"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
宮崎出張から二か月が経った。
あれからほぼ毎日、さりなからメールが届く。
どれも本文は一行程度で、必ず画像が掲載されている。
テレビ画面に映るあいの画像や雨宮先生の画像、さりなと先生のツーショット画像など様々だ。
俺からも一文程度で感想を送るが、ほぼ毎度「リアクションが薄いっ!」と返ってきてしまう。解せぬ。
雨宮先生ともたまに連絡を取るが「よくお前の何がダメでせんせはここが良いばっか言われる」と若干うんざり気に報告される。良い事言われてんだからうんざりするなよ、思った以上に嫌われてるっぽくて俺はショックだぞ。
仕事はありがたい事に、スケジュールはずっと満員御礼が続いていた。
何故こんなに途切れないのかマネージャーに聞いてみたが、CMの撮影をした監督がばんばんスポンサーに広めてくれているらしい。
仕事で被る事が多いので連絡先を交換した監督にその話を聞いてみれば、
「カズヤ君を起用してスポンサーの売り上げに貢献できた、そうすりゃこっちにもまた撮影依頼がくるんだよ」
との事。実にウィンウィンであった。
それと、そこでやっとこの監督とめっちゃ仕事が被る理由が分かった。
そんなこんなで活動していれば、趣味も無い俺には段々と金が貯まってきている。
てな訳で、俺もそろそろ推し活に励もうかと動き出した。
推し活、即ちさりなへの
まずは指輪か。
まだ中一でギャラが安いとはいえ家賃、光熱費、携帯代金が一切かからない一人暮らしの食費だけかかる生活をしているので、逆に中一とは思えない程に金が貯まっていた。
家でソファに座りながら通帳を開き、残高を確認する。
記載されている残高は約六〇万。うむ、金持ちになったもんだ。
まあ半年以上ほぼ週五日で働き続けてこの金額は、高いのか安いのか分からない。
だが前世との費用対効果で比べると、圧倒的に最強のコスパに感じた。ほぼノンストレスだし。
とりあえず今世で初の、少女とはいえ女性へのプレゼント。
せっかくなら金に物を言わせたいと思うのが、男の性だろう。
今日は週休二日の休みである。
ならば指輪でも買いに行こうと思い、外出した。
CMにめっちゃ出てるが、監督が言ってた通りキャラクターの存在感がないらしく、カモフラージュしなくとも滅多にバレない。
一件目、ジュエリーショップに入る。
可愛らしいお姉さんに指輪が欲しいと伝えればやんわりと両親はどこか聞かれあしらわれた。ここで買うのは諦めた。
二件目、ブランドショップやチェーン店っぽくはない佇まいだが、中に入りおばちゃん店員に同じ事を伝えれば、安い指輪から案内してくれた。うむ、接客とはこれよな。差別ダメ、絶対。
予算を聞かれ上限額を伝えて驚かれたので、現物として財布の中身を見せたらもっと驚かれた。
とりあえず上限額に近い金額の指輪がある場所に案内してもらい、物を吟味する。
うむ、全く分からん。
こういったのに興味が無いので、何が良いのかが区別できない。
シンプルなものがいい? いや、子供だからキラキラしてる方がいいのか?
いくら悩んでも全く決まらなかったので、おばちゃん店員に相談する。
相手に関する情報を伝え、自分じゃ全く分からないと。
幼い頃から病気で殆ど入院生活してて、もう長くは生きられない同い年の少女に結婚指輪を送りたい。
おばちゃん店員大号泣。
走り去ってカウンターの奥にいるもう一人のおばちゃん店員に何やら耳打ち。大号泣が連鎖した。
ああ、まあそうなるか。と、遅ればせながら納得。
彼女の死は確かに悲劇だが、死んでほしくないという気持ちはあるが、俺ではどうしようもない事。
故に納得は出来ていないが、理解してしまっている以上、ある種さりなの死について割り切れていた。
転生するというのが分かっている、というのも恐らくあるんだろう。
……全く、嫌な大人になったもんだ。
一〇分程度二人で号泣してたおばちゃん店員ズが、やがて二人してこちらにやってきた。
何やら最高のものを選んでくれるらしい。実に頼もしい。
彼女さんの写真ある? と聞かれたので、いつぞや撮った胸の前でハートマークを作っている、あいのポーズをしたさりなの画像を見せる。
二人揃ってまた泣いた。
可愛いでしょ、と言えば首がとれそうな程何度も激しく頷いてくれた。ちょっと面白い。
指のサイズとか分からない部分は多かったが、おばちゃん店員ズがすげー熱心に話し合いしてて、見せてもらった中から一つの指輪を選択した。
金を払い、名前を彫ってもらうので受け取りは後日。
尽力してくれた二人に笑顔でお礼を言って店を後にする。
ちらっと振り返れば、店内でまた彼女らが号泣していた。
歩きながら空を見上げる。
――おばちゃん、やっぱ俺って女泣かせは直らないみたいだ。
そう心の中でおばちゃんに謝罪を述べた。
さて、
スケジュール的にすぐ宮崎に行くのは難しいだろう。
若干の肌寒さを感じ始めたそよ風を感じつつ、残金が一〇万となった財布を握りしめながら、はるか遠くにいる俺嫌いの推しの子へと思いを馳せた。