"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第22話

 主人公格様が目の前にいる。

 この世界で二人目の、俺が知る登場人物。

 だが初回程のインパクトは感じなかった。

 理由は分かる。

 彼のオーラが無いとかそんなんではない、やはりあの一番星(星野アイ)様が規格外というだけなのだろう。

 そんな事よりも。

 

「俺はカズヤって言います」

 

 こちらも名乗りを終えておく。

 

「それで、こんなところでどうしたんだ?」

 

 彼の質問になんて返そうか迷う。

 だが、主人公様だしありのまま答えてもいいかと結論。

 

「明日から近くでCM撮影あるんで、前乗りして暇だったんで散歩してました」

 

 その言葉に僅かな思案顔、次いで納得顔。

 

「……ああ、そういや何か撮影があるとか誰か言ってたな」

 

「はい、多分それですね」

 

「じゃあ君は役者とかをやってるのか?」

 

「はい」まだひよっ子ですけどね、と続ける。

 

 主人公様と思いのほか普通に会話出来ている事に一安心。

 というか、俺が変に気を回し過ぎていただけか……。

 

「そうか……若いのに頑張ってるんだな」

 

「まあ、楽しくやってはいますから」

 

 学校行かなくて良いしな。

 ここで途切れる会話。

 

 ではこの後どうするか。

 今の状況ならばこのまま帰る事だって可能だ。

 

 ――恐らくここに居るであろうあの子と、会わずに帰れば、何も変わらず原作通りに進むだけ。

 

 そう心の中で呟いた自分にハッとする。

 俺は今、何て考えた?

 

 原作通りに進むだけ……?

 

 原作通りに進んだら、どうなるか俺は知っているはず。

 にわかの俺にはストーリー展開の詳細なんざ分からない。

 だけど知っている中で、どうしても原作通りに進めたくないと思っているものが一つだけある。

 それは勿論、あいの死に関して。

 

 だが、それは誰の為だ。

 

 あいの為? いや違う。

 双子たちの為? あるとは思うが、本質は違う。

 結局は、理由は一つしかない。

 

 全ては俺の為。

 全ては俺のエゴでしかない。

 

 知らんフリだって出来るはずだし、同じ世界にいたとしても、原作の世界観は俺には関係なくただただ平凡に暮らす事だって出来た。

 あの時彼女に出会ったから?

 いや、そうじゃないだろ。

 俺が星野アイに出会い、情が湧いたから。

 ただ可愛かったからもあるかもしれない。

 けれど動機は何であれ、俺が彼女を救いたいと思った事には間違いない。

 そう、俺のエゴだ。

 つまり自己満足。

 

 自己満足でしかないなら、やったって良いんじゃないか。

 主人公様と会って、あの子がすぐそこにいて、本当に残るは俺の心持だけ。

 今際の際にきたからだろうか、まるでこれから犯罪を犯すんじゃないかと思える程に、思考が攻撃的になり心臓の鼓動がうるさい。

 もうやるしかない、そんな考えが心を占めてくる。

 

 俺はクズでどうしようもない人間だ。

 ならば自分が満足出来る様に、行動してみれば良い。

 どうなるか分からない、俺には然程も影響力は無いのかもしれない。

 自己満足。これが俺という人間を表す上で最も適切なんだろう。

 それにこれはあいの死へは関係のない事柄。

 故に、ここでアクションを起こしたとしても、多少ならば問題無いはず。

 あの子の彼への愛さえ残っていれば問題ないんじゃないか?

 ならば、やっていい。

 そう、クズはクズでしかない。

 

 ならば、やろう。他でもない自分の為に。

 

 

「雨宮先生」

 

 彼に声をかけた。

 

「どうした?」

 

 何も知らない彼は当然ながら、自然と返事を返す。

 

「俺、最近アイドルにハマってまして、先生って最近のアイドルとかご存じですか?」

 

 そう訊ねれば、

 

「……いや、俺はあんまり詳しくないな」

 

 この様な返事。

 しかし、

 

「……だけど」そう彼は続けた。

 

「入院してる子で、アイドルにハマっている子はいるよ」

 

 ……ああ、やはり彼女はここにいるのか。

 

「へー、なら同じアイドルだったら気が合いそうですね」

 

 話せる友達いないんですよねー。

 なんて、素知らぬ顔で相槌を打つ。

 楽しそうに告げれば、目の前の彼は腕を組み何やら思案顔。

 彼の言葉を待ち、こちらも黙る。

 暫しの静寂。

 それはやがて終わりを迎えた。

 

 

「なあ、カズヤ君」

 

 

 真剣な表情で発せられたその声に返事をする。

 彼は表情を変えずに言葉を告げる。

 

 申し訳ない、先生。

 

 

 

「ぜひ君に会ってほしい子がいるんだ」

 

 

 

 クズの自己満足に付き合わせてしまって。

 


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