"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
仕事に追われ、学校にも行かずに生活をしていれば、もう早くも中学三年生になっていた。
当初の予定通りほぼ学校に行かず、間もなく中学生活を終えられると喜んでいる今日この頃。
だがその一方で、一つ問題が発生していた。
それは――。
「いや、カズヤ君! ごめんねっ、スポンサーからどうしてもカズヤ君を起用したいって乞われちゃって、この仕事だけどうしてもお願いっ!」
芸能生活を辞める目途が立てないでいた。
いや、実際は数か月前に、中学卒業したら辞める旨を事務所に伝えたんだ。
そしたら「な、何故辞めるんだっ?」「いや、元々このくらいで辞めるつもりだったんで」「なにいいいいッ!」と、事務所総出で阿鼻叫喚の事態になってしまった。
気付けばこの大きくはない事務所で、一番の稼ぎ頭になってしまっていたのが悪かったのかもしれない。CMってギャラ美味しいもんね。
そしてそこからは、部長を始めとして社員から「いやーこの案件だけは行わないと会社潰れちゃうから受けて欲しいなー」攻撃が重なり続け、お世話になった負い目もあり、別段嫌いな仕事でも無いのでついつい了承してしまっていたら、気付けば向こう一年のスケジュールが確定してしまっていた。
いや、少ししてからマネージャーに予定表見せてもらった時は驚いたね。
引き伸ばし作戦も、最早ここまでくると天晴だった。
だが合間を見て、必ず辞めてやる。
このままじゃスケジュール的にも、いつまで経っても星野ママを探せないんだから……!
待ってろ未来の嫁! そう決意を新たにした。
そんなこんなで相変わらず週休二日制で働く俺にとって、今日は休日。
ゆっくり休もうと家で午前中から寛いでいれば、鳴り響く電話の音。
そうそう、とうとう時代が追い付いてスマホが使いやすくなったんで、俺の携帯がスマホに変わった。いやー、やっぱスマホに限る。
画面に表示されている文字を見ると、そこには『星野』の二文字。
アイドル様からの入電だった。
「ほーい」
画面をスワイプして、電話に出る。
『今日休みでしょ?』
そんな第一声。何で知ってんの……?
「休みかもしれないし、休みじゃないかもし」
『一一時、渋谷駅前ね』
そう言い残し、切られた通話。
何とも一方的である。
ため息を一つ吐き、スマホに表示されている時計を見る。
急いで準備しないと間に合わないぞ……。
考える事をやめて、準備に勤しむ。
最短で準備を済ませ、家を飛び出した。
俺と彼女の関係は、専らこんな感じだった。
電車を乗り継ぎ、渋谷に到着。
時間を見れば、予定時間ぴったり。めっちゃギリギリだった。
改札を出た所で、スマホから通知を知らせる振動を感じる。
現在はもうSNSでのやり取りが主流、メールは時代遅れとなっていた。
スマホに目を通せば、目的の人物からの連絡。
『五分遅れそう』
なんでやねん。
そう思うが、然程気にする事なく改札の前で待つ。
前世から待ち合わせに遅れたりする事が多かったので、相手の遅刻も全く気にならない。
『改札前で待ってるわー』
そう返し、スマホをポケットにしまう。
相変わらずノー変装でも顔バレが滅多にしないので、俺の顔を隠すものは何もない。
「あのー、すいません」
壁に寄りかかり到着を待っていると、不意に声をかけられた。
顔を向ければ、そこには高校生くらいの女子二人組。ちょっと可愛い。
「はい?」
そう返せば、彼女たちは笑顔を浮かべた。
「もし、時間があったら一緒に遊びませんか?」
その言葉を聞き、俺の身体に電流が走った。
こ、これが、あの伝説の――逆ナンというやつかッ!
初めての経験に少しテンションが上がる。
「お兄さんの顔、タイプだし遊ぼうよ!」
もう一人の子は笑顔でそう言い、俺の右腕を掴んだ。
一人は清楚っぽい印象で、もう一人はどちらかといえばギャルっぽい印象。
どちらも可愛いに分類は出来るだろう容姿で、思わず顔がニヤけそうになる。
一見違うタイプの彼女ら二人と遊ぶという事は、つまり一度で二度おいしいという事に他ならない。
これはもしや、ようやく俺にもモテ期が到来したのでは……!
思えば苦節幾年月。
事務所では男どもとばかり群がり、仕事では俺単品の撮影ばかり。
どこにも女っ気がないッ。
現在、一部の人たちからCM王子と呼ばれているらしい俺だ、いらいない愛称だが仮にも王子なら、少しはモテていいのではないか?
だが、すまないお嬢ちゃんたち。
俺一人なら、間違いなく一緒に遊びに行ったんだが、如何せん今日は別の人もいるんだ。
泣く泣く断ろうと口を開きかけた。
「――――ねえ」
その声を耳にした瞬間、途轍もない寒気に支配された。
ゆっくりと、声がした方へ顔を向ければ。
「ウチの彼に何か用?」
現在、徐々に人気を博し音楽番組にもちょくちょく出だした
帽子もサングラスも外している、俺と同じノー変装で。
……って、何で顔晒してんだよ!
なんて言葉は口には出せず、その威圧感にただただ黙るしかない。
彼女の背後ではこちらを気にする人はおらず、どうやらバレてはいない様だ。
無表情で女の子たちを見つめている。
「うわ、すっごい美人……」
逆ナンしてくれた二人組の内、一人がそう呟いた。
もう一人は黙って頷いている。
あいは微かに息を吐き、やがて手に持っていたサングラスと帽子を身に付けた。
右手で俺の腕を掴み、
「じゃ、そういう訳だから」
俺を引っ張って歩き出した。
引っ張られながらも、我に返った俺は慌てて後ろを振り向き、声をかける。
「ご、ごめんねっ、またこん」
力強く身体を引っ張られ、最後まで言えなかった。
せっかく逆ナンしてくれた子たちだ。
良い印象を与えて終わりたかったのに……。
ちょっと悲しい気分になりながら、合流予定だった小柄な人物に腕を引っ張られ続けたのだった。