2022/12/26
2004年9月9日、衆議院総務委員会にNHK会長海老沢以下役員が参考人として呼び出された。紅白チーフプロデューサー横領詐欺事件及びソウル支局長経費私的流用事件に関して国会から説明を要求されたのである。
孝志は編成局の国会回線モニターでその様子を生で見ていた。民主党の中村哲治議員が質問を繰り返していた。そして、中村議員が海老沢に辞任を勧めた。その瞬間、孝志の隣にいた職員が「こいつもう終わったな」とつぶやいた。
NHKはこの国会の模様を生中継しなかった。そして中村哲治議員の質問を大幅にカットして後日、深夜に放送した。
その後中村議員はマスコミを相手に裁判沙汰となっている。2005年から5度の国政選挙に立候補し当選1回、落選4回。NHK職員の予言通り中村の政治家生命は絶たれた。
参考人招致があった9日の夜、孝志は海老沢と廊下ですれ違った。海老沢の周りに7,8人の取り巻きがいた。そして海老沢は彼らに「俺、今日いったい何回謝ったんだ」と不満を漏らしていた。
尊敬していた海老沢に孝志は裏切られたような気分となった。
総務委員会での3時間40分の審議は1時間にまとめて放送された。中村哲治議員質疑に対する露骨な編集にも孝志は驚き失望した。
そして私的目的で横領している職員が複数いることを孝志は知り、そして、自分自身も不正会計に加担していたことから将来に対して猛烈に不安を感じるようになった。
NHK国会後、孝志はNHKと自分自身の将来に対して不安を抱くようになった。そして、ある日、40度を超える発熱があった。その頃は予算編成の時期であり、孝志は40度の熱があっても休むことなく仕事をした。自分の健康より仕事が大事だったのだ。
孝志は国会提出のため2種類の予算書を作成していた。承認予算と実行予算だ。承認予算は国会議員を騙すための予算だ。
「NHKは、法人税を免除されているため、税務調査では粉飾決算についての調査自体がない。又上場企業のように、監査法人を使って決算の監査を受ける必要もない。
そして、まだ入金されていない受信料を未収金として収入に計上することがNHK独自判断で出来る。
つまりNHKの予算や決算は、実際のおカネの動きとは関係なく、いくらでも操作出来る。
したがってNHKの決算は簡単に粉飾出来る。
磯野事件前までは、経理局発の予算要求関係の文章には、必ず『財政難のため経費節減』或は『業務改革』と書かれていた。実際にお金は有余っていたのにも関わらず、である。
その後、熱は落ち着いたが37度の微熱が続いた。クリニックを受診するとうつ病と診断された。2ヶ月の休職が必要とのことだった。そんなに休むことはできない、と言って2週間の休職にしてもらった。
M.Tという経理部長は「給料泥棒」という言葉をよく使っていた。
うつ病と診断された孝志は自分が「給料泥棒」であると自覚したので辞表を提出した。
O部長は速やかにそれを受領したが、M部長がそれを取り消し、病気の治療に専念するよう助言した。
再びクリニックへ行き上司の指示に従い、孝志は医師へ「慢性疲労症候群」と書きかえてもらうよう依頼した。医師はあっさりとそれに応じた。
上司は会計処理を改ざんするように、診断書の改ざんすらも平気で行わせる人間なんだと孝志は思った。そして、それ以上、事実を曲げることに嫌気がさした。医師が本当に必要だと考える休職期間を記載してもらった。2004年9月30日、孝志はうつ病により10月から2ヶ月の休職となった。そして、それは翌年3月まで延長されることとなった。
孝志はうつ病を経験してから「人間はなぜ生きているのだろうか」とか「幸せとはなんなのだろうか」という事をよく考えるようになった。
そして、これまでの概念や常識を振り払って、子供のような真っ白な心で考えると非常に楽しいことを発見した。
2005年1月25日、海老沢はNHK経営委員会に辞表を提出し即日受理された。そして翌日NHK顧問に就任した。
海老沢の辞任を知った孝志は日刊ゲンダイにNHKの内部情報をリークすることにした。海老沢の辞任は世間の批判をかわすための表面的な人事であり、海老沢が顧問として院政を敷く限りNHKの体質改善はなされない、と判断したからであった。
孝志のNHKに対する活動は海老沢が辞任した日から始まった。
その活動が2022年になっても継続していると予想出来た人間が当時いただろうか。
海老沢の顧問就任を受けて孝志は受信料の支払いを拒否することを決めた。そして口座振替中止の手続きを行った。2005年2月のことだった。支払は12月から中止した。
記者と会って話しをしていたら話が止まらなくなった。提供する情報の取捨選択ができなくなった。もうそれ以上隠し事をして嘘をつくことができなくなった。事実を語ることで病んだ心がどんどん癒やされていくのを孝志は感じた。
嘘や隠し事は心の負担となる。嘘をついた人はその嘘をつき通すために嘘を覚えておかなければならない。嘘や隠し事のない人は楽に生きられる。
孝志はNHKの不正会計を隠蔽していたが、いつかは誰かが内部告発をするだろう、と思っていた。しかし、誰もしないので自分がするしかないのか、と意識した時に心の病になった。やるつもりはなかったが病気が治らないので結局イヤイヤながら内部告発をした、というのが実態だった。
日刊ゲンダイの記者からは情報の質と量から判断して週刊文春に伝えるべきだとアドバイスを受けた。日刊ゲンダイの記者から紹介を受けて、孝志は週刊文春、週刊新潮、朝日新聞などにNHK内部の情報をリークするようになった。その頃孝志はまだ病気療養中であった。
顧問におさまった海老沢は世間の激しい批判を受けて僅か3日で顧問を辞任している。
この頃、受信料を払わなくても問題ない、という情報が主婦たちの間に浸透した。
『これまで金融機関からNHK各営業センターに「封筒」で送られてきた口座引き落とし中止の書類が、海老沢前会長が顧問に就任した翌月(平成17年2月)から「封筒」では入りきらずに「ダンボール」に詰めて送られてくるようになった』とNHK労働組合の機関紙が報じている。
2005年2月、堀江貴文が社長を務めるライブドアがニッポン放送株35%を取得した。
告発記事の発売前に4人の弁護士と孝志は、裁判になった場合などの対応を検討した。孝志は「文芸春秋社はすごいマスコミだ」と感心をした。そして、NHKへ最後のトドメは文芸春秋社が指してくれるのではないと孝志は期待した。
2005年3月31日付の週刊文春に「『70億円で米ゴルフ生中継せよ』NHK海老沢『元顧問』現場介入電話」という記事が掲載された。孝志がリークした情報だった。
2005年3月15日、孝志がNHKの内部情報を暴露していることが経営陣に発覚した。孝志が漏らした情報は会長、理事、局長など上部の4,5人しか知らない情報だったため、調査に時間が掛からなかったのだ。
そもそも、なぜそのような情報を孝志はっていたのか。
70億円もの資金をNHKが本当に捻出できるのか心配になったMICOのK.Hが、病気療養中の孝志に電話をして確認をしたからだ。
立花孝志が当時NHK内でどれほどの力を持っていたのかを証明するエピソードである。
ここもほぼ2ちゃんねるへの立花さんの書き込み通りです。「承認予算」と「実行予算」の下りは玉木チャンネルで立花さんが語っていたことを文字にしました。
著者あとがき
出来るだけ脚色しないように考えていて、2ちゃんねるに立花さん自身が書いていたことを中心に文章をまとめています。内部告発した記事が掲載される頃の立花さんは非常な興奮状態にあり1時間くらいしか眠っていなかったと、どこかで本人が語っていました。文章は淡々と書いていますが、当時は鬼気迫る感じだったのではないかと想像しています。映像化されるときは、そういうところが表現されるとよいなあと思っています。
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モリヤマ ヒデキ/歳/男
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