"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第26話

 その後は揃ってあいの鑑賞会を行い、さりなから副音声であいの魅力について絶える事なく解説された。

 夕暮れが迫ってきたので、補導されては敵わんと、そろそろ帰る事にした。

 帰り際に連絡先を交換し、病室を去る際「指輪以外もプレゼント待ってるよー」と呑気な声が耳に届き、俺はまたとんでもない存在を生み出してしまったんじゃないかと、密かに戦々恐々とした。あれは明らかにプレゼント(推し活代)だった。

 

 さりなの病室を出て廊下を歩いていると、前方から人影が。

 

「お、カズヤ君。もう帰るのか?」

 

 我らが主人公、雨宮吾郎先生である。

 彼の言葉に頷く。

 

「はい、もうすぐ暗くなるんで」

 

 そう伝えれば、彼も納得顔を浮かべた。

 

「まあ確かに、暗くなってからだと、田舎とはいえ危険だしな」

 

 じゃあ気をつけて帰るんだよ、と言い去ろうとした彼を呼び止める。

 もしかしたらさりなの下に行くのかもしれないが、少しだけこちらに時間をもらいたい。

 

「ちょっとだけ、お話いいですか?」

 

 俺の言葉に僅かな逡巡の後、短的な了承の言葉をくれた。

 二人だけで話したい、そう伝えれば「おすすめの場所がある」と言って歩き出し、それについていく。

 階段を上り、彼は扉を開いた。そこは屋上だった。

 そこから見える景色は一面の茜色に染まっており、その幻想的な光景に暫し見惚れてしまう。

 

「それで、話って何かな?」

 

 雨宮先生の言葉が耳に届き、我に返る。

 彼は少し離れた場所で、柵に寄りかかっていた。

 歩いて近付き、隣で彼と同じポーズを取る。

 正面に映る雄大な景色を眺めながら、口を開いた。

 

「さりなちゃん、長くないんですよね?」

 

 直球の言葉。

 

「……ああ」

 

 返ってくる短的な言葉。

 彼の察しの良さに感謝する。

 普通は子供相手であれば誤魔化すだろう。

 だが、僅かな時間で決断してくれた。

 だからこっちも本音で話をする。

 

「彼女の好意には、どう折をつけるつもりですか?」

 

 まず聞きたい事はこれだった。

 彼がどう思っているのか、確認出来るならしたいとは思っていた。

 さて、彼の答えは。

 

 

「……さあな」

 

 

 回答は、曖昧なニュアンス。

 誤魔化しているのか、もしくは彼自身がまだ決めきれていないのかは分からない。

 視線を向ければ、空を見上げており表情は見えなかった。

 

「まあ、せっかくの機会と思って真剣に考えてみても良いんじゃないですか?」

 

 顔を向ければ、彼は視線を向けてくれた。

 

「妹の様な存在なのか、はたまた別なのかって」

 

 そう告げれば、暫しの無言で互いに見やる。

 やがて、彼が視線を外した。

 

 

「……気が向いたら、考えといてやるよ」

 

 

 彼が今、何を考え、どの様な心境なのかは分からない。

 けれど、その回答でも満足だった。

 俺にはもう彼らに立ち入る術はない。

 いや、端からなかった。

 彼の気持ちを知りたいというのは、あくまでも俺のエゴ。

 傍観者としてのエゴってだけだ。

 じゃあ、この空気は終わらせるか。

 

「ま、今から結婚相手で見てるならロリコンですけどね」

 

「んがっ、お、お前なあ」

 

 突然空気を壊された衝撃か、雨宮先生の身体が崩れ落ちる。

 その反応は一体どっちなんだろうかね?

 分からないし、分かった所でどうしようもない。

 笑みを浮かべて彼を見やる。

 

「ロリコンかシスコン、どっちでも先生を応援しますよ」

 

「お、お前っ、分かってて言ってるだろ……?」

 

 僕子供なんで分かんなーい、なんて言えば小刻みに身体を震わせる先生の姿。

 やべっ、からかい過ぎたか。

 こうなったら、三十六計逃げるに如かず。

 

「ロリコン先生もしくはシスコン先生が怒ったぞー!」

 

「意味不明な冤罪を叫ぶんじゃないッ! あっ、こらっ、逃げるな!」

 

 屋上から走り去れば慌てて追いかけてくる雨宮先生。

 若い身体能力を駆使し階段を下りながら考える。

 彼もまた、転生するからといっても、一度は死ぬ身。

 出来る事なら、知り合ってしまった彼も救いたい。

 けれども、あいと違って細かい日付が分からない以上、難しい。

 そして何より、彼を救う事によって俺が何かあって、あいを救えない方がどうしても嫌だった。

 もしかしたらどちらも助けられるのかもしれないが、それでも俺は雨宮吾郎を捨てて星野アイの命を取る。

 彼が転生するのが分かっているから、彼の命を軽んじている。

 クズな俺を許して欲しい。そう願うのもクズな証。

 懺悔なんてして良い身分ではないのだから、いつか朽ち果てるその時まで、その十字架を背負って勝手に苦しめ、俺。

 そこも含めて、初めて自己満足になるんだから。

 

 廊下で追いつかれ、電話番号を交換した。ついでに彼の写真も撮った。

 頭に出来た大きなたんこぶと引き換えに。

 

 

 

 

 翌日から撮影が二日連続で始まった。

 一日目はミネラルウォーターのCM撮影。

 空き時間は沢山あったが、撮影地から出る事は出来なかったのでほぼ寝て過ごした。

 二日目は少し場所を移動して、登山する事となった。

 今回は九州エリアで放送する、所謂ご当地CMみたいなものだが、観光誘致に使うのでしっかりと撮るらしい。

 俺のセリフは二言。

 CMの中盤と最終盤の二か所だ。

 中盤のセリフは山を登る途中に撮った。

 今は最終盤のセリフを取るために、見晴らしの良い場所まで登山をしてきたところだ。

 山頂ではないが、山頂っぽく見せて、やっと辿り着いたこの景色を見て最後の一言を言う。

 スタッフは皆、慣れない場所だろうがあくせくと動いており、もうすぐ撮影本番が始まるといった印象。

 その光景を尻目に、俺は台本に目を通す。

 といっても一言だけなので、覚えるのは簡単だ。

 ――来てみたい、あなたと。

 台本を長時間眺める必要がないくらい、簡単なセリフ。

 けれどやる事が無かったので台本を見ていたが、そこで閃いた。

 顔を動かせば、監督とスポンサーが何やら話している。

 そこに向かい、声をかけた。

 監督は以前ホームメーカーのCM撮影を行った人で、それ以来何度か付き合いがある。

 話が通るか分からない。けれど打診はしたかった。

 これは昨日彼らと会って接したからだろうか?

 答えは分からない。

 最後のセリフなんですけど、監督とスポンサーに伝える。

 

 

「家族、兄妹、夫婦、恋人、友達……どんな関係でも。一緒に来たい、愛してるあなたと――なんてどうですかね?」

 

 

 一か月後からこのCMが九州地区で流れ始めたのをマネージャーから聞いた。

 


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