"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第21話

 さて、諸君。

 突然だが俺は今、宮崎にいる。

 何故ここにいるのか。

 それは遡る事四日前。

 

「あっ、カズヤ君! 今度のCM撮影が宮崎で二本あるから、週明け行けるように準備しといてね!」

 

 その一言から始まった。

 その時は「分かりましたー」なんていつも通りの返事をしたが、帰って寝て起きて夜に寝ようとした時にハッとした。

 そして思い出した。

 忙しさにかまけてすっかり忘れており、結局自分の中でこの問題を、どう消化するか決めていない事を……!

 

 と、同時に身震いした。

 こんなタイミングで急に宮崎に行くなんて、普通考えられるか?

 ハッキリは分からんが、今はまださりなが生きている可能性がある。

 

 即ち正にご都合主義みたいだ。あ、主義ではなく展開か。

 俺にとってこれは都合がいい……?

 ああ、まだ悩んではいるけど、もし行動に移すってなったら絶好の機会さ。

 

 だが、そうは思わない。

 

 何せこの宮崎組の二人、正真正銘この世界の主人公様方よ?

 そんな存在とちっぽけなモブの俺ごとき。

 この世界にとってどちらが重要で味方するに値するのか、そんなの考えるまでも無い。

 

 

 この世界は正常に物語を進める為に、ここに俺を配置した。

 

 

 もしかしたら考え過ぎなのかもしれない。

 原作の修正力と言っても、実際に見た訳でも聞いた訳でもないんだから。

 らしいと思えるものはあったが、それだって単純に俺が原因なだけって可能性も高い。

 けれども、あると考えて動く事も重要だろう。

 備えあれば憂いなし。そんなものが存在しないなら、ただただ何事も無く日常が過ぎるだけ。

 

 けれど、同時に自分が袋小路に迷い込まされてしまった様に感じる。

 俺がこのまま何もしなければ当然、原作と同じ様に流れは進むだろう。

 そして俺が何かアクションを起こした場合、その流れは変わる可能性がある。

 

 しかしそれは果たして、俺が考えている流れになるんだろうか?

 俺の考える流れ、それとは反対に、二人――いや、さりなの想いがより強固になるパターンだって考えられる。

 そうなったら、物語としての内容は変わらずとも、その過程はより濃度を増して見ごたえが出るかもしれない。

 より物語に濃度を持たせる様に修正力が働く可能性だってゼロではないんだ。

 右に行ったら詰み、左に行っても詰みという状態である。

 

 そして何よりもっと重要な事がある。

 

 

 

 

 そもそも二人がいる病院が分からんかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悩みに悩んだ状態のまま移動日となり、冒頭の通り俺は今宮崎にいる。

 撮影地が自然豊かという事で、割と田舎まで来て、ちょっと古めのホテルが俺の宿泊地だった。

 早めの前乗りなので、未だに陽は高く、暇だったので自然を満喫しながら散歩している。

 

 吾郎せんせーとさりながいる病院が分からん。

 そしてキャラクターの画像をあい以外見ていないから、どんな容姿かも分からん。まだ目に星も宿してないだろうし。

 うむ、完全な詰みである。

 

 当初、行動に移すとしたらまずは施設から病院に電話をかけようと考えていた。

 電話代がかかってしまい申し訳ないが、おばちゃんに「病院で一人寂しい思いをしている同じくらいの子たちに話をして、友達になって少しでも元気になって欲しいんだ」なんて軽く涙ぐみながら言えば、おばちゃん号泣で電話かけるの認めてくれるだろうしな。

 そんでダーツの旅よろしくに適当に選んだフリをして宮崎に決めれば、そっから宮崎の病院の電話番号を調べて、リストをもらう。

 その後は片っ端から病院に電話をかけて、対象を見つけるまで繰り返す。

 電話で仲良くなりゃあ、会いに行きたいと言えば、おばちゃんも相手が相手だから何とか会わせてやりたいと、せめて一回くらいは叶えてくれるに違いない。

 

 俺がアクションを起こす場合、何も吾郎せんせーへの恋心を俺に向けさせる、なんて事はしない。

 それは余りにも博打過ぎるし無謀で、変に意中の相手とまでなってしまうと、それこそ原作から逸脱しすぎて、修正力が働く事だって十二分に考えられる。

 というかそもそも俺には無理だろうから、それはやらん。

 

 なので俺が行おうと考えていたのはあくまでも、吾郎せんせーへの恋心を減らし、純粋に尊敬出来る人という親愛へと変化させる事。

 これならばベクトルは変われども、吾郎せんせーへの好きという気持ちは変わらない。

 そして後々にもし吾郎せんせーの死を知ってしまっても、物語のルートは変わらない。

 さりなにとって、ルビーにとって唯一変わるのは恋心の価値観のみ。

 そこに関してだけはフラットに全員を見れる様になる。

 そうなれば、兄であるアクアマリンが吾郎せんせーだと知っても、もし未来で彼が誰かと結婚したとしても、彼女に陰り無く喜べるんじゃないかと。

 兄が吾郎せんせーだと知って純粋に喜べる。彼が誰かと付き合ったとしても、結婚したとしても純粋に喜べる。

 彼女の"恋"というベクトルを少し変えてあげるだけで、彼女の中にあるしがらみが上手く解けるんじゃないかって。そう思ってしまう。

 

 所詮にわかでしかない俺に元々正解なんて分からない。

 考えている内容だって余計なお世話だろうし、場合によっちゃあ悪質なストーカーの思考よりも酷い考え方だ。

 だってそうだろ? こんなの見たくないから事前に内容を変更しますね、と現実で脚本家気取りしている様なもの。

 そして何より。

 

 

 偽善に見せかけておいて、実際は独善的で自己満足な事でしかないんだから。

 

 

 そんな自分が昔から嫌いだった。

 あれこれ考えているクセに、考えるだけで動かない。

 それが俺の正体なのだと思えば思う程に、自分が嫌いになっていく。

 けれど俺のクズな部分がそれを許さない。

 思考は次第にクズ側に流れていく。

 打算でも幸せに出来るなら別にいいのではないか?

 打算はあくまでも手段であり、幸せは結果。

 幸せという結果が得られるのであれば、過程に打算があっても別に構わない。

 そして純粋に彼女には苦しんで欲しくないという思い。

 それがエゴとなり、クズ的思考に天秤が傾く。

 

 

 けれど動かない。

 

 

 ほら、またこれで堂々巡り。

 俺は――。

 

 はたと足を止める。

 歩き過ぎたのか、森から出て病院まで来てしまったらしい。

 パッと見、綺麗にも見えるが、古っぽくも感じる。

 つまり、新築ではないって事は分かった。

 そういや俺って、一回も病院のお世話になった事ねーな。

 前世でもオリンピック間隔以上のスパンでしか病院に行かなかったし、そこら辺似た感じになってんのかね?

 なんてどうでもいい考察をしていた。

 

「おや? 見ない顔だね」

 

 声の方向へと顔を向ける。

 そこには男性が一人、立っていた。

 白衣を纏ったその出で立ちは、明らかに医者と言わざるを得ない。

 これが仮にコスプレイヤーだったなら、病院でそんな事するのは患者殺しでしかないだろう。

 とりあえず「ども」と挨拶がてら頭を下げておく。

 

 黒髪で細淵メガネの長身イケメン。

 

 その瞬間、脳内に電流が走った。

 イケメン、だと……!

 しかも、つい見てしまう何かを感じる。

 

「ああ、挨拶がまだだったね」

 

 ……もしかしてこの人は。

 

 

「俺は雨宮吾郎、これから行く病院の先生だよ」

 

 

 といってもまだ見習いみたいなものだけどな。そんな言葉は聞き流していた。

 彼を見やりながらも、意識は先ほどまで考えていた思考の奥深くへと。

 ある意味、鴨が葱を背負って来た状況、と言って良いのかもしれない。

 

 ……ああ、結局。

 

 

 

 ――きっかけがないと動けない自分がまた、嫌いになる。

 


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