市民や県民、全国のサッカーファン、関係者の思いが詰まった寄付金
現時点の事業費は、サッカースタジアム及びその関連施設でありスタジアムまで向かう歩行者専用道路のペデストリアンデッキ、広場エリアの基盤整備を一体的に整備するサッカースタジアム等整備事業(DB事業)に加え、埋蔵文化財発掘調査、Park-PFI事業、サッカースタジアム等整備に係るCM(コンストラクション・マネジメント)業務などを含んでおよそ285億7000万円。そのうち、サッカースタジアム等の整備費が約272億1000万円と大半を占める。
財源は、「社会資本整備総合交付金」、「防災・安全交付金」など国からの補助金が約101億2300万円、指定管理者であるサンフレッチェ広島から市への納付金などを償還財源とする市債が約27億1000万円、Park-PFI事業による民間資金が約2700万円、広島県、市の負担が約80億500万円、市民、県民をはじめ全国から寄せられた個人寄付金及びエディオン(30億円)やマツダ(20億円)など、企業や団体からの寄付金が約77億500万円だ。
寄付金のうち個人から集まった金額はおよそ6億4000万円。この金額からも「市民や県民、全国のサッカーファンからの期待の大きさが身に染みた」(藤川氏)という。当初、個人からの寄付金は1億円を目標に募集を開始した。この基準となったのは、2009年に開業した広島東洋カープの本拠地「マツダスタジアム」の建設の際に行われた募金額。総額約1億2500万円が集まり、建設費用に充てられた。このため、「サッカースタジアムでも同額程度の寄付が集まってほしいとの思いだった」(大形氏)。
ところが、募集開始直後からこの思いを大きく上回る反響があった。ふるさと納税制度を用いた「新スタジアム建設に向けた寄付」を2019年10月1日に開始したところ、目標額の1億円をわずか4週間で達成。ふるさと納税制度を利用するといった点では、マツダスタジアムの募金に比べると寄付がしやすいものの、この勢いに大きく驚かされたとともに、関係者が業務を進めるうえで心強い後押しになった。「新サッカースタジアム建設のためにずっと貯金をしていたとの市民の声もあり、熱い思いは大変励みになった」(大形氏)。
1回5万円以上の寄付をした人にはスタジアムの芳名板に名前を刻む特典を付けたが、これが最も効果を感じたという。これについては、ガンバ大阪が本拠地とする2015年竣工の市立吹田サッカースタジアム(パナソニックスタジアム吹田)、京都サンガF.C.が本拠地とする2020年竣工の京都府立スタジアム(サンガスタジアム by KYOCERA)、そして国際基準のスタジアムにするために大幅に改修し2021年に竣工したセレッソ大阪が本拠地とする長居競技場(ヨドコウ桜スタジアム)の取り組みを主に参考とした。「寄付金として5万円というのは決して簡単な額ではないが、それでもその証としてずっと名前が掲載されるということに価値を感じていただけた」(藤川氏)。実際、多くの人は5万円以上の寄付を行っているという。「また、寄付募集期間が約4年と長期であったことも、寄付のリピーターの確保につながり、寄付額が増加した要因になったと考えている」(藤川氏)。
民間企業からの寄付金も、エディオンやマツダといったサンフレッチェ広島に深く関係する企業以外からも見込みを上回る金額が集まった。これは広島商工会議所からの声掛けの効果が大きかったという。元々、広島商工会議所はスタジアム建設の推進会議に参画するなど深く関わっているが、それもスタジアム建設が広島の経済活性化に大きく貢献するというビジョンに賛同しているから。広島商工会議所は、このようなビジョンを広島市内の企業だけでなく広島県内の市外企業に対して積極的に伝えた。こうした努力もあり、民間企業からの寄付は、当初想定した額に比べて約2倍。計522社約20億5800万円に達した。
広島の平和の象徴であることをイメージさせる外観
Eピースの外見上の大きな特徴の一つが、スタジアムを包み込む屋根の形状。翼をモチーフにしたデザインで、平和都市として明るい未来へ羽ばたくという願いが込められている。また、南東側と南西側は大きく開口しており、街に開かれたスタジアムであることを想起させる意匠だ。
「Eピースは第3世代のスタジアム」と、サンフレッチェ広島事業本部エディオンピースウイング広島所長兼指定管理部部長の信江雅美氏は語る。第1世代のスタジアムは「競技をするためのスタジアム」。選手の動線を最適化する、プレーしやすい芝の状態を保つことなどが重要になってくる。第2世代のスタジアムは「見るためのスタジアム」。第1世代に必要とされる要件を包含したうえで、プレーの臨場感を客先に伝えやすくする、飲食が楽しめる、照明などで演出効果を出せることなどが重要になってくる。
そして第3世代のスタジアムは、「街のシンボルとしてのスタジアム」。「富士山は山だけれども、それ以上に日本のシンボルとなっている。また東京タワーやスカイツリーは電波塔だけれども街のシンボルとなっている。Eピースが目指すのは、試合がないときでも行ってみたい、写真を撮ってみたいと思ってもらえるような街のシンボルになること」(信江氏)。
街のシンボルを目指せるのはスタジアムが中心地にあればこそだ。郊外のスタジアムは基本的には目的を持った人しか集まりにくく、集客力には課題がある。一方で、街中には多様な目的を持った人が歩いている。Eピースは、そういった人にも集ってもらえるようなスタジアムを目指して整備されている。
シンボルとなるためには、一般的なスタジアムとは一線を画する外観が必要となる。Eピースは、「シルエットを見ただけで、広島のスタジアムと思ってもらえるような美しさ」(信江氏)を実現するため、DB事業者は真っ白で特徴的な屋根の形状を提案した。また、周囲に向けて開かれたデザインとなっているのは、積極的に中を見てもらうため。サッカーに興味がなくても、例えば散歩の途中でもどんどん中が見てもらえる環境となるよう工夫されている。
前述したようにEピースの指定管理者はサンフレッチェ広島である。2022年10月に開始された指定管理者の公募に申し込み、2023年2月の議決を経て指定された。それまではサッカースタジアム建設推進会議作業部会の構成員としての立ち位置で、利用者の視点から各種提案を行っていた。
その際に、信江氏が重視したのは「1945年8月6日に広島に投下された一発の原子爆弾が、街を一瞬に廃墟と化し、無差別に多くの命を奪い、かろうじて生き残った人々の人生をも大きく変え、多くの被爆者が今も苦しんでおられる。その一方で、現在の広島は中四国最大の都市になるまでに復興し、美しく楽しいスタジアムと広場エリアが一体となったスタジアムパークという新たなにぎわい空間ができる。そんなスタジアムパークに平和記念公園を訪れるすべての人に足を伸ばしてほしい」ということ。そして信江氏は、Eピースを中心としたまちのにぎわいづくりの意義を次のように続けた。
「広島には原爆ドームに代表される、ある意味“悲しいモニュメント”が多い。もちろん、核兵器の恐怖や非人道性に関する認識を風化させては絶対にならないし、恒久平和を実現するためにそれらを見てもらうことにはとても価値がある。ただそれだけではなく、今の広島はこんなに平和で、多くの人が健康で楽しく暮らしていることも、広島を訪れた人に併せて覚えて帰ってもらう。そうすることが、子どもたちが遊びに行きたい街、大人たちが働きたい街となることにつながる。これを実現するために、Eピースを含めた周辺のにぎわいの創出がポイントになる」