"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第37話

 義務教育をとうとう脱却した。

 

 そんな事よりも、業界に震撼が走った。

 言い過ぎた。

 うちの事務所内と、雨宮先生である。

 つまりはファン(奴隷共)が阿鼻叫喚した。

 それは一つの報告だった。

 

 ――B小町アイ。体調不良で活動休止。

 

 よく事務所で一緒にくっちゃべる社員たちは、アイロスで三日間寝込んだ。

 雨宮先生は電話で泣き叫んでいた。あの頃のせんせの恰好良さは、もうどこにもなかった。

 ファン(奴隷共)が夢の跡である。

 俺はというと、落ち着いていた。

 だって知ってたし。

 あいから直接話が来た訳ではない。

 にわか知識で知っていた。

 彼女が双子を妊娠した事を。

 だがそのにわか知識も、年月が経ったからか結構忘れてきてしまっている。

 あいが今妊娠何ヶ月で、いつ産まれるのかも分からない。

 故に、やはり雨宮先生救済が、仕事のスケジュールも相まって絶望的になってしまった。

 明確に憶えているのは、最早あいの運命の日くらいで、他は大分あやふやになっている。

 けれど、それだけ忘れなければ良い。

 あいには、とりあえず『体調大丈夫かー』と送ってみたら『だいじょぶ!』と返ってきたので、元気そうなのは間違いない。

 

 そして、仕事が辞められない……!

 どう頑張っても辞めさせてくれないんだ。

 何で二年先まで確定してるの?

 スポンサーさん、長い目で俺に期待しないでよ。長期割なんて無いんだよ?

 あまりに辞められる気配がなく、いっそ不祥事起こそうかと思ったのはここだけの秘密。

 

 そして雨宮先生を助けられないという無念さを抱きつつも、どうしても期待が上回ってしまう。

 それはやはり、雨宮先生が転生するのを知っているからこそ、抱けるものに違いない。

 彼の命よりも、こちらが勝ってしまう俺は、果たしてクズだろう。

 さりながまた、この世で生きていける。

 その姿を見る事が出来るんだ。

 姿形は変われども、彼女の本質が残っている。

 星野アイの娘、ルビーとなって芸能界で活躍する彼女を見れる日が楽しみなのだ。

 無論、彼らの近くに俺はいない。

 だが遠くからでも、彼らの幸せを見ていたいと思う。

 

 そんな訳であくる日も、今日も今日とて仕事である。

 いつもの監督といつものスタッフとの仕事なので、もうかなり慣れたものである。

 要領良く仕事を終わらせて帰宅の準備中。

 

「あ、カズヤ君」

 

 監督に声をかけられた。

 荷物はしまったので、リュックを背負って監督の方を向く。

 

「明日からよろしくね?」

 

 そんな挨拶をされ、監督は去っていった。

 何を今更……?

 首を傾げつつ、マネージャーと共にスタジオを後にする。

 車の中でスマホ点けて、監督が言っていた明日の予定を考える。

 明日の予定は一本だけ。

 だが抑えられている時間がかなり長い。

 見た事ない名前で、ぱっと見なんのCMか分からない。

 マネージャーにどんな内容なのか、聞いてみる。

 彼は運転しながら「ああ」と呟く。

 

「これ、恋愛リアリティショーだよ」

 

 れん、あい……リアリティショー?

 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。

 

「台本が無い、学園恋愛ドラマって思っとけばいいよ」

 

 彼の言葉はさっぱりとしており、俺の心境とは裏腹だった。

 ド、ドラマに俺、出るの……?

 絶望感が胸に押し寄せる。

 ドラマに出る。

 CMはちゃんと見る人がいないから、沢山出てても俺の事なんてほぼ気にされない。

 キャラクターとして存在感が無いっぽいし、尚更だ。

 だがドラマは違う……視聴者は集中して観るから、当然俺の名前も顔も覚えられる。

 即ち、外に出ると後ろ指を差される可能性が格段に高くなる。

 これじゃ、一般人に戻っても顔バレする確率が上がるという事であり、星野ママを探す上でもとんでもないハードルになってしまう。

 そこでハッとなった。

 ……もしや、もしやこれが事務所の作戦だというのかッ?

 確かに、有名人にしてしまって一般人に戻り辛くすれば、このまま業界にいた方が楽という結論になりやすい。

 やるじゃないか、事務所よ。

 今日不祥事起こしたら俺出なくて良いんじゃね、とも考えたが、流石に諦めた。

 CM見たよって、今も連絡をくれるおばちゃんを悲しませたくない。

 故に、耐え忍ぶしかない。

 そして監督よ、何でそんなに手広いの? 番組だと監督じゃなくて、プロデューサーとかじゃないの?

 出てはやるが、決してCM王子としての俺と思うなよ、と明日監督をぎゃふんと言わせようと思った。

 ちらっと脳裏を何かが掠めた気がしたが、すぐに忘れた。

 逆に考えろ、存在感が無いのを活かして極力映らなければいいだけ。

 ほぼ映らなきゃ誰にも覚えられる心配はない。

 ならば、明日からのミッションは、極力影の者として動く事。

 良し、これで行こう。

 

 

「実際に恋愛に発展する事も多いみたいだし、頑張ってみたら?」

 

 

 ……ちょっと楽しもっかな、なんて思ってないんだからね。

 


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