"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第10話

 彼女を連れて、いつもは一人で歩く道を進む。

 会話はあまりなく、俺が歩いて彼女が付いてくる。

 けれどあいちゃんはそれでも楽しそうだった。

 やがて見えてくる我が家。

 

「もうすぐ俺んちだよ」

 

 そう伝えれば、

 

「カズマくんのお家ってどんなのか楽しみだなー」

 

 なんて朗らかな回答が返ってくる。

 そして到着。

 

「ここが、俺の家だよ」

 

「えっ」

 

 一般住宅とは違う佇まい、けれども集合住宅とも違う造り。

 

「……ここって」

 

 反応から察する。

 ああ、もう既に知ってるんだな。

 

「児童養護施設ってやつだよ」

 

「……あっ、じゃ、じゃあっ」

 

 彼女の表情は驚き。それを作っている。

 しかし声色から感じるのは僅かな喜色。

 普通は不謹慎なのかもしれない、けれど普通が当てはまらない彼女には許して欲しい。

 彼女から出る喜色は、傍から見れば理解出来ないだろう。

 そう、これは仲間を見つけた様な感覚なんだろうから。

 声は出さず、頷きで肯定しておく。

 そこから彼女は一呼吸置き、瞬きをする。

 再び目を開いた時には、既に"いつも"のあいちゃんだった。

 

「私ね、お母さんが捕まって、明日から施設に入る事になったんだ」

 

 ふむ。

 

「今は児童相談所ってとこにいて、そこから移らないといけないんだって」

 

 ほうほう、つまり少し前から星野ママは逮捕されていたって事なのか。

 もしかして授業参観来なかったのもそのせいか?

 

「そっか……じゃあ一緒に暮らせるね」

 

「うん! カズマくんが一緒で良かった!」

 

 伝えれば綺麗な笑顔が返ってくる。

 そこに少しばかり(アイ)が見えて、こちらもつい笑顔になってしまう。

 

「明日から楽しみだね」

 

 一般的には不謹慎だろうがそう伝えれば、

 

「うんっ!」

 

 当然の如く、笑顔で返ってきた。

 流石はあい()ちゃんだ。

 

「そういえば、カズマくんっていつからここにいるの?」

 

「ん? 生まれた時からだけど」

 

「えっ……?」

 

 何気無く返せば、再び驚いたあい(アイ)ちゃんの表情。

 聞かれたからとりあえず説明だけしとくか。

 

「なんか生まれた時に捨てられたのか分からんけど、施設の前に段ボールに入って置かれてたっぽい」

 

 全く俺は捨て猫じゃねーぞ、って大きくなったら話のネタにしようと考えている。

 とりあえず話を変えよう。

 

「んじゃ、ちょっと施設の中とか見てく?」

 

 もしかしたら既に確認済みかもしれんが、他に話題もないので聞いてみる。

 

「えっ……あっ、う、うんっ」

 

 驚いて理解して頷くが綺麗に分かる回答に満足し「そんじゃお家見学へ行きましょかー」と、彼女の手を引き玄関へと向かう。

 話を強引に変えたのには、もちろん理由がある。

 

 まずこのタイミングであいちゃんに施設に住んでる事をバラしたのは、星野ママに関して逮捕されたのか確証を得たかったのと、単純にインパクトを狙って。

 ここに来るまでの彼女の態度を考えると、母親に関して聞こうとしても素直に答えてくれない可能性があった。

 何故なら、まだ彼女の母親が逮捕されたという情報は出回ってないし、こちらとしても核心を突いた聞き方が出来ない以上、はぐらかされる。

 こちらが核心を突いた聞き方をした場合は、実はまだ逮捕されていないという状態だったならば、彼女が俺に対して何かしら警戒心を持たれる可能性があったから。

 故に話しやすくなる様に、フィールドを変えた。

 

 俺が施設で育っているという事を、星野ママが逮捕されていない状態で伝えていたとしても、彼女の俺に対する印象がマイナスになるという事はあまり考えられなかった。

 何せ俺が親から愛されていないと思われれば思われる程、あいちゃんからすればより近い存在として認識される様になるから。

 そして今回がそうだが、それに加えて母親が逮捕された後だった場合、彼女は施設で暮らす事となり、その施設はこの地域に一つしかない。

 ここで二人で暮らすという事は、一緒にいられるという仲間意識が強くなる。

 詰まる所、仲のいい友達が実は同じ恵まれない境遇で学校でも家でも一緒に居られる様になったという事である。

 

 そして俺の境遇について強引に話題を転換したのは、また別の理由。

 こちらは、彼女を必要以上に俺へと踏み込ませない様にする為。

 あそこで話を変えなければ、それこそ"愛する愛される"といった本質的な話をされる可能性があったから。

 こうして本質的な話さえ踏み込まなければ、恐らく大丈夫だろうから。

 けれどその直前まで寄せる程度の関係性で維持出来なけりゃ、これから大きくなっていくにつれて、彼女からの関心が薄れてしまう。

 本当なら、あいちゃんみたいな美少女と付き合うとか夢の体験したいけど、この世界観的に無理だろうからそれは諦めてる。

 だけどこんな美少女と仲良いとか、アイドルとプライベートで話せる仲といった、役得プラス世の中の男達に対して優越感に浸りたいから、そこだけは許して欲しいのよ原作の修正力様。

 

 屋内に入り、とりあえず色んな共有スペースを案内していく。

 途中でおばちゃんに会ったので聞いてみれば、おばちゃんはやはり事前に知っていた様で、少し話した後「仲良くやりなよー」と言って仕事に戻っていった。

 一通り案内終了。

 

「まあ見るもんはそんななかったけど、とりあえずこんな感じの家だね」

 

「ううん、いろいろ教えてくれてありがとう!」

 

 明日から楽しみだなー、なんて言う子に思わず笑みがこぼれる。

 まあ嘘ばかりでなく楽しんでいる部分もあった様だから、それなら何よりですわ。

 空を見上げれば既に夕焼けが迫っていた。

 

「じゃあ、今住んでるとこまで送るよ」

 

 そう伝えれば、

 

「うんっ、じゃあお願いします!」

 

 そう言って笑顔で、既に離れていた手を再び握られた。

 来た時とは変わり、あいちゃんを先頭に歩き始める。

 

 

 

 

 ――よし、じゃあ明日から母の攻略(推し活)始めますか。

 


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