逆行泥鼠は夢を齧る   作:ばろめつ

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*きゅうじつしゅっきんのなかにいる*
旅先でロキシーの帽子をスーハーしたいので初投稿です


おおっと!とつぜんのスケジュールへんこう

「なあルディ…ちょっと話良いか」

 

訓練終わりにパウロがそう言った。どうやら真面目な話なのかいつもみたいにエッチスケッチワンタッチな冗談を飛ばしてきそうな雰囲気ではない。一度タオルで汗を拭き取り、顔を洗った後パウロの前に座った。

 

「はい、何でしょうか父様」

「ルディ、家庭教師をやらないか?」

 

イタリアンなマフィアが豪雷積層雲(キュムロニンバス)な指輪を使って死ぬ気で異能力バトルをするアレが頭を過ったがそうではなく、おそらくエリスのことだろう。にしてもこの年から仕事斡旋されるとは、パウロに愛されてるというべきなのか、コイツはほったらかしにしてもいいと思われているのか。

 

「構いませんが、その」

「ああ、シルフィだろ?…分かってるって、最後の挨拶の時間くらいなら用意してやるからよ」

「ありがとうございま…え?」

 

パウロはまるで死刑囚に対して最後の面会に行かせるようなセリフを吐いた。

 

「…パウロ、ゼニス。入るぞ」

「ああ」

 

ガラガラと戸が開き、背の高い漢女が入って来た。今の筋肉は…間違いなくギレーヌだ。そう、この男(パウロ)、まさかの俺が肯定する前提で話を組んでいたのだ。でなければ今ギレーヌが来ることはない。おいおい、冒険者やってたんならもっと前から計画立てて早めに話しとくとかあっただろ…

 

「それで、家庭教師というのは」

「おう、俺の息子だ。おいルディ、自己紹介しろ」

「初めまして、ルーデウス・グレイラットと申します」

 

ギレーヌはフッと笑って口を開いた

 

「ああ、“ギレーヌ・ボレアス・グレイラット”だ。堅苦しいからギレーヌでいい」

「えぇ…え?」

 

ギレーヌは俺の反応を見て眉を顰めた。分かってる、あれは別に気に障ること言ったからバキバキにへし折って再起不能にしてやろう…とかじゃなくて、単に俺の反応を疑問に思ったからだ。

それはともかく、あのギレーヌに聞き覚えのあるご立派な単語が二つ付いていた。いや、胸に付いてる二つのものも非常にご立派なのだが、そうではなくボレアス・グレイラットの姓が後ろについていたのだ。いや…確かにな、サウロスの爺さんもフィリップも獣族フェチだしな…。

 

「そ、それでギレーヌさん、いつ発ちますか?」

「今日の昼だ。それとギレーヌでいい」

 

それとあまりめでたくないことに今の発言で裏が取れてしまった。我らが悪名高き親父殿は息子を突然都会に出荷するつもりだったのだ。子供を乗せてロアの街にドナドナするつもりでいたなんてルーデウスくんとってもショック。

 

「あなた…もしかしてルディに伝えてなかったの?」

「その、だな…ルディが素直にはいって言うとは思えないしな…」

「シルフィちゃんに恨まれても知らないわよ」

 

そう、問題はシルフィだ。もしこれで何も言わずに村から出ていこうものなら本気でシルフィに嫌われてしまう。そしたら何が起きるって?俺の心が死ぬんだよ!

 

「…とりあえず、シルフィに言ってきますね」

「あ、ああ…その、これは向こうの家側からの提案でな…」

「分かってます、逃げ出したりはしませんよ」

 

いくら俺がお利口さんな息子だからといってこの仕打ちはねえだろ…後で覚えとけよこの報連相抜けクソ親父…!

 

 

 

 

シルフィに別れを切り出した所、一度目は固まり、二度目は難聴系主人公みたいに都合よく聞こえなくなり、三度目でやっと伝わった。伝わったのは、まあいい。いや、何も良くないが。

 

「るでぃぃぃ!いやだぁぁ!いや!いや!いかないでええ!」

 

そう、思った以上に俺はシルフィに依存されてしまっていたというのが問題だった。仮に、このまま俺がここにいた場合間違いなく転移事件で一緒に飛ばされてアスラ王城に飛ばされた時よりも酷い目に遭うことが確定している。あんなモヒカン男たちがヒャッハーとか叫びながらバイクを乗り回してそうな場所にシルフィを連れて行くなどまっぴらごめんだ。

 

「なんでなのぉ…そんなのやだ!理由を教えてよ!」

「その、秘密だ」

「また秘密って言ったあ!ルディはいっつもそればっかりだ!ひみつひみつひみつって!なんで教えてくれないの!」

 

流石にこの気迫で来られてしまうと、ちょっと情報与えただけでロアの街まであっさり辿り着いてしまいそうな気がするからな。

 

「ごめん、本当に言えないんだ」

「うぅ…うううう…!」

 

シルフィは端正な顔を涙やら鼻水やらでぐしぐしゃにして俺に抱き付いてくる。ここ最近のシルフィは抱き付き癖ができたのか、毎回会うたびに抱き付いてくるようになったな。

 

「その、な。ちょっと家庭教師として働きにいかないといけなくなったんだ」

「うう…るでぃぃ…」

 

ぽかぽかと赤子のような拳で殴ってくる甘えん坊さんを撫でる。ルビーのような瞳がうるうると揺れるたびに俺の心も揺れ動くが、ダメだ、ダメだぞルーデウス。これもシルフィの為なんだ、心を鬼にしろ…。

 

「だから、ごめん」

「うううう…うわあああ!もう!るでぃのばかああああああ!」

 

時折ふらついてこけそうになりながらシルフィは走っていった。確かに仕方のないこととはいえめちゃくちゃ傷付いたぞ。急遽パウロに頼まれた家庭教師の仕事のせいで俺の心はボロボロだ。

俺もうゴールしていいよね…?

 

 

 

 

パウロとゼニス、リーリャの三人に別れを告げて馬車に乗り込んだ俺は直後、ギレーヌに四角く折りたたまれた紙を渡された。

 

「なんですかそれは」

「手紙だ。パウロがお前に渡しそびれたと言っていた。あたしは字を読めんから口に出して読め」

「なるほど」

 

手紙を開けるとパウロにしてはかなり綺麗な字で長々と綴られていた。そういえばパウロはいいとこのお坊ちゃんだったな。本人に言ったらぶん殴られそうだが。

 

『我が愛する息子、ルーデウスへ

 この手紙を読んでいるという事は、俺はもうこの世にはいないだろう』

 

「なんだと!」

 

ガタリと音を立ててギレーヌは立ち上がる。御者が振り向いて、こちらを迷惑そうに一瞥した。本当にうちの父がすいません。

 

「さっき見たばっかりじゃないですか、それに父様が素直にやられるとは思えません」

「む…それもそうだな、続きを読め」

 

『というのは、一度書いてみたかっただけで冗談だ。

 お前は、オレにボコボコにされて無様に這いつくばった挙句、縄でぐるぐる巻きにされて、囚われのお姫様のような情けない姿で馬車に放り込まれた。

 何が起こっているのかわからないと思う。

 全てはそこの筋肉ダルマに聞け……と言いたいが、そいつは脳みそまで筋肉でできているので、ロクな説明ができないだろう』

 

コイツ手紙まで手抜いてやがる…!本当に何が起こってるのか分かんねえよ…。仮にどんな社員と仲良しアットホームな職場でも受け入れる職安だとしても秒で拒否するよこんな通達書じゃ。

 

「なんだと!」

「父様って本当にそういうところありますよね」

「…ああ、昔からアイツはそうだった」

 

ギレーヌのとても、それはとっても深くて長いため息からは苦労が感じ取れる。

 

『そいつは剣王だ。

 剣を習うなら、そいつ以上の適任は剣士の聖地にでも行かなければ見つからないだろう。

 腕前は父さんが保障する。父さんは一度も勝った事が無い。

 ベッドの上以外ではな』

 

「…すいません」

「私には旦那がいるのだがな」

 

何してくれんだよ、馬車の中の空気凍てついてるじゃん。こんな場所で氷結領域(アイシクルフィールド)使うなよ。この場を持たせないといけないの俺なんだぞ。

 

『さて、お前の仕事だが、フィットア領で一番大きなロアという都市に住むお嬢様の家庭教師だ。

 算術、読み書き、あと簡単な魔術を教えてやってほしい。

 すっげーワガママなお嬢様で、学校から来ないでくれと頼まれたぐらい乱暴だ。今まで何人もの家庭教師を返り討ちにしている。

 が、お前ならなんとか出来ると信じている』

 

これはエリスのことだな。頼むぞ、あんまり変更点が多いと俺は”俺”の知識を活かせなくなるからな…

 

『そこにいる筋肉ダルマは、お嬢様の家に雇われている用心棒兼剣術の師範だ。

 お前に剣を教える代わりに、自分も算術や読み書きを習いたいとか言い出したらしい。

 脳みそも筋肉のくせに何を言ってるんだと、笑わないでやってくれ。

 こいつもきっと真剣なんだ(笑)』

 

「なんだとぉ…」

 

とにかくギレーヌの知性は認めんと言わんばかりの罵倒の嵐だ。なんだろう、俺の胃に傷でも付ける気なんだろうか。怒り狂ったギレーヌの前に俺を置いて何秒死なずに済むかみたいな賭け事でもやってないとこんな手紙は書かないだろう。

 

『物覚えは決してよくないだろうが、講師代が浮いたと思えば、悪い話じゃないだろう』

 

「その、契約内容を少しばかり変更して欲しいのですが」

「ものによるが聞いてやる」

「僕は闘気を纏えないので、対剣士を想定した訓練にしてもらってもいいですか」

「…構わん」

 

流石に剣王ともなると、相手取っても不足なしというか。むしろ胸を借りるつもりで挑めるだろう。これに関してはパウロに感謝してる、他は許さない。

 

『お前には、これから五年間、お嬢様の家に下宿して勉強を教える事になる。

 五年間だ。

 その間、帰宅を禁じる。

 手紙などのやり取りも禁じる。

 お前が村にいると、シルフィが自立できないからだ。』

 

納得だ、むしろシルフィがこっちに来るのを頑張って阻止し続けて欲しい。今や彼女は聖級無詠唱魔術師だ、パウロでも骨が折れるに違いない。無論、物理的にも。正直、折ってくれたらありがたいくらいであるが。

 

『報酬の件だが、

 お前には毎月アスラ銀貨4枚が支払われる。

 暇を見つけて、町中で金の使い方を覚えるように。

 金ってのは、普段から使っていかないと、いざという時にうまく使えないからな。

 もっとも、優秀な我が息子なら覚えなくともうまく使いそうだが。

 あ、間違っても女なんか買うなよ?』

 

「給金、結構貰えるんですね」

「ああ、フィリップがお前を是非とも呼びたいと言っていたからな」

「…なるほど?」

 

つまるところ、今回俺が突然呼ばれたのはフィリップが俺のことをいずこからか知ってパウロに是非ともルーデウスくんをうちにスカウトさせてくれ。ティンと来た、と言ったからということになる。でも確かにパウロならどこかで俺のことを自慢してもおかしくないからな。村の外での会合の時や、街まで買い出しに行った時にでも話したのだろう。

 

『そして、五年間、投げ出すことなく見事にお嬢様に読み書き・算術・魔術を教えきった暁には、特別報酬として、独り立ちに十分な資金が支払われる契約になっている』

 

『どうせ五年後になったらシルフィがお前についていくだろうからな。忠告しとくが…お前、シルフィの他に女作ったりしたら間違いなく刺されるぞ。五年はこっちでうまく言っておくから、くれぐれもやらかすなよ』

 

「お前、村に恋人を置いてきたのか?」

「まだ恋人じゃありません」

「ふむ…そうか」

 

刺されるってなんだよ、シルフィがそんなことする訳ないだろ。やはりパウロは女に粉を掛けるのはうまくても、内面を見るのは苦手のようだな。

 

『五年間、まったく新しい場所で色々な事を学び、さらなる飛躍を遂げることを祈っている。

 知性溢れる偉大すぎる父親パウロより』

 

痴性か性欲の間違いじゃないだろうか。父親としてとても偉大なのは否定しないが、上半身に下半身がくっついてるのが玉に瑕すぎる。瑕が入りすぎてもはや粉々なのではなかろうか。

 

「パウロはお前のことを愛しているな」

 

 ギレーヌの言葉に、俺は苦笑した。

 

「昔はもっと余所余所しかったんですけどね。自分に似てる部分があるとわかったら、ぐいぐいくるようになりましたね。でも、ギレーヌさんだって……」

 

「ん? あたしがどうかしたのか?」

 

 俺は最後の一文を読む。

 

『P.S.お嬢様には合意の上なら手を出してもいいが、シルフィにバレないようにしろ。あと筋肉ダルマは俺の女だから手を出すな』

 

確かにエリスに手を出すつもりなので、前半部は本当に否定できなかったが。後半部は既婚者相手に聞かせる内容か?

 

「ですって」

「ふむ。その手紙はゼニスに送っておけ」

「了解」

 

早ければ3日後、我が家の最高神ゼニスに召し上げられてパウロは星座の一つになっているだろう。残念でもなく、また可哀想でもなければ、ただの自業自得だった。

 

 

 

 

なあ、ルディ。オレ、お前のこと見誤ってたかもしれない。

 

風槍竜巻(トルネイドインパクト)っ!」

 

お前、シルフィと遊んでたって言ったよな。

 

流砂(サンドウェイブ)地網(アースネット)!」

「いくら何でもッ…いや、そうだよな。そうだったよな」

 

足元が流砂に変わって、足が滑りそうになった瞬間にシルフィエットの杖から網が飛び出してくる。すんでのところで避けてシルフィに飛び掛かるも、ぬるりと避けた。

 

(ナガレ)だと!?

思わず、声に出してしまいそうになったそれを喉奥に仕舞い込んだ。

 

アレぜってえ嘘だろ。こんなの話と違うが。

確かにルディは天才だ。ロキシーの授業は真面目に聞いてたけど、鼻歌混じりに課題をこなしてたもんな。当然のようにそれは、弟子にも引き継がれたって訳だ。

 

いやいやいや、いくらなんでもおかしい。この子の戦闘センスは既に同じ年の俺よりも圧倒的に上だ。曰く、追いかけっことか手品で遊んでいたと言っていたが、粗いところはあるとはいえ、旅の魔術師として食っていけるくらいの実力は間違いなくある。とはいえ、俺は大人だ。大人が子供に負けてしまうなど、あってはならない。

 

岩砲弾(ストーンキャノン)っ!」

「甘いッ!」

 

交差の瞬間にシルフィの首に峰打ちし、意識を絶つ。

 

「凄まじいわね」

「ああ、さすがルディの弟子だ」

 

と言うと、ゼニスはむっとした顔でオレを見る。まるで何もわかってないと言いたげな表情だ。ゼニスが倒れたシルフィに近づいていったので、オレも同じようにした。

 

「執念ね、ほら」

 

ゼニスが固く握られたシルフィの左手を開くと、砂が握られていた。これで目潰しをする算段だったのか。

 

「…鍛え直すかぁ」

「大人げないわね」

「奥様、分かっていたことではありませんか」

 

呆れた顔で二人は見てくる。もうオレの威厳はボロボロだった。

 

3日後、ルディから送り返されてきた手紙を読まれてこってりと絞られた。あいつ次会った時はただじゃおかねえ。

 




読んでいただきありがとうございました。
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