"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
義務教育をとうとう脱却した。
そんな事よりも、業界に震撼が走った。
言い過ぎた。
うちの事務所内と、雨宮先生である。
つまりは
それは一つの報告だった。
――B小町アイ。体調不良で活動休止。
よく事務所で一緒にくっちゃべる社員たちは、アイロスで三日間寝込んだ。
雨宮先生は電話で泣き叫んでいた。あの頃のせんせの恰好良さは、もうどこにもなかった。
俺はというと、落ち着いていた。
だって知ってたし。
あいから直接話が来た訳ではない。
にわか知識で知っていた。
彼女が双子を妊娠した事を。
だがそのにわか知識も、年月が経ったからか結構忘れてきてしまっている。
あいが今妊娠何ヶ月で、いつ産まれるのかも分からない。
故に、やはり雨宮先生救済が、仕事のスケジュールも相まって絶望的になってしまった。
明確に憶えているのは、最早あいの運命の日くらいで、他は大分あやふやになっている。
けれど、それだけ忘れなければ良い。
あいには、とりあえず『体調大丈夫かー』と送ってみたら『だいじょぶ!』と返ってきたので、元気そうなのは間違いない。
そして、仕事が辞められない……!
どう頑張っても辞めさせてくれないんだ。
何で二年先まで確定してるの?
スポンサーさん、長い目で俺に期待しないでよ。長期割なんて無いんだよ?
あまりに辞められる気配がなく、いっそ不祥事起こそうかと思ったのはここだけの秘密。
そして雨宮先生を助けられないという無念さを抱きつつも、どうしても期待が上回ってしまう。
それはやはり、雨宮先生が転生するのを知っているからこそ、抱けるものに違いない。
彼の命よりも、こちらが勝ってしまう俺は、果たしてクズだろう。
さりながまた、この世で生きていける。
その姿を見る事が出来るんだ。
姿形は変われども、彼女の本質が残っている。
星野アイの娘、ルビーとなって芸能界で活躍する彼女を見れる日が楽しみなのだ。
無論、彼らの近くに俺はいない。
だが遠くからでも、彼らの幸せを見ていたいと思う。
そんな訳であくる日も、今日も今日とて仕事である。
いつもの監督といつものスタッフとの仕事なので、もうかなり慣れたものである。
要領良く仕事を終わらせて帰宅の準備中。
「あ、カズヤ君」
監督に声をかけられた。
荷物はしまったので、リュックを背負って監督の方を向く。
「明日からよろしくね?」
そんな挨拶をされ、監督は去っていった。
何を今更……?
首を傾げつつ、マネージャーと共にスタジオを後にする。
車の中でスマホ点けて、監督が言っていた明日の予定を考える。
明日の予定は一本だけ。
だが抑えられている時間がかなり長い。
見た事ない名前で、ぱっと見なんのCMか分からない。
マネージャーにどんな内容なのか、聞いてみる。
彼は運転しながら「ああ」と呟く。
「これ、恋愛リアリティショーだよ」
れん、あい……リアリティショー?
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。
「台本が無い、学園恋愛ドラマって思っとけばいいよ」
彼の言葉はさっぱりとしており、俺の心境とは裏腹だった。
ド、ドラマに俺、出るの……?
絶望感が胸に押し寄せる。
ドラマに出る。
CMはちゃんと見る人がいないから、沢山出てても俺の事なんてほぼ気にされない。
キャラクターとして存在感が無いっぽいし、尚更だ。
だがドラマは違う……視聴者は集中して観るから、当然俺の名前も顔も覚えられる。
即ち、外に出ると後ろ指を差される可能性が格段に高くなる。
これじゃ、一般人に戻っても顔バレする確率が上がるという事であり、星野ママを探す上でもとんでもないハードルになってしまう。
そこでハッとなった。
……もしや、もしやこれが事務所の作戦だというのかッ?
確かに、有名人にしてしまって一般人に戻り辛くすれば、このまま業界にいた方が楽という結論になりやすい。
やるじゃないか、事務所よ。
今日不祥事起こしたら俺出なくて良いんじゃね、とも考えたが、流石に諦めた。
CM見たよって、今も連絡をくれるおばちゃんを悲しませたくない。
故に、耐え忍ぶしかない。
そして監督よ、何でそんなに手広いの? 番組だと監督じゃなくて、プロデューサーとかじゃないの?
出てはやるが、決してCM王子としての俺と思うなよ、と明日監督をぎゃふんと言わせようと思った。
ちらっと脳裏を何かが掠めた気がしたが、すぐに忘れた。
逆に考えろ、存在感が無いのを活かして極力映らなければいいだけ。
ほぼ映らなきゃ誰にも覚えられる心配はない。
ならば、明日からのミッションは、極力影の者として動く事。
良し、これで行こう。
「実際に恋愛に発展する事も多いみたいだし、頑張ってみたら?」
……ちょっと楽しもっかな、なんて思ってないんだからね。