさん、お話があります」


食べ終わった食器を片付け、食後のコーヒーを飲んでいると、唐突にアオキが口を開いた。
なんの話だ?とチリは首を傾げる。


「改めてお礼を言わせてください。貴女も疲れているだろうに、いつも家の事をやっていただいて……今日のオムライスも美味かったです。ご馳走様でした」


アオキはチリに向かって頭を下げる。面と向かってお礼を言われるとやはり照れてしまう。


「お粗末さまでした。気にせんでええよ。チリちゃんがやりたくてやってることやし」
「それでもです。チリさんに甘えてしまっている自覚はありますので……」
「それでええやん。チリちゃん、アオキさんの彼女なんやし?もっと甘えてくれてええんやで」
「……では、早速甘えてもいいですか」
「お、ノリノリやない。よし、どーんと来い!」


珍しく、甘えたい、と言うアオキが飛び込んできてもいいよう、チリは両手を広げて待つ。だが、逆に手を引かれて、アオキの見かけによらず逞しい腕の中に抱きすくめられた。


「……アオキさん?」
「自分と結婚して頂けませんか」


え?
今なんと言った?


「……もう一度言います。チリさん、自分と結婚していただけないでしょうか」


耳元で囁くように懇願され、チリの身体が一気に沸騰した。じわじわと言葉の意味を理解する。


結婚。


考えたことがないわけじゃない。むしろ、結婚するならアオキしかいない、とチリは思っている。
いつか言ってくれたらいいな、と思っていたし、言ってくれないなら自分から言ってやる、ぐらいの覚悟も決めていた。
でも、突然すぎて。
驚いて固まるチリの髪に、アオキは頭を擦り寄せて続ける。


「驚かせてすいません。もっと時と場所を考えて伝えるべきだと思っていたんですが……どうしても今、伝えたくて」
「…………」
「チリさんが自分を好いてくれている事は、充分わかっているつもりです。ただ、いつか離れてしまうんじゃないか、と思う自分もいる」
「……なんやそれ」
「チリさんのいる生活が当たり前になってきて、失うことが怖くなりました。今日のオムライスだって、自分以外の男に作るチリさんなんて想像もしたくない。ずっと側にいてほしい。……自分は貴女の『最期の男』になりたいんです」


幸せで胸が苦しい。
大好きな相手にこれだけ言われて、嬉しくない女なんているのか。


アオキの自分を欲する声が。
優しく触れる手が。
熱を帯びた視線が。


チリにこれは現実なんだと訴えかけてくる。上手く言葉が出てこない。早く返事をしたいのに。


「返事はすぐじゃなくて構いません。いつまでも待ちますので―――」
「…………る」
「チリさん?」
「する……アオキさんと、結婚。今すぐ。絶対する」
「…………!」
「するったらする。嫌やって言ってもアオキさんのこと、チリちゃんが絶対幸せにしたる」
「それはこちらの台詞なんですが」
「じゃあ一緒に幸せになる。チリちゃんだって、アオキさんの『最期の女』になりたい。して」
「……喜んで」


こんなに幸せでいいのか。


幸せすぎて死にそう、とチリが言うと「死なれたら自分が困ります」とアオキが優しく笑った。
どちらからともなく唇が重なる。
アオキの甘くて溶けそうな程の愛に、チリはそのまま身を委ねた。




「アオキさん、おはよう。ご飯できたで」
アオキは愛しい人の声で目を覚ます。
お互いの左手の薬指。
そこには―――永遠の誓いの証がきらりと光っていた。

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