ハリーポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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クィディッチ・ワールドカップ

 早朝。まだ日が昇って間もない時間にリオン、マーク、ランス、バルツの四人は深い森の中をひたすらに歩いていた。

 

「父さん、一体どこに向かってるか教えてくれても良いんじゃないの……?」

「それは着いてからのお楽しみだ」

「ふわぁ~……俺まだ眠ぃよ~……」

「お、おいランス。立ったまま寝ようとするなって…!」

 

 ほんの僅か疲れを滲ませなから聞くマークをバルツはさらりと受け流し、その後ろで立ったまま寝ようとするランスをリオンがひっぱたいて眠気を飛ばしていた。

 

「おぉ、居た居た。アーサー!エイモス!」

 

 やがて森を抜けて小高い丘にやって来ると、バルツはその先にいる人影に向かって声を張り上げた。

 少し早足で彼らの下に向かうバルツに置いていかれないよう三人も歩くペースを上げた。

 

「あぁ来たかバルツ!このまま来ないのではないかとアーサーと話していたところだ」

「すまないな。なるべく急いで来たのだが我々が最後だったか」

 

 バルツがエイモスと呼ばれた男性と握手を交わして会話する。

 そんな大人達と同様にリオン達も周りに居た子達と挨拶を交わした。

 

「ハリー、ロン、ハーマイオニー。三人も来てたんだな」

「えぇ。アーサーさんが誘ってくださったの」

「フレッド、ジョージ、ジニーもおはよう」

「おはようリオン」

「「やぁリオン。ベロベロ飴舐める?」」

 

 お互いに挨拶を交わし、双子が取り出した飴に危険を感じたリオンが断ると話し合いを終えたらしい大人達が寄ってきた。

 

「そういえばリオンとマーク、ランスには紹介してなかったかな?エイモス・ディゴリー。魔法省勤めで私の知り合いでもある。息子のセドリックは知っているんじゃないかな?」

 

 バルツが先程の男性とその横に居た背の高い青年を紹介し、青年とマーク、ランスが握手を交わす。そしてリオンの前に来た青年が口を開いた。

 

「初めまして。僕はセドリック・ディゴリー。君のことは良く知ってるよリオン」

「こちらこそ良く知ってるよセドリック。ハッフルパフのシーカー殿?」

 

 お互いににこやかに握手を交わす。そしてそれを見届けたアーサーが全員に聞こえるような大声で話し出した。

 

「さぁ皆!ディゴリーさんが持ってるブーツに触って!これで一気に会場まで行くからね!」

 

 その言葉に全員がエイモスの周りに集まり、掲げたブーツに触れる。

 

「皆触っているね?それじゃ合図したら行こう───1……2……3!」

 

 その瞬間、リオンは自分の体が途轍もない速度で回転していると理解した。しかしそれは一瞬だったようで気が付くとリオンは地面に倒れていた。

 

「五時七ふーん、ストーツヘッド・ヒルからとうちゃーく」

 

 そして、そんな気の抜けるような声がリオンの鼓膜を叩いた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「さぁ着いた。ここが僕たちが使うテントだ」

 

 会場に着いた後、それぞれのテントに向かったリオン達はバルツの案内で自分達の使うテントへとやって来た。

 

「テントに男四人ってせまっ苦しくないか?」

「ふふふ……そう思うのも分かるけどここは魔法界だよランス君?中に入ってみれば分かるさ」

 

 テントの外観を見たランスが呟くと指を振りながらバルツが言う。

 そしてバルツが幕を開き、三人が中に入るとすぐさまランスの感嘆した声が響いた。

 

「ヒュー!外と違って中はすげぇ広いんだな!さっすが魔法だ!」

「あはは、ランスの目が輝いてるね」

「気持ちは分かるさ。何も知らないでこれを見たら声の一つも上げるよ」

 

 実際、内装は豪華な物だった。それこそ少し裕福な一軒家の内装と見紛うばかりに色々なものが設置されており、あの簡素な外観のテントからは想像もつかなかった。

 

 

 そうして四人ともが荷物を置き、さてこれからどうしようかと思案していたところ、不意にテントの中に誰かが入ってきた。

 

「……おや、連絡も無しに来たのはやはり不味かったかな?」

 

 中に入ってきたのは一人の老人だった。マグル製のスーツをビシッと着こなし、白髪をオールバックにして片眼鏡の奥に光る青い目が印象的な老紳士といったところだろうか。

 そしてそんな老人の姿を見たバルツがため息を吐きながら立ち上がる。

 

()()、来るときはなるべく連絡を入れるようにって僕は言った筈だけどね?親父は重役なんだから勝手に離れたら護衛の闇祓いが慌てるとも言ったけど?」

「ふむ、そうだったか?それはすまないな。しかし、私が一人離れたところで支障もあるまい?」

「いやあるけど?」

 

 バルツの呆れた物言いを意に介さず、老人はリオン達を見つけるとそちらに歩みを進めた。

 

「あぁマーク。友達を連れてきたのか?」

「そうだよお爺ちゃん。二人とも、紹介するね。僕の祖父のジェラルド」

「マークの爺ちゃんだったのか。初めまして、ランス・パーシヴァルです!」

「これはこれは。ジェラルド・カリアンだ。孫と仲良くしてくれてありがとう。そちらの君も───」

 

 やって来た老人を祖父だと言ったマークに驚きつつランスが挨拶する。それを受けてジェラルドも笑みを浮かべてランスに挨拶を返し、そして隣にいたリオンの顔を見てその動きを止めた。

 

 

「───エド?」

 

 

 ジェラルドの顔がみるみる内にあり得ないものを見たような顔に変わる。それに何となく事情を察したリオンは右手を差し出しながら口を開いた。

 

「初めましてジェラルドさん。リオン・アーデルと言います」

「───あぁ。いや…申し訳ない。あまりにも知人と似ていたものだからつい……不快な思いをしたのならすまない」

「大丈夫です。気にしてませんよ」

 

 握手をしながら申し訳なさそうな顔をするジェラルドにリオンは笑顔で応える。

 

「まったく……親父、そろそろ歳だったりしない?他人と見間違えるなんていよいよなんじゃないかな?」

「辛辣な息子だ……しかし、驚くほどそっくりなのだ。彼を知るものが見ればこういう反応になると思うが」

「だからって……はぁ、まぁいいか。三人とも。僕らはこれから話し合いがあるから好きなところに行っていなさい。けど夜になったら戻ってくるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 バルツの言葉通り、テントを出た三人はそれぞれ思い思いに過ごすことで同意した。

 マークはクィディッチ選手が見れないか行ってくると言ってスタジアムへ。ランスはハリー達の下に行き、唯一リオンだけが手持ち無沙汰となった。

 

「……こんなことなら俺もどっちかと行けば良かったかなぁ……」

 

 ワールドカップを見に来た人々の喧騒をBGMに周辺をブラブラしながらリオンはそんなことをぼやく。

 

「リオン?」

「ん?」

 

 と、そんなリオンに話しかける声が一つ。その方向を向いてみれば、そこにいたのはダフネとアストリアのグリーングラス姉妹だった。

 

「ダフネ、アストリア」

「こんにちはリオン。貴方もワールドカップの観戦?」

「まぁな。二人もか?」

「はい。お父様が観戦チケットを当てたので家族で来てるんです。私たちのテントがすぐそこにあるんですよ」

 

 そう言ってアストリアはすぐそこのテントを指差す。どうやらそこが彼女達のテントらしかった。

 

「そうなのか」

「リオンはご家族と来たの?」

「いや、マークの誘いで来てる。バルツさんが観戦チケットを当ててランスと俺を誘ってくれてな。四人で来てるんだよ」

「そうなの?リオンのお父様を見かけたからてっきり……」

「父さんは仕事で来てるんだよ」

 

 ダフネからの問いかけに答えつつ、辺りにいる闇祓いを見渡す。

 

「あらダフネ。その子はお友達かしら?」

 

 ふと、そんな声が聞こえてくる。見るとダフネ達が使っているテントから一人の女性がリオン達の方へと歩いてきた。

 

「母様」

 

 その女性を見たダフネが母様と呼んだことでリオンは、目の前の女性がグリーングラス夫人だと思い至った。

 

「お母様、この人はリオン・アーデルさんと言って姉さんの恋人さんなんですよ」

「まぁそうなの!?初めまして、ダフネとアストリアの母のルナマリアよ。会えて嬉しいわ」

「初めまして、リオン・アーデルです」

 

 ルナマリアが頭を下げるとリオンも応じて頭を下げる。とはいえリオンもまさか母親がやって来るとは思わず少し緊張していた。

 

「貴方のことはダフネから聞いてるわ。とっても優しくてカッコいい人だって」

「ちょ、ちょっと母様!リオンの前で言わないでよ!」

「良いじゃない。貴女が誰かのことを褒めるなんて珍しいから一度会ってみたいと思っていたのよ」

「だからって……もうっ!」

 

 たおやかな笑みを浮かべたルナマリアの言葉に顔を赤くしたダフネはそっぽを向く。

 

「リオンさんも真っ赤ですね!」

「止めてくれアストリア。頼む」

 

 そしてアストリアの悪意なき言葉は同じく耳まで真っ赤にしたリオンに突き刺さった。

 

「───これはこれは。ルナマリア、息災で何よりですな」

 

 と、そんな声がルナマリアに向けられる。スタジアムノアル方向から一人の男性が歩いてくるのが見えた。

 長く整えられたブロンドの髪を持ち、どこか冷ややかにも感じる顔の男性はルナマリアを見て笑みを浮かべた後、リオン達を見て大袈裟に驚いた。

 

「おやおや?ルナマリアのご息女姉妹に見知らぬ子供が一人……驚きましたな。気高き娘の横に見知らぬ男がいるなど君としては許せないのではないかなルナマリア?」

「……貴方、何を言ってるの?」

「何でも何もないだろう?君の子供は私の息子との婚姻を断りこのような子供と共に居ることを喜ぶのかね?」

 

 男性がつらつらと語る度にダフネの目から暖かみが消えていく。それを隣で見ていたリオンも思わず身震いし、アストリアは不安そうに眺めていた。

 

「……本当に知らないのね。いいわ、教えてあげましょうルシウス。彼はリオン・アーデル。私の娘、ダフネの恋人よ。自分の息子との婚姻を断られた事をつついてくる割には他人の変化に疎いのね。貴方のような父親を持ってドラコが残念でならないわ」

「……そこまでにしてもらおう」

「あら、逃げるのルシウス?私の将来の義息子の事を嘲っておいて自分が不利になれば背を向けるのかしら」

 

湯水のように放たれるルナマリアの口撃に顔を真っ赤にしたルシウスは足早にその場を立ち去っていった。

 

「まったく……あ、ごめんなさいねリオン。不快にさせてしまったかしら」

「い、いえ。俺は大丈夫です……というかダフネの方が……」

「えぇ。しんっそこ不愉快だわあの人!!これならまだドラコの方が何倍も可愛げがあるわ!」

 

 先程のルシウスの物言いが癪に障ったのか吐き捨てるようにしてダフネが言い放つ。

 

 どうも、ダフネの中でルシウスの株は大暴落したようだった。


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