"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第1話

 翌日。

 

 俺は『星野アイ』に絡む事にした。

 

 俺が教室に入ると、彼女は既に自分の席に座っていた。

 隣の席なため特に気にすることなく近付き、自分の机の上にランドセルを置く。

 

「おはよう、星野ちゃん」

 

 今時は小学生同士でさん付けで名前を呼び合わせる習わしが増えたとか前世の最後の方にニュースで見たが、俺が小学生だった時はそんなルールは無く、現世で通うこの学校でもまた、そんなルールを明示された事はなかったので、普通にちゃん付けで呼んだ。

 気持ち的にはまるで甥っ子や姪っ子に接する感覚なので『アイちゃん』と呼びたいところではあるが、流石に今は見た目上同級生。

 空気を読んでみる。

 

 俺の声につられて彼女の顔がこちらへと向いた。

 

「おはようっ……えっと」

 

 控えめながらも笑みを浮かべ、やがてそれは僅かな困り顔へ。

 

「ああ、直接自己紹介はしてなかったね、俺は吉田拓郎。よろしくね」

 

 こちらが名乗りを上げればその表情は再び笑みへ。

 

「うんっ、よろしくね。吉井くん!」

 

 そういや彼女は興味だか才能だかある人の名前しか覚えられなかったんだっけか。

 にわか知識を思い出し、思わずこちらも笑みが浮かんだ。

 

「ちなみに俺の本当の名前は木村カズヤだから、改めてよろしく」

 

「……えっ? さ、さっきの本当の名前じゃないの……?」

 

「そうそう、木村カズヤが本当の名前ですよー」

 

 浮かべていた笑みが消え、次いで彼女が浮かべたのは困惑。

 まあ普通に初対面で違う名前言われりゃ困るわな。

 けれども小学生ならばそんなのはケロッと変わり「えー、嘘つくなんてひっどーい!」とか軽いぷんすかモードに移行する。

 

 しかし彼女は、星野アイはそうはならない。

 ――で、でも最初の名前の時も嘘じゃなかったのに、なんで……。

 席が近すぎるが故に独り言は全てこちらの耳に届くが、それに触れないでいてあげるのが大人のマナー。

 

 僅かに顔を俯かせ独り言を披露していた彼女だったが、突如目が合う。

 星野アイの象徴である、瞳に浮かぶ一番星が一瞬、僅かに光った。

 その瞬間、気付けば彼女は笑顔になっていた。

 

「えー、嘘つくなんてひっどーい!」

 

 極々僅かにだけ怒りを含めた声と表情と仕草。

 どのいずれでもこちらが無意識に「ごめんごめん」と言いたくなってしまう程に、全てが完成されていた。

 とりあえずその感覚に従う事にする。

 

「ごめんごめん、ついね」

 

 後頭部を軽く搔きながら謝りの言葉を入れる。

 

「もー、初めて話す人に違う名前言っちゃダメだよー木山くん」

 

 そういって彼女は笑っていた。

 同時にチャイムが鳴り、担任の先生が教室へと入ってくる。

 これにて彼女との初邂逅は終わりを告げた。

 

 小学校程度なら授業を聞かずともテストは何とでもなる。中学は無理かも……。

 真面目に聞いているフリをしながら、思考は先ほどの初邂逅へ。

 

 まあまあ、いかに絶対的な一番星のアイドルと言えど所詮はまだ年相応の幼女である。

 こちとら前世の販売や営業職で鍛えた話術に叶う筈もないだろう!

 彼女が名前の嘘に気付けなかったのはある意味至極当然。

 言った俺自身が思考を放棄して、いわば脳死で違う名前を言ったんだから。

 難しい事は無く、ほとんどの人が友達とかの会話で経験してるはず。

 どうでもいい話をしている時にする、どうでもいい返事。

 友達が下らない事を適当に話している時に、こちらも適当に「あーそーだねー」なんて返す。

 この返事は果たして嘘なのか?

 恐らくこれは嘘でも真実でもない、ただの虚無。

 話の中身が濃い薄い、重い軽い。

 そんな次元に無い、本当に"中身の無い言葉"だから。

 

 今の自己紹介も仲のいい友達に向かって言えば、恐らく返ってくるのは一切の中身が無い「あっそ」という言葉だろう。

 だからこそ彼女は、これが嘘だと気付けなかった。

 いや、気付ける訳が無かった。

 だからこその勝利!

 

 まあそれは置いといて、それよりも気になる事がある。

 彼女の瞳の星、光ったよな……?

 星野アイのキャラクター画像は見た事あるけど、現実でも光るのか。

 任意で光らせられる様になれば、悪戯とかに使えねーかな?

 肝試しとかで急に光らせたら、めっちゃビビりそうだけど。

 まあ、これは今後に期待しとくとして――。

 

 昨日は「唯一無二のアイドル様に絡んで原作をどうのこうのなんて無理だああああ!」と普通に自分の圧倒的スペック不足感を肴に枕を濡らそうと考えていたが、寝落ちする寸前に一瞬の閃きが俺の身体を覚醒させた。

 いやなに、今横で一生懸命黒板の文字をノートに書きこんでいる絶世の美幼女こと星野アイをどうこう出来るという訳じゃない。

 彼女と恋愛やらをするのは無理だと端から悟っているから、そこは安心してくれ。

 星野アイはこの物語において絶対。

 つまり星野アイとは圧倒的主役級である。

 象と蟻が闘うなんてちゃちな規模ではなく、即ちビッグバン対俺個人でタイマンする様なもの。

 端から勝負になっていない。

 確かに俺に対して彼女の瞳に眠る一番星は瞬いた。

 しかしながら、結果は名前を間違って呼ばれた。

 その時点で彼女の中で、俺の存在価値は遥か下方で定まったに違いない。

 若者の特権である無茶や無謀をこの世界の主人公格様にする様な真似はしない。

 けどまあそれなりに仲良くはしていければいいなとは思ってる。

 だって絶対に可愛く綺麗になるのに疎遠になるなんて勿体ない……。

 例え俺に対しての全てが完璧な嘘だったとしても、可愛い子といれた方が嬉しいでしょ!?

 てな訳で彼女とは今後もそれなりの交友関係を築いていけるといいな、とは思っている。

 

 そんでもってここから本題。

 星野アイ以外の登場人物は画像も見た事ないから姿形が全く想像できないが、皆女優やらアイドルやら俳優やらで美形に違いない。

 しかし登場人物に挑むのは星野アイのビッグバン程は無くとも対ブラックホール程の戦力が必要になるに違いない。

 けどそんなの無理。

 

 ならばどうするか。

 答えは簡単。

 とてつもなくすんげー死ぬ気で血反吐垂らしながらも挑み続ければ天文学的数字だったとしてもワンチャンありそうな人を選べばいい。

 それはメインどころではなく、サブでもない。

 それよりももっと下に位置するけど、役はある。

 そして作中で僅かでもランクが上がる事は無い。

 けれども美貌は保証出来そうな匂いがプンプンする。

 そう――。

 

 

 

 

 ――星野アイの母親を攻略する。

 

 

 

 

 これを閃いた時は流石に、自分自身に酔いしれてしまった。

 絶対的なアイドルの母親なのだから、可愛いか綺麗に決まっている。

 これは完璧で究極の計画……!

 

 

 そして諸君、知っているか?

 

 

 

 

 美少女物の作品の母親って……老けないんだぜ?

 


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