試合時・非試合時の利用に工夫を凝らしたスタジアム
スタジアム東西両側の広場エリアの開業は8月を予定しており、現在は工事の真っ最中だ(広場エリアの指定管理者はNTT都市開発を代表とするJV)。前述したようにサッカースタジアムと広場エリアは、連携してにぎわいを実現するというコンセプトを掲げている。ここでのにぎわいを創出するために両方の指定管理者で「ひろしまスタジアムパーク共同企業体」を組織しており、両者は、スタジアムと広場エリアの一体的な運用に向けた情報共有や協議を頻繁に行っている(構成企業は、サンフレッチェ広島、NTT都市開発、エディオン、広島電鉄、RCC文化センター、中国新聞社、NTT アーバンバリューサポート、NTTファシリティーズ)。
広場エリアが完成すれば、広場エリアにある広大な芝生の公園や水辺空間とスタジアムは、一体的な空間になる。公園に面するスタジアムバックスタンド側の3階にある飲食店は、スタジアム内のコンコースからもスタジアム外の公園側のデッキからも入れるように両側に入口を設け、試合がない日でも、営業が可能となっている。
このほか、試合がない日においてもスタジアムに人を呼ぶ仕掛けとして代表的なのは、施設内の諸室を会議室やイベントなど多目的な用途で貸し出し可能とした運用方法だ。Eピースでは、一般的な観客席のほかにグループ席や主に法人用途に向けたスカイボックスなど多彩なバラエティシートを設けており、Jリーグ興行では合計で42の席種を設定している。スカイボックスには、観客席に通じる個室にソファや冷蔵庫が用意されて、サッカーがない日には会議室として貸し出している。また、約100人が収容できるビジネスラウンジは、各種のイベントスペースとして活用できる。スタジアムは公共施設であることから、Jリーグの試合が無い日はリーズナブルな価格帯*で利用できることも大きなポイントだ。
家のバルコニーで団らんしている気分で利用できることをコンセプトとしたテーブルテラスや、電源コンセントもついており仕事も可能なカウンターテラスシート、ローテーブルやクッションシート等を備えた部屋(スイートテラス)など、これまでのサッカースタジアムでは珍しい様々なシートを整備。このように非常に席種が多いのは、観戦スタイルの多様化に応え、多くの方に来場していただき、にぎわいを創出するため。スタジアムは、ファンやサポーターをはじめとする来場者に満足してもらうことはもちろん、街のシンボルとなるためには、あまりサッカーに興味がない人にも、「行ってみたい」と思ってもらうことが重要。また、運営サイドとしては「初めて来てくれた方にリピーターになってもらいたい」(信江氏)。DB事業者の提案は多くの楽しみ方を提供できる設えとなっており、運営側が活用しやすいことも特徴だ。
信江氏は、スタジアム建設に向けた提案をするうえで様々な国のサッカースタジアムを見学したが、席種を含め最も参考にしたのは、「欧州のスタジアムではなく、米国のスタジアムだった」という。古くからプロリーグがある欧州では、各地にサッカーチームが根付いており、スタジアムではほとんどの人が主に試合内容や勝敗に集中している。また日本のスタジアムではビールを楽しみながらの観戦風景もおなじみだが、イングランドのプレミアリーグでは観戦時の飲酒を禁止にしている。一方で、昨年にはアルゼンチンを代表する選手リオネル・メッシがインテル・マイアミに加入するなど、人気が上昇している米国のメジャーリーグを観戦する人のスタイルは様々。家族と一緒に団らんしながら見る人もいれば、試合中にも関わらずに席をたって食事を取る人もいる。「真剣に観戦する人がいる一方で、勝負に関わらずに家族や友人と楽しむためにスタジアムで時間を過ごしている人も多い。Eピースもこういった形を目指してほしいと思った」(信江氏)。
こうした意見も参考として、スタジアム内には多くの席種が設けられており、飲食を楽しみやすい環境にも配慮した設計となっている。その一例としては、飲食時にも試合の経過が把握できるよう、多くのサイネージをコンコースなどに設置したことや、座席前後の奥行きを85センチメートルと、既存のスタジアムと比較して広めに設定したことなどが挙げられる。
また、売店用スペースを、スタジアムをぐるりと1周できる3階のメインコンコースなど各所に設けており、この空間を活用して指定管理者が自主事業で飲食店を設置している。色を統一するなどしておしゃれな空間を構成し、居心地の良さを優先した設えとなっている。
その他にも、2階と3階の吹き抜け空間を有効に利用した広大なキッズルームを整備したり、聴覚などの感覚に過敏で、大歓声などが苦手な子どもも安心して観戦ができる「センサリールーム」を常設(開業時からセンサリールームを整備しているスタジアムは国内初)したりするなど、子どもや多様な観客に配慮した環境を整備している。
また、Eピースは、サッカーのための施設にとどまらず、スタジアム東側の1階及び2階に試合のない日でも集客できるスペースを設け、そのスペースで指定管理者がサッカーミュージアムや魅力あるショップの設置・運営を行うことで、年間を通じて広域から幅広い世代の人々が集い、楽しめるような施設となっている。
このような特徴を持つEピースの効果もあり、2024年に入ってからのサンフレッチェ広島のホームゲームのチケットはすべて完売。すべての試合で2万5000人以上の入場者数を記録している。このままいけば初優勝した2012年シーズンに記録した1試合平均入場者数1万7721人を、遥かに上回ることも夢ではない。ホーム試合のある日のスタジアムのにぎわいはすでに周辺の飲食店の売り上げ増にもつながっているという。そして、広場エリアができる8月以降は、各種のイベント開催などにより、年間を通してにぎわいが絶えないことが期待される。