"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第14話

 時が経つのは早いもので、気付けばもう一二歳となり、小学生としては早くも卒業間近。

 俺もそろそろ将来を考えなければいけない。

 何故なら間もなく原作が始まっていくのだから。

 だが、それ以前に最近は、直近についてどうしていくか考える事が多い。

 それは何故か。

 

 とりあえず金が欲しいのである。

 

 小学生時代を改めて過ごし、やはり金がないとやりたい事が出来ないと学んだ。

 星野ママを探すのも色んな場所に行く必要があるだろうし、やはり金がかかる。

 だがこの年齢でバイトなんて出来ない。

 ならばどうするか。

 そこで一つ案として浮上したのは、やはりというか芸能界であった。

 子役とか受かりさえすれば、すぐに仕事に繋がる。

 そして仕事が忙しくなれば学校に行かなくてもいい。

 つまり中学生における最大の挫折ポイント――数学の"証明"をやらなくて良いという事になるッ!

 マジで証明だけは訳分からん。特に人生で使わんのだから、答えだけ合ってればいいだろと当時から憤慨していた記憶がある。

 てな訳で即働けて、かつ上手くいけば中学に通わなくても良いという希望に魅入られ、俺は真剣に子役デビューを考えていた。

 考えたところで、オーディションやら受からなければ、そもそも始まらないんだけども。

 だが、短期的計画としては比較的ありだとも思っている。

 

 何故なら仮に子役としてデビューしたとしても、いつまでも続けるつもりがない。

 というか続けられる実力が無いだろうから、中学終るまで出来れば続けて、一六歳超えたらとっとと辞めてバイトすりゃいいだけだから。

 芸能人として短い生命で終わり世間から特に認知されなければ、星野ママ探しでも余計な枷にならないという利点もある。

 以上の理由から、俺は最近芸能界デビューを目指そうと決めかけていた。

 

「カズマ、いま大丈夫?」

 

 突如開かれる自室のドア。

 最早彼女はノックすらしなくなった。

 そして質問形式の言葉だが、これは実質断定である。

 無論俺としても何ら不満は無いので「あいよー」といつも通りの回答。

 ドアを閉め、布団に横になっている俺の傍に腰掛ける。

 長袖のパーカーにキャップを被っている、いつものファッションが俺の目には映っていた。

 どちらも話さず、僅かな静寂。

 

 不意に彼女の口が開く。

 

 

「アイドルにスカウトされた」

 

 

 ほーん、俺の返しはいつもこれだ。

 体育座りしながら、顔を膝に埋もれさせている姿を眺めつつ、思う。

 いよいよ始まるのか。

 

「それだけ?」

 

 いつも通りだが余りにもそっけなく思ったのか、僅かに顔を上げて視線を送ってくる。

 

「まあ、そうなるだろうなって思ってたからさ」

 

「なんで?」

 

「だって、そうなるだろうなって思ってたからさ」

 

 何となしに返せば、視線の圧が僅かに強くなる。

 

「……答えになってない」

 

 不貞腐れている様な気配を出しながら、再び膝に顔を埋めてしまった。

 彼女は笑わなくなった。

 一年ほど前から徐々に、もう母親が迎えに来る事は無いんだと、自分は捨てられてしまったんだと自覚し始めた。

 その間、今もだが俺に出来るのは、ただ一緒に居る事だけ。

 これが、この世界でなければ他にやりようはいくらでもあっただろう。

 けれども、この世界では原作の修正力が起こるかもしれない。

 そう考えると、ただ一緒に居る以外の選択肢を実行する勇気が、にわか(半端者)である俺には無かった。

 彼女を原作通りに死なせる訳にはいかない。ただそれを成し遂げたいが為に。

 

「そんで、アイドルはやるの?」

 

 会話が途切れてしまったので、こちらから話題を振る。

 彼女は変わらず顔を埋めたまま。

 

「……やってみようかなって、思ってる」

 

 小さく呟いた。

 どうやら原作通りの流れになった様だ。

 

「そっか」

 

 ただの相槌で、彼女の言葉に返事をした。

 顔を埋めたままで、相変わらず表情は分からない。

 寝転がりながら横目で眺めていた視線を天井に向け、そっと一息。

 

 

「……ねえ、カズマ」

 

 

 衣類で籠った声が届いた。

 

「んー?」

 

 見飽きた天井を眺めつつ返す。

 

 

「……嘘でも愛してるって、言ってもいいのかな?」

 

 

 静かな声。けれど耳にはしっかりと聴こえた。

 聞き方は質問だろう。

 けれど彼女は俺に対して、いつも断定的だ。

 

「いいんじゃね?」

 

 俺に対して初めて見せた承認欲求に、肯定してあげる。

 

「……いいの?」

 

「あいが嘘でもいいから愛してるって言いたいなら、言っちゃえばいいよ」

 

 これから俺に出来るのは、求められた際に行う後押しだけ。

 ここからの未来は彼女の独壇場なのだ。

 彼女の輝かしい表舞台に俺の存在は不必要。

 そんな関係で良いんだ。

 

「……そっか」

 

 ほら、歩き始めた彼女は立ち止まらない。

 何より誰にも止められない。

 

「じゃあアイドル、やってみようかな」

 

 今ここに伝説の幕が開けた。

 ここにきて、俺と彼女の道標が正式に変わった。

 元気に羽ばたいてきちゃいな、アイドル(嘘吐き)様よ。

 

「おう、頑張れー」

 

 言葉と共に視線を向ければ、幾分かアイドル(嘘吐き)らしい顔付きに戻った姿が見える。

 そんな表情も久しぶりだな、なんて感慨深くなってしまう。

 これから俺の知らない、練習であったり厳しい裏側に直面もしていくんだろう。

 けれどそれを乗り越えて、至った初ライブの時くらいは見に行ってあげよう。

 じゃあ湿気のある雰囲気はここで終わりだ。

 

「アイドルのあいさーん、こっち見て笑ってくださーい」

 

 そう言ってカメラを持つポーズをしてみれば、

 

「ざんねーん、ファン(推し)になったら見せてあげまーす!」

 

 多少ぎこちなさは残りながらも笑顔を浮かべ、からかい交じりの視線を送ってくる。

 まあ君は俺にとってもう"推しの子"なんだけどね。

 だがもう先程までの空気は完全に霧散した。

 さて、せっかくならこの空気に乗じて、先着特典でももらいますかな?

 

「ほら、せっかくだから愛してるーって言ってみてよ」

 

 嘘ではあるが、一番最初の愛してる。

 これくらいの役得はあったっていいだろ?

 しかし彼女はきょとんとした顔を浮かべる。

 まあいきなりだったかもしれん。

 

「んー」

 

 首を僅かに傾げ、人差し指を唇に当てて何やら考えている。

 いや、言えよ。

 後のファン(奴隷共)に対して優越感に浸ってやりたいんだから。

 やがて彼女は表情を変えた。

 

 

 

 

「カズマにはまだ、言ってあげなーいっ!」

 

 

 

 解せぬ。

 いっちょ前にからかってくれちゃってと思いつつ、浮かんだのは笑顔。

 ……けどまあ。

 

 この最高の笑顔が俺一人に向けられたってだけで、役得だな。

 

 三月は別れの季節、だが彼女の笑顔は早くも新たな門出を祝う様な輝きを放っていた。

 


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