ハリーポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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クソッタレな未来

 ボーバトンとダームストラングを交えての夕食は素晴らしい盛り上がりを見せていた。

 やがてテーブルに並べられた食事がほとんど空になった所でダンブルドア先生が立ち上がり、三校の生徒の視線がそちらに向かう。

 

「時は来た。三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。『箱』を持ってこさせる前に、二言、三言説明しておこうかの――─しかし、その前に、まだこちらのお二人を知らない者のためにご紹介しよう。国際魔法協力部部長、バーテミウス・クラウチ氏。そして、魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルード・バグマン氏じゃ」

 

 ダンブルドアが教員席に座っていた二人の男性を紹介する。一人はクィディッチワールドカップで『闇の印』が出現したときに俺達を問い詰めたバーテミウス・クラウチ氏。しかしもう一人の男性は見たことが無かった。

 

「このお二方は、この数か月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力されてきた。そしてカルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしとともに、代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる」

 

 ダンブルドア先生の口から『代表選手』という言葉が飛び出た瞬間、生徒達の耳が一層研ぎ澄まされる。

 それを感じ取ったダンブルドア先生はにこりと笑い、再び声を張り上げた。

 

「それではフィルチさん、箱をこちらに」

 

 その言葉と共に管理人のアーガス・フィルチが宝石が散りばめられた木箱を抱えて先生の前まで歩いていき、木箱を仰々しくテーブルの上に置いた。

 

「代表選手たちが今年取り組むべき課題は三つある。どれも代表選手をあらゆる角度から試すためのものじゃ───魔力の卓越性、果敢な勇気、論理と推理力、そして言うまでもなく、危険に対処する能力などじゃ。

 皆も知っての通り、試合を競うのは参加三校から各一人ずつ選ばれた、三人の代表選手じゃ。選手は課題をどのように巧みにこなすかで採点され、総合点が最も高いものが優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者――『炎のゴブレット』じゃ」

 

 ダンブルドア先生が木箱をコンコンと軽く叩くと、木箱の蓋が開き、ダンブルドア先生はそこから一つの盃を取り出した。

 形だけで言えば何の変哲もないごく普通のものだが、木箱の上に置かれたそれは青白い炎を溢し、幻想的な印象を持たせる不思議な代物だった。

 

「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名を書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志ある者は、これから二十四時間の内にその名を提出するよう。明日のハロウィーンの夜に、ゴブレットは各校を代表するに最もふさわしいと判断した三人の名前を返してよこすであろう。

 このゴブレットは、今夜玄関ホールに置かれる。我こそはと思う者は、自由に近付くが良い。

 尚、年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう、『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたなら、その周囲にわしが『年齢線』を引くことにする。十七歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ」

「そんな!」

 

 ダンブルドア先生が説明している中、グリフィンドールのテーブルから悲鳴が二つ上がった。

 恐らくフレッドとジョージの悪戯双子だろう。何かしらの目的があって対抗試合に出ようとでも目論んでいたのだろうか。

 

「おうおう。非常に残念な事じゃ」

 

 ダンブルドア先生はその嘆きを軽く流し、表情を引き締めて話を続けた。

 

「最後に、この試合で競おうとする者にはっきり言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』が一度代表選手と選んだ者は、最後まで試合を戦い抜く義務がある。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されるということじゃ。代表選手になったからには、途中で気が変わるということは許されぬ。じゃから、心底、競技に挑む用意があるのかどうか確信を持った上で、ゴブレットに名前を入れるのじゃぞ――」

 

 ダンブルドア先生の忠告に、誰もが耳を傾けていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 土曜日の早朝だと言うのに玄関ホールは多くの生徒でごった返していた。

 誰もが『炎のゴブレット』目当てであろうことは察することが出来る。かくいう俺もその一人で、一度は『炎のゴブレット』を間近に見ておきたいという好奇心があった。

 

「やぁ。おはようリオン」

「おぉ、マークとランス。おはよう。二人もゴブレットか?」

「そりゃあな。どんなものかちょっと見ておきたかったし」

 

 少し離れた場所でゴブレットにダームストラングの生徒達が名前を書いた紙を入れるのを見ていると、マークとランスが話しかけてくる。

 

ホグワーツ(うち)からは誰が選ばれるんだろうなぁ」

「可能性が高いとしたら……セドリックとか?」

「あぁ。それはあり得るね」

 

 ランスの言葉に、ハッフルパフの最上級生を思い浮かべる。他にどんな生徒がいるのか詳しく知っている訳ではないが、俺としてはセドリックが適任だろうと思っている。

 

 しばらくそうしていると、玄関ホールが大爆笑に包まれる。何だと目を向ければ、そこには驚きの光景が広がっていた。

 

「うわっ。見事な顎髭……」

「ダハハハハハ!!あ、あれ、フレッドとジョージか!?」

「老け薬かなんかで年齢を誤魔化そうとしたんじゃないか? ダンブルドア先生の年齢線がそう簡単に突破出来るとは思えないけど……それにしても凄い顔だな」

 

 立派な白い顎髭を生やしたフレッドとジョージはやって来たダンブルドア先生の言葉に従って、笑い転げるリーを伴って肩を組みながら医務室の方へと去っていった。

 

「これで顎髭さえなければ十二分に格好いいんだけどなぁ」

 

 それだけ言って、朝食を取るために大広間へと向かう。

 昨日と違い、大広間はハロウィーン仕様へと様変わりしていた。天井ではコウモリが飛び交い、くり抜きカボチャは満面の笑みだ。

 

 マークとランスと別れ、スリザリンのテーブルに向かっているとハッフルパフのテーブルから一人の生徒───セドリックが立ち上がり、「リオン!」と声を掛けてきた。

 

「セドリック。おはよう」

「あぁ、おはよう。ワールドカップの時以来だね。元気だった?」

「勿論」

 

 互いに挨拶を交わし、笑みを湛えて会話する。久しぶりに会ったが、変わらずイケメンオーラが全身から溢れている。将来はこんな風になりたいものだ。

 

「そういえば、なんだけどね」

「ん?」

 

 セドリックが辺りを見回す。よほど聞かれたくない事なのだろう。少し彼に寄って耳を近づける。

 その事に気付いたセドリックが「ありがとう」と言って、耳元でその内容を口にした。

 

「実は、『炎のゴブレット』に名前を入れてきたんだ」

「え、ホントか?」

「嘘ついてどうするのさ。本当だよ」

「でも、朝はセドリック見なかったけど?」

「昨日の夜の内にコッソリと入れたんだ。だって嫌だろ? 意気揚々と入れたのに弾き出されて皆の笑い者にされるの」

 

 意外なところを気にするなぁと思わず笑ってしまった。「何だよ」と少しむくれるセドリックに謝りつつ、その肩を叩いた。

 

「きっとセドリックなら選ばれるよ。俺が保証する」

「えぇ? 何を根拠に言ってるんだよ?」

「根拠なんて無いさ。俺の勘」

「何だいそれ」

 

 そういって笑った俺達はそれぞれのテーブルに戻り、並べられた朝食へと手を伸ばすのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 多くの生徒で溢れている大広間は時間が止まったかのように静かだった。

 

 ───『炎のゴブレット』が、あり得るはずのない四人目の名前を吐き出した。

 一人目はダームストラングのビクトール・クラム。二人目はボーバトンのフラー・デラクール。三人目はホグワーツのセドリック・ディゴリー。

 本来ならここで終わっているはずだった。というか、その場の誰もが、ダンブルドア先生でさえそう思っていた。

 

 しかしそうではなかった。『炎のゴブレット』の青白い炎が再び輝き、一枚の羊皮紙を吐き出す。

 ダンブルドア先生は困惑した表情で羊皮紙を掴み、そこに書かれている名前を見て顔色を変えると、その名前を口にした。

 

「ハリー・ポッター!!」

 

 そうしてこの大広間が出来上がったというわけだ。全く以て予想外だった四人目の登場に、その名前を口にしたダンブルドア先生以外の誰も口を開けなかった。

 当のハリーも、困惑した様子で辺りをキョロキョロと見回している。その顔には自分が呼ばれることを想定していなかった事が見て取れる。

 

「ハリー・ポッター、ハリー!! ここへ来なさい!」

 

 ダンブルドア先生の鬼気迫る声に、ハリーはハーマイオニーに促されてよろよろと立ち上がる。

 ローブを踏んづけてよろめきながらも、何とかダンブルドア先生の元へと歩いていくハリーを驚きの表情で見ていた俺の視界が突如として『ぐにゃり』と歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 そんな呆けた声を上げた次の瞬間には、俺の目は全く信じられないものを映し出していた。

 今、俺の視界一杯に広がるのは、多くの生徒で溢れ返り、覚束ない足取りで歩くハリーの姿ではなく、何処かの寂れた墓地と言える場所だった。

 

 その墓地に、三人の男が居た。一人は何故か傷だらけのハリー。もう一人は石像に鎖で拘束された俺。そして最後の一人は、杖をある方向へ向けたセドリック。

 

「何、が……どうなって……」

『待って! 逃げてセドリック!』

 

 困惑する俺を他所に、目の前のハリーが声を上げる。彼らの視線の先、濃い霧の向こうから何者かが歩いてくるのが見えた。

 

『誰だ! そこで何してる!』

 

 セドリックが杖を構え、歩いてくる人影に問う。しかし、その影はセドリックの声に怯むことなく平然と歩く。そして、その人影がゆっくりと杖をセドリックに向けた。

 

『よせ! やめろ!!』

邪魔者は殺せ!

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!!』

 

 俺の制止も虚しく、何者かの声に従って人影の杖から緑の閃光が走り、セドリックに直撃する───

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふ、と瞬きをすると、景色は既に大広間へと戻っていた。

 ダンブルドア先生がハリーを寄せ、宴の終了を告げる中で、俺は込み上げてくる吐き気を抑えるのに精一杯だった。

 

 

 あれは何だ。幻? 違う。それにしてはリアリティが有り過ぎた。では一体何だというのか。一昨年、去年と見てきた予知夢なのだろうか。

 だとするなら、あれはいずれ起こる未来ということになる。即ち、セドリックが死ぬ。

 

 優しく、人当たりの良い彼が死ぬ。

 

「……ふざけるなよ……」

 

 ふざけている。馬鹿げている。そんなこと認められるものか。もしあれがいずれ起こるというのなら変えてみせる。

 原因を探らなければならない。なぜあんなことが起こるのか。そしてあの場所は何処なのか。

 

 

 知らず、首から下げていた祖父のペンダントに触れていた。


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