"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
オーディションが終わり無事に帰宅。
おばちゃんに挨拶し自室に戻れば、そこにあいの姿があった。
「あ、おかえりー」
不法侵入にも既に慣れたもんである。
「おー、ただいまー」
家で会った時は専らこの挨拶になっていた。
「今日どこ行ってたの?」
「ん? 内緒ー」
「えー、教えてくれたっていいじゃん!」
そんな日常会話から始まるのもいつも通り。
「雑用よ雑用」
「雑用って何したの?」
この娘、しつこ可愛いので困る。
「あっち行ってどしゃってやって、こっち来てどんみたいな感じよ」
「ぜんぜん分かんないっ」
テンションが高い姿に苦笑しつつ、机に鞄を置いて、外着のまま布団にダイブ。
「あ、服が皺だらけになっちゃうよ?」
「だいじょーぶー」
だらけながら回答。
今日はちょっと緊張して疲れたから、横になったらもう動ける気がしない。
俺が悪いんじゃない、そう全て布団の魔力が強すぎるのが悪いんだ。
そんで服が皺だらけになっても、別に気にならないので。
そんな俺を見かねたのか「もー、全くダメダメさんだなあっ」なんて言って上着を脱がしてくれる。
いつも介護させてしまってすまんのお。
ありがと、とお礼だけは告げ、服をハンガーにかけてくれるのを見ながら、更に言葉を続ける。
「んで、そっちはどうなのよ?」
あいが帰ってきたのは大体一週間ぶり。
久々に会ったんで何か進捗があるのか聞いてみる。
「あ、そうだった」
返ってきたのは、何かを思い出した様な声。
おい、言おうとしてたの忘れてたのか。
ハンガーを壁にかけて、俺の傍に再び座る。
「デビューライブの日が決まったんだよね」
「おー、すげーじゃん」
いよいよ彼女が伝説を作る最初の日を迎える訳か。
結構頑張ってるのを見てたから、こちらとしても喜びはひとしお。
だが内心のテンションは声に出ていなかった様で、
「えー、なんかテンション低くない?」
やべ、彼女の同レベルかそれ以上でリアクションしないと拗ねんの忘れてた。
無理やりテンションを上げる。
「さっすが天下のあい様! すごいなー!」
「わざとらしい」
どないせえっちゅうねん。
ジトっとした目でこちらを見据えていたが、やがて目を瞑り両肩を軽く上げて大きくため息。
その「仕方ない人」みたいな反応やめれ。
もうテンションも素に戻してやる。
「……で、来てくれるよね?」
「おー、行く行くー」
「すごく嘘っぽいっ!」
「気が向いたら行くから大丈夫よ」
「さっきより行かなくなってるっ!」
珍しいあいのツッコミを聞いてると、つい苦笑がこぼれる。
彼女は再びため息を吐いて、腰に手を当てた。
「佐藤社長に言ってチケット貰ってもいいからさ、観に来てよー」
やめい、社長に言ったら「誰に?」「カズマ」「お、男!?」ってなんだろうが。
別にこちとらチケット代で考えてる訳じゃねーし。
「初ライブっていつ?」
そう聞けば、嬉々として教えてくれた。
あー二か月後ねえ。
直近じゃない分断りにくい。結婚式の招待状かよ。
予定入ってるんでって言っても、彼女にはバレる。
何故なら嘘だから。
ならば未来予想で語るしかない。
ホントはもう少し黙っていたかったけど、仕方ないか。
「行けたら行くけど、もしかしたら難しいかもしんないんだよなあ」
「えっ、なんで?」
「仕事」
「えっ?」
きょとんとした顔を見やり、続ける。
「これから仕事するから、どうしても外せなかったら行けないかもしれないからさ」
俺の言葉に、今度は驚きへと変わった。
まあこの年頃で仕事するとか言ったら、そりゃあ驚くか。
今日のオーディション結果はまだだが、初ライブの日にもし仕事が入ったら行けないのは事実なので何も嘘は言ってない。
かもしれない、という未来予想を伝えただけ。
気付けば、彼女は顔を俯かせてしまっていた。
……すまん、隠れてだが絶対観に行くからさ。
なんて心境で謝罪をしていると。
「…………じゃん」
おろ?
小さすぎて語尾しか聞こえなかった。
俯いたまま、彼女は再び言葉を紡ぐ。
「――仕事なんてしなくていいじゃん」
な、何か話の方向がおかしくなってないか……?