"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第13話

 あいちゃんが施設で暮らす様になって早数年。

 細かい年数が気にならないのは、もう年なんだろうか……? 精神年齢的には前世と殆ど変わってないと思うんだが。

 まあそんな訳で、いつもと変わらぬ日常を送りながら、小学生時代を謳歌していたある日。

 朝から何やらおばちゃんとあいちゃんが部屋に籠って話をしている。

 

 休日なのでやる事はなく、朝食を食って自室で寝転がりながらぼんやりと考えに耽る。

 内容は聞いてないから分からない。

 けれど朝からおばちゃんたちの空気が多少固いのは感じた。

 施設職員の空気が若干緊張し、そしてあいちゃんと話をする。

 

 ……あー、星野ママが釈放されたのか。

 

 同時に、体に電撃が走る。

 って、釈放されたのか!

 上体を中途半端に起こしたまま、やがて倒れた。

 これまでは大体の居場所が分かっていたが、会えなかった。

 釈放されたって事は星野ママにはこれから会える様になる。

 だが、反対に居場所が分からなくなった。

 まるでサハラ砂漠で一片のガラスを探す様な状態だし、何より孤児であり小学生の身では、どうしても捜索範囲が極端に狭くなってしまう。

 見つけたい、けど今はその方法がない。

 そのもどかしさに、今この身が大人だったのならと、叶わぬ願いを考えてしまう。

 何とかしたいが、正直方法が無い。

 行き場の無い思いに、結局ため息を吐くだけだった。

 

 

 ドアをノックされる音で、意識が現実に戻る。

 ほーい、と声をかければ静かに入室してきたのは一人の少女。

 半ば予想はしていた。

 

「……カズマくん、今ちょっとお話しても大丈夫かな?」

 

 年月が経ち、まだ小学生とはいえ徐々に少女から女性へと成長の兆しを見せ始めた絶世のアイドル様は、変わらぬ笑みを携えて俺を見据えた。

 変わらずに星形のシルエットが、彼女をより引き立たせる。

 おけよー、声を返せば後ろ手にドアを閉めて、数歩進めた所で立ち止まった。

 寝たままだとアレかなと思い、とりあえず上体を起こす。

 

「えっとね、今日お母さんが釈放されたみたい」

 

 やはり予想は正しかったか。

 

「それでね? お母さんが迎えに来るかもしれないから、来た時の為に準備はしときなよって言われたんだ」

 

 ……迎えに来る"かもしれない"、ねえ。

 流石におばちゃんたちは家庭環境の事は把握してるか。

 

「それでね」

 

 彼女は笑顔のままに続ける。

 

「お母さんが来たら、カズマくんの事紹介したいんだ」

 

 心臓が大きく鼓動する。

 しかし表情には出ない様なんとか堪え、彼女に返す。

 

「ふむふむ、何て紹介してくれんの?」

 

 俺の言葉に、僅かに身を捩りながらはにかみを浮かべる。

 そして(アイ)からの言葉で告げた。

 

 

 

 

「えっとね――――大切なお友達だよって!」

 

 

 

 

 ……あっぶねええええっ。

 内心で盛大なため息を吐く。

 思わせぶりはやめなさい! 本気で焦ったでしょ全く!

 心の底から安堵を感じ、ようやく心臓の鼓動が落ち着いてきた。

 いや、かなり危険な場面だった……。

 ここで万が一にでも「大好きな人」といったニュアンスが披露された日には、原作崩壊どころじゃない。

 原作が始まらないんだから、そりゃ焦る。

 彼女は本当の愛とやらを知る為とかでアイドルになるんだから、それが原作以前にある程度掴めてしまっていたらアイドルをやるのかどうか分からない。

 そして、それに合わせて引き起こるかもしれない原作の修正力。

 それが本当に怖すぎる。

 まあそもそも原作の修正力で、星野ママが迎えに来ない可能性は高いが、それを抜きにしても今そういった感情が彼女の中で芽生えれば、彼女のその感情がハッキリする前に、最悪俺が不慮の事故か何かで死ぬ可能性だって考えられる。

 そうなりゃドームライブ当日に、あいちゃんを救う事なんて出来なくなる。

 だからこそ、今そういった感情を抱くのは怖かった。

 それに万が一対象が俺だったとしたら、つり合わなさ過ぎて笑い話にもならない。

 俺が主人公格様たちと同等に並べる訳が無く、寧ろ邪魔にしかならない存在だろうから、一緒に居る訳にはいかない。

 極々たまーに天下のアイドル様とお話出来れば、この上ない幸せよ。

 

 それに、娘の好きな人は実は自分を好きでした。なんて展開になったらどこの昼ドラよ、って話になる訳で。

 

「……そっか、ならあいちゃんの友達として今まで以上に頑張らないとなー」

 

「カズマくんは今のままで大丈夫だよっ!」

 

 いい娘やでホンマに。

 

「そんじゃ、あいちゃんのお母さんにする挨拶の練習でもするかなあ」

 

「いいね! せっかくならかっこいい挨拶にしよっ!」

 

 格好いい挨拶ってどんなんよ? えっとねー、じゃあこう言うのは?

 室内に響く楽しそうな声は、昼食を知らせるおばちゃんの号令がかかるまで、途切れる事なく続いた。

 俺には、せめて今だけは楽しい夢の様な時間を送らせてあげたい、そんな事しか出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 そして一日、二日、一週間、一か月……一年が経った頃、星野アイはアイドルではなくなった。

 


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