"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第20話

 荷物は殆どなかったので、引っ越しは即日終わった。

 新居は事務所の社宅だったので、いつでも引っ越しは可能であったが、今日の彼女の姿を見て、俺が彼女のパーソナルスペースに存在してはいけないと悟った。

 故に事務所の人には迷惑をかけたが、それでもなるべく早く引っ越したかった。

 引っ越し作業を手伝ってくれた事務所の人にお礼を言い、新居に一人きりとなる。

 家具家電を備え付けてあり、食器や日用品といった不足物のみ一緒に買い出ししてくれた。

 

 静寂の中、思い返すのはやはり彼女の姿。

 あの姿を見れば、否応なく彼女が遠い存在なんだと認識出来る。

 だからこそ、あんなにもあっさりと割り切れたんだろう。

 もう彼女のライブに行く機会は無いのかもしれない。

 けれど、今日観れたライブのあの光景が記憶にある限り、主軸がブレる事無くこれからも生きていける。

 ――運命の日に、あいを死なせない未来に導く。

 それがこれから俺があいに近付くであろう、最初で最後の機会にする。

 デビューライブチケットの半券を見つめながら、そう決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所の人と相談し、来ているオファーに関しては時期が被っており、ダブルブッキングNGの案件を除き、全て受ける事にした。

 除いた案件に関しては先に来た依頼を優先的に受ける。

 そうしたら二か月丸々スケジュールが埋まった。

 流石に埋めすぎだと、部長っぽい人から注意が入り、事務所の人はその人にブチ切れられててペコペコ頭を下げてた。

 そんで部長っぽい人を交えた結果、ほぼ週五勤務のフルタイムみたいなスケジュールで決定。

 部長っぽい人はこれでも多いと言っていたが、学校に行きたくない一心で、全力で仕事させてくださいアピールをした。

 

 そして遂に、念願の携帯を手に入れた。

 社用ではあるが普通に自分用としても自由に使っていいらしい。前世では考えられない寛大さである。

 まあ電話番号やメールアドレスは、業界関係者以外に教えちゃ駄目だという制約はつけられたが、特例でおばちゃんだけ入れて良いか聞いたら許可して貰えたので、速攻でおばちゃんに会いに行き、連絡先を交換してきた。

 その時おばちゃんが「CMで、元気な姿見れて安心だよ」って言ってくれてちょっと涙ぐんでしまった。

 

 そして今、またCMの撮影に来ている。

 ホームメーカーのCMらしい。

 

「カズヤ君、今日はよろしくね」

 

 そういって声をかけてきたのは、このCMを撮影する監督だ。

 話によると、何かこの人がスポンサーに掛け合って俺のキャスティングを打診したらしい。

 それについて理由を聞いてみれば、

 

「カズヤ君の演技は、何ていうか存在が消える様に感じるんだけど、セリフだけは異様に頭に残るんだよ」

 

 との事。全く分からん。

 セリフが残っても存在感が消えるんなら駄目じゃないですか、と素直に聞いてみれば「キャラクターよりもフレーズを印象付けたいCMなら、これ以上の効果はないよ」と言われたので、結局分からず仕舞いに終わった。

 撮影中、俺の出番はワンシーンだけで、一言セリフを言うのみ。

 なので殆ど待ち、というか単独のシーンだから一番最後に回されている。

 なら別に最初でも良いんじゃね? と思ったが、自由時間として長時間待って、最後に一言喋るだけで金貰えるんだから別にいっか、と自己解決。

 そして暇時間に監督の言葉がやはり気になってくる。

 ――存在が消える様だけど、セリフだけ異様に印象に残る。

 トイレに行って鏡を見る。

 案の定、いつも通りの瞳。

 そこに星形のハイライトなど存在していない。

 

 

 結局分からず仕舞いのまま、撮影が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 仕事が早く終わった時は、事務所で社員の人と話をする。

 いつもそんな感じで、学校が終わる夕方くらいまで居座っていた。

 学校に行かなくていいの? と聞かれない為に話題提供を続けるのはすげー苦労する。

 自分の趣味や話題が無いので、すぐ無くなってしまう自分の会話ストックを使い果たしたら、残る話題は一つしかない。

 そう、あいの事である。

 彼女、含め所属するアイドルグループについて話をする事が必然的に多くなり、メンバーの情報や今度のライブの情報といった話が、気付けば彼らとの会話では専ら中心になっていた。

 そして今――。

 

 

「いやー、カズヤ君! 昨日のB小町のライブなんだけどさ――」

 

「やっぱり推しはアイに限るよね!」

 

「新しいグッズ出てて多めに買ってきたけど、欲しい人いる?」

 

 

 ――彼らは忠実なファン(奴隷)へと堕ちていた。

 

 俺自身は彼女のライブはあのデビューライブしか観ていないが、とりあえず彼らもそれなりにあいの事を見て知って貰えれば、同じ業界内だし彼女の仕事にもいつか繋がる可能性があるかもしれない、なんて希望的観測であいについて話をしていたら。

 彼らは試しにライブに顔を出し始め、気付けばグッズを買い始め、そしてファンクラブに加入していた。

 果たして彼らが単純なのか、それ以上に彼女の魅力が強すぎるのか分からないが、まあ彼女に貢献してくれているので、何も問題は無い。

 それに彼らがあいの事をファンとして愛してくれるのは、俺としても嬉しい。

 だが、俺が言い始めたからだろうが、俺をファン代表みたく彼女に伝えようとするのは勘弁して欲しい……。

 存在しない人間が、存在する人間に伝わるのは駄目だ。

 彼らがライブに行く前に注意するのが、ちょっとめんどくさい。

 この人たちがすげー優しいのは分かるが、

 

「とにかく俺の事なんか気にしないで、ファンとしてただ楽しんできなよ」

 

「でも、カズヤ君がアイの事を教えてくれたんだから、君が忙しくてライブ行けない分俺らがカズヤ君の思いも伝えてあげないと」

 

「確かに話し出したのは俺だけど、推しになりたいって思ったのは自分自身の気持ちでしょ? 俺のお陰とかじゃなくて、ファンである自分の気持ちだけを伝えてあげなよ」

 

『カ、カズヤ君……!』

 

 なんだこりゃ。

 こんなやり取りが毎回あり、回を重ねる毎に尊敬される眼差しが強くなる。解せぬ。

 そんな事ばっかり繰り返しているので気付けば、年下だが彼らにはタメ口で話す仲になっていた。

 とまあ、こんな感じでお土産感覚で彼らからライブ毎にグッズを渡されるので、俺の部屋が段々アイドルオタクっぽいテイストになってきてしまった。

 困る訳じゃないから別に良いけど、このペースで増えると遠くない未来、グッズに俺が部屋を追い出される可能性が出てきている。

 けど帰って、増えていくあいのグッズを目にすると、それだけ彼女の努力が報われていっている様にも感じ、嬉しい気持ちになる。

 そんな。

 

 

 一番星からは決して映らない日常を、俺は過ごしている。

 


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