"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第24話

「……嘘は、とびきりの……愛?」

 

 さりなの驚愕した表情が目に入った。

 彼女に対して頷く。

 嘘は、とびきりの、愛。うわ言の様に何度も呟く。

 やがて――。

 

 

「うんっ、嘘はとびきりの愛! いい言葉かもっ!」

 

 

 満面の笑顔を俺に向けてくれた。

 それは正しく俺から見ても、まごう事無きアイドルだった。

 

「じゃあ、元気になったらそれ、もらっちゃうからねっ」

 

 ダメって言ってももう返品不可だよっ、なんて明るく元気にこちらを指さしてくる。

 そんな姿に改めて笑ってしまう。

 

「はいはい、前言撤回しませんよー」

 

「はいは一回っ」

 

「はーい」

 

「長いっ」

 

 まるで以前のあいと話してる様な感覚に陥り、懐かしさを抱いた。

 仕方ない子を見る様な目で俺を見つめつつ、やがてため息。

 

「もー……じゃあ、一緒にアイ観よっ!」

 

 そう言って身を反転させる。

 彼女越しに見えるブラウン管の中には、あの頃と同じ笑顔を振りまくアイドル(嘘吐き)様がいた。

 魅せる動きは、俺が観たデビューライブの時よりも洗練されており、絶え間ない彼女の努力が伺える。

 進み続ける彼女の現況に、思わず頬が緩んだ。

 いつの間にかサイリウムを両手に、画面越しに声援を送っている彼女を、開いた携帯で写真に収める。

 かしゃ、という音が微かに響く。

 

「え?」

 

 音に反応し、振り返る少女。

 そこには携帯を向けたままの俺。

 

「題名は『一番のアイドルの、一番のファン』……なんてどう?」

 

「あっ、やっぱり写真撮ったんだ!」

 

 許可なく撮るなんてひどーいっ、と頬を膨らませて睨まれる。

 

「ちょっと写真見せて!」

 

 そう言うや否や俺から携帯を奪い取り、撮られた画像をチェックし始めた。

 操作していた手を止めて、画面を凝視し出す。

 

「……全然、かわいくない」

 

 こちらを振り向き、ジトっとした目で睨まれる。

 いや、後ろ姿ですやん。

 そのまま勢いよく手を伸ばし、奪われた携帯を差し出された。

 

「撮るならちゃんと、かわいく撮ってっ!」

 

「……はいはい、アイドル様の仰せのままに」

 

「はいは一回っ」

 

「はーい」

 

「長いっ」

 

 ぷんすか怒っている姿を、再び写真に収める。

 

「あっ、また勝手に撮ってる!」

 

「可愛く怒ってるからさ」

 

「全然かわいくなーいっ!」

 

 ぷんすかが増してしまった。

 

「じゃあ可愛いって例えばどんなのよ?」

 

 そう訊ねれば、

 

「アイとかはこういうポーズ取るんだよっ」

 

 立ち上がりふわりと一回転、両手の人差し指と親指をそれぞれ胸の前でくっつけ、ハートのマークを作る。

 表情は笑顔で、片目を瞑る。

 完全なアイドルポーズをしてみせた。

 流されるままに写真を撮る。

 

「どうかなっ?」

 

 ポーズを解いて近付いてきたので、撮った写真を携帯ごと渡す。

 それを半目で睨みつけつつ「うーん」と唸った。

 

「……やっぱりアイじゃないとダメだね」

 

 そう言って僅かに意気消沈しながら、静かに携帯を返してくる。

 うーむ、普通に可愛いが。

 

「俺からすりゃ同じに見えるけど」

 

「えっ、節穴?」

 

 辛辣う。

 真顔で言われると更にクる。

 

「いいっ?」

 

 そう言ってさりなはテレビへと駆け寄り、

 

「アイはこれっ」

 

 画面にドアップで映るあいを指さす。

 

「ぜんっぜん違うでしょっ?」

 

「ほーん」

 

 人の違いは分かるが、アイドル具合の違いが分からず、気の抜けた返事になる。

 さりなは俺の手を取り、テレビへと手繰り寄せた。

 

「ほらっ、よーく見てっ」

 

「ほうほう」

 

「全然わかってないじゃんっ!」

 

 遂に癇癪を起してしまった。

 両手を強く下げて「ムキーッ」と言わんばかり。

 どうどう。

 さて、どうしようか。

 ずっと悩んでたけど、主人公様の事だ、もう分かってるに違いないから言っちゃってもいいか。

 関係値的にもどうなるか分からなかったけど、俺はクズだから段階を飛ばして一歩先に踏み込ませてもらう。

 

「いやー、全然違いが分からんかった」

 

「えーっ、もしかしてもう老眼だったり?」

 

 失敬な、ちゃんと視界は良好ですー。

 

「いや、同じだったよ」

 

「どこが?」

 

 呆れた表情と口調で俺に問いかける。

 

 

 

 

「――だってさりなちゃんも噓吐き(アイドル)だろ?」

 

 

 

 

 ブラウン管の中ではあいが、変わらぬ笑顔で愛を振りまいている姿が見える。

 その横で、ひゅっ、と小さく息を呑む音が部屋に響いた。

 


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