第二の課題は「湖の底にある選手達の奪われた者を取り返す」という内容だった。
その内容を聞いてロンとハーマイオニーを見掛けなかったのはこれが理由かと察した。
大方ハリーにとって大切な存在がロン、ハーマイオニーの場合は彼女に熱を上げているらしいクラムだろう。
空中にはそれぞれ四つのモニターが設置され代表選手一人一人を映し出している。
代表選手は既に全員が湖に潜っていた。セドリックとフラーは“泡頭呪文”、クラムは頭をサメに変身させ、ハリーは“鰓昆布”を使っていた。
「鰓昆布だって……?」
そして、俺はハリーが鰓昆布を使ったことに疑問を持っていた。いや、確かに鰓昆布といえばこの競技と相性の良い選択だろう。たが、俺にはハリーがそれを一人で思い付いたとは思えなかった。
ハリーの周りで鰓昆布に行き着きそうな人間といえばハーマイオニーが挙げられるがいくら彼女であっても鰓昆布に行き着くことはまず無いだろう。
では誰がハリーに鰓昆布のことを教えたのか? まさかダンブルドア先生の訳もないし。
そもそも、ハリーがこうして出場しているのはゴブレットに何者かが名前を入れたからだ。そしてその何者かが何故ハリーの名前を入れたのか。
ハリーを陥れる為? それもあるだろうがダンブルドア先生の膝元でそんなバカな真似はそうそう起こさないだろう。
では何が目的だ───? ハリーに、三校対抗試合を優勝させるためではないのか?
あまりに荒唐無稽、馬鹿馬鹿しい妄想かもしれない。だが、俺にはどうも無関係に思えなかった。今回の鰓昆布とゴブレットの件。この二つを起こしたのが同一人物とするなら。
気を付けなければならない。もし、もしその者がヴォルデモートの手の者だったのなら。“未来視”で見た、セドリックの死に関係ある人物かもしれない。
第二の課題はそれはもう大波乱だった。フラーが棄権したことで彼女の大切なものであった妹が助けられずにいたがハリーが何とか助け出したり、それによって大幅な加点となったりと色々だ。
それから月日が経って、俺はハリーたち三人と共に叫びの屋敷を訪れていた。
「なぁシリウスさん。ちゃんと食べてる?」
「食べているとも。そんなに私は痩せているか?」
「あんまり肉が付いたように見えないんだけど」
持参したチキンやらスープやら全てをあっという間に平らげた男───シリウス・ブラックは「ちゃんと食べてるんだがなぁ……」と自身の腕を摘まむ。
冤罪が晴れ、堂々と町中を歩けるようになったとはいえまだ彼に対する目はほんの少し悪いものだ。だからこそシリウスさんはこうして叫びの屋敷にいるのだ。
格好は三年生の時に会った時よりも格段に良くなっており、ブラック家の高貴さというのだろうか。そういうものが全身から溢れていた。それを見たハリーは目をキラキラさせている。
とはいえ何故か肉があまり付いていないのでちゃんと食べているか聞いたのだが本人はしっかり三食食べているそうだ。
「シリウスおじさんはクラウチのことを知ってるの?」
ハリーが聞くと、シリウスさんは『おじさん』呼びにショックを受けたようだが、持ち直して「あるとも」と頷いた。
「なにせクラウチこそが私を裁判無しでアズカバンに放り込んだ張本人だからね」
「えぇっ!?」
その衝撃の告白にハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は揃って驚愕した。俺もそれを聞いたときは驚いたものだ。
「当時、バーテミウス・クラウチは魔法法執行部の部長で次期大臣の呼び声も高かった。まさしく人生の絶頂期と言える。だが、そんな彼を地に落とす事件が起きた。彼の息子が死喰い人だと発覚し、捕まったんだ」
「クラウチの息子が捕まった?」
ハーマイオニーが信じられないとばかりに眼を見開く。
「そう。クラウチにとってはスキャンダルも良いところだ。何せ出世街道を順調に歩いている最中のことだったからね。そのことに世間に大きな衝撃が走ったのは間違いない」
「クラウチは息子を助けようとした?」
ハーマイオニーの掠れた声にシリウスさんは引きつり笑いを起こした。
「クラウチが? 自分の息子を助ける? ハーマイオニー、君には奴の本性が見抜けていると思ったんだが? そんなことはあり得ない。クラウチにとって犯罪を犯した息子など自身の輝かしい経歴に泥を塗りたくった愚か者でしかない。たとえ息子であっても彼は裁いたさ。
世間はそれを息子をほんの少しでも楽にさせようという判断だと考えたようだが私はそうは思わなかった。アイツにとってもはや息子でも何でもない、ただの犯罪者だ。あの裁判だって自身の息子であっても悪であるのなら容赦なく切り捨てるという見せしめの面もあったのだろうね」
その言葉に、かつての戦争時代の悲惨さを垣間見た気がした。
◆ ◆ ◆
そんなシリウスさんとの会合から数日。朝食を採っていた大広間は一時騒然となった。
「あんなクソ記事に騙される奴がいたんだな」
床に散らばる無数の手紙の内の一枚を拾い上げて顔をしかめる。
穢れた血やらふしだらな女やらともかく特定の一個人を罵倒する内容がびっしりと書き連ねられていた。
それも全てハーマイオニーに向けて、である。
事の発端は『週刊魔女』と呼ばれる女性向け雑誌に掲載されたある一つの記事が原因であった。
内容を端的に言えばハリーはハーマイオニーに恋をしていたがハーマイオニーはクラムを誑かしてハリーを振った悪女───らしい。馬鹿の考えだ。しかし、それを鵜呑みにした馬鹿の中の馬鹿共はハーマイオニーに手紙を送りつけた。
罵倒の数々に開けば切り裂き呪文が飛び出すようなものまで多種多様だ。
「悪質な呪文に劇薬まで……英国人はなんて愚かなんだ!!」
医務室に運ばれていくハーマイオニーを見送ったクラムが吐き捨てるが、ここにいるホグワーツ生の誰もが思ったことだろう。“こんな馬鹿共と一緒にするな”と。
「アーデル、何をしているのです」
「手紙の送り主共に呪詛返しをしてやろうかと。ナメクジを吐き出す呪文にタンスに小指をぶつけ続ける呪いに一生取れない出来物が出来る呪いまでその他諸々セットでプレゼントしようかと」
「……過激が過ぎます。お止めなさい」
俺の行動を察したマクゴナガル先生が聞いてきたので笑顔で答える。しかし、マクゴナガル先生にとっては過激すぎるようで止められた。
「どれか二種類までに絞りなさい」
「さっすがマクゴナガル先生話が分かる!!」
とうやら今回の件はマクゴナガル先生もお怒りのようだ。GOサインも出されたので嬉々としてどの呪いをプレゼントしようかと頭を悩ませる。
だってほら、こんな物を送ってきたってことは自分達もやり返される覚悟があるって事なんだろ?
「グリーングラス家の助けは必要かしら?」
「よろしければカリアン家も一つ」
「二人とも良いのか?」
と、そんなことを提案してきた二人に俺は眼を見開く。有り難いけども。
「少し頭を使えば嘘だと分かるでしょうに。それなのにこんな仕打ちをするなんて下衆のすることよ」
「まぁ僕も似たようなものかな。こういうのは見せしめに締め上げておかないと馬鹿が湧いて出てくるからね」
そんなことを言って二人はさっさと生家宛の手紙を書いてふくろうに持たせて飛ばした。
「ま、いくら連中がトロール並の頭でも流石にこれ以上はしないだろ」
今回の件、かなり俺も腹に据えかねている。ちょっとくらい痛い目を見せたって構わないだろ? 俺の友達を傷付けたんだしさ。
後日、ダフネと紅茶を飲みながら事の顛末を聞いていた。
「へぇ、社交界で」
「えぇ。事態を知った名門の多くが批判したそうよ。子供を、たとえ成人した者にやることだとしても品性に劣る行いだとね」
主に発言したのはグリーングラス家を筆頭とした中立派の家系である。
加えて本来の中立派筆頭たるカリアン家は例の記事を書いたリータ・スキーターを調べ上げ、未登録の動物もどきであることを突き止めて闇祓いに情報提供した。
故に今朝の『日刊預言者新聞』の見出しは“リータ・スキーターは地を這いずるコガネムシ”である。実に傑作だ。
しかし、未登録の動物もどきに関してはこちらに
「これでハーマイオニーも少しは落ち着けるだろうな。もうあんな物に頭を使わなくて済むだろ」
「そうね」
◆ ◆ ◆
それからさらに時は過ぎてホグワーツはあっという間に学年末試験の期間になった。
多くの生徒が目を赤くし、中には延々と教科書の一ページをぶつぶつと呟いている者まで出始めている中、俺はとんでもないものを見てしまった。
ハリーが校長室の前で喚いていたのである。あぁ、ついに狂ったかと生き残った男の子の変わり様に嘆いていたら俺を見つけたハリーが全力で俺の下まで走ってきて肩を掴む。
「リオン! ダンブルドア先生に会いたいんだけど!」
「いてっ……お、おい落ち着けって。何があったんだ?」
「森でクラウチ氏を見かけたんだけど様子がおかしくて! 今はクラムに見てもらってるけどダンブルドア先生に来てもらおうと……」
言い切る前に、守護霊の呪文を唱えて伝達を頼む。そして一分もしない内にダンブルドア先生が校長室から出てきた。
三年生の春休みに父さんから守護霊の呪文を応用した伝達方法を学んでおいて良かった。
俺が考えている内に説明が終わったのかダンブルドア先生の友達の不死鳥たるフォークスが現れてダンブルドア先生がその尾を掴み、ハリーが先生の手を取る──と、二人の視線がこちらに向く。付いてこいということらしい。
フォークスの足を掴み、「頼むよ」と告げると視界が光に包まれた。
視界が晴れると、どこかの森に立っていた。漂う邪気をフォークスが祓い、光の中にクラムが倒れているのが見えた。
急いで駆け寄り、頬を何度か叩くも反応がないので気付けの呪文を唱えるとやがてクラムが身じろぎした。
「アイツが! アイツが僕を! 審査員が訳の分からないことばかり……少し目を離した隙に……」
「落ち着くのじゃクラム。怪我はないかね?」
興奮していたクラムはダンブルドア先生の声によって冷静になり、「大丈夫です……驚いただけで……」と返す。
先生が立ち上がり、俺とハリーに視線を向けた。
「ハリー、リオン。クラムを医務室に連れて行くのじゃ」
「ではわしがクラウチを探そう」
颯爽とやって来たムーディ先生がさっさと森の奥へ消えていく。眼は狩りをする者のように鋭く光っていた。
俺とハリーは倒れているクラムの両腕を抱えて立ち上がらせると医務室に連れていくために歩き出す。
「ごめんな。英国に来て嫌なことばかりだろう。クィディッチのヒーローに俺達は良いところを見せられてないな」
少しでも気を楽にさせようと言葉を掛ける。クラムは「いや……」と首を横に振って続けた。
「この試合、最初から変だ。まるで誰かに見られてるみたいな感覚になる……」
その言葉に俺とハリーは顔を見合わせた。
思えばこの時から闇の足音は迫っていたのだと、それに気付くのはもう少し先の話だった。
【悲報】リータ・スキーター、さっさとアズカバン送りになる。