ハリーポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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最後の犠牲者

「金平糖」

 

 巨大なガーゴイル像の前で、一言呟く。

 合言葉を聞いたガーゴイルが動き出し、脇に寄る。中に入るとまるでエスカレーターのように動く螺旋階段があった。

 後ろで扉の閉まる音が響き、それに合わせて螺旋階段に向けて足を動かす。

 ゆっくりと客人を迎え入れるようにして動く階段を見上げ、一歩足を踏み出した。

 

 

 

 

 一番上で止まった階段から離れ、中央の扉に右手を伸ばしてノックする。

 擦ると音も立てずに扉は開き、部屋の内部が露になった。

 

 中は広い円形の部屋だった。不思議な音楽が流れ、歴代校長の肖像画が壁に飾られていた。

 

「呼び出してすまんのう。リオン・アーデル君」

 

 心を落ち着かせるような穏やかな声が俺に向けられる。声のした方を向けば、奥にある執務机に腰掛けているダンブルドア先生の姿があった。その横には、赤と金の羽根を持った不死鳥の姿もある。

 

「こうして君と直接言葉を交わすのは久しぶりかの?」

「そうですね。賢者の石の時以来です」

 

 楽しげに笑うダンブルドア先生につられ、俺も笑みを浮かべる。

 ダンブルドア先生は俺にふかふかのソファに座るよう促すと、「何を飲むかの」と聞いてきた。

 

「それじゃ……コーヒーで」

 

 リクエストに頷いた先生は銀色のティーカップを呼び寄せると、その中にコーヒーを注いで俺に差し出す。それを受け取って一口飲み、肩の力を抜く。

 

「それで先生。お話というのは?」

 

 一息ついたところで先生に問いかける。そもそも俺が校長室にやって来たのはダンブルドア先生に手紙で『話したいことがある』と呼び出された為だった。(ついでに校長室に行くための合言葉もご丁寧に記されていた。金平糖って……)

 

「儂が停職になったというのは聞いておるかね?」

「えぇまぁ……生徒達の間じゃその話題で持ちきりですよ。一体何があったんですか?ダンブルドア先生が停職なんて」

「マグル生まれの子供達が石にされる事件が起きておるじゃろ?それを中々解決できないから責任をとって停職しろと理事会から言われたのじゃ」

「はぁ?」

 

 いや、逆にダンブルドア先生がホグワーツから居なくなったら余計に被害が酷くならないか?

 

「この決定について否を唱える権利を儂は持っておらん。魔法大臣が抗議してくれたが焼け石に水じゃ」

 

 「そこでじゃ」と楽しげに笑みを浮かべたダンブルドアが人差し指を立てる。

 

「折角ホグワーツから離れるのじゃ。日本に旅行にでも行こうかと思っておるのじゃが……どうかの?」

「いや、どうかのって言われても……行けば良いんじゃないですか?」

 

 机に日本の旅行冊子を広げてウキウキな先生とは対照的に俺は肩透かしを食らった感じになる。なんか真剣な話かと思ったのに…

 

「君はかつては日本人だったのだろう?ならばおすすめの観光地など知っておるのではないかと思っての」

「おすすめの観光地ですか……えー…?京都、とか?」

 

 とりあえず頭に浮かんだ地名を口に出す。それを聞いたダンブルドア先生は「ほうほう京都とな」とパラパラと冊子をめくる。

 

「儂としてはここも良いと思うのじゃが」

 

 そう言ってダンブルドア先生はとあるページを俺に見せてくる。

 そこには日本でも有名な温泉地が掲載されていた。

 

「温泉に行くんですか?」

「疲れを取ろうかと思っておるのじゃよ」

 

 穏やかに笑う先生を見て、近所にいる老人みたいだと思ってしまった。まぁダンブルドア先生もお年を召されている。いくら表面上は健康そうでも、若い頃よりは確実に疲れも溜まりやすくなっているだろう。

 そう思えばこの機会に疲れを取ろうと思ったのも理解できた。

 

「さてリオンよ」

「何でしょう?」

 

 旅行冊子を仕舞い、先生が俺に声を掛ける。

 

「儂に何か、話したいことがあるのではないかね?」

「……流石ですね。顔には出していない筈なんですけど……」

「長いこと教師をやっていると生徒達がどんなことを考えているのか、ほんの少しじゃが分かってくるのじゃ」

 

 こんなに悪戯っぽく微笑む人が今世紀最強の魔法使いだと思う人はそうそういないだろう。良くて魔法省のお偉いさんかと思うくらいだ。

 俺も少し姿勢を正して先生に向き直る。相も変わらずに微笑んでいるダンブルドア先生に向けて言葉を発した。

 

「トム・リドルという生徒についてお話をお聞きしたいのです」

「────」

 

 俺がそう言うとダンブルドア先生はまるで不意を突かれたような、納得したような複雑な表情を作り出したものの、次の瞬間にはいつもの緩やかな顔に戻っていた。

 

「……確かに、儂は彼について話すことはできる。しかし何故トムのことを知りたいのかね?」

「トム・リドルは、例のあの人(ヴォルデモート卿)ですね?」

 

 疑問ではなく、確信を持った問い掛けを行う。先生は表情を変えることなく「何故そう思ったのか聞かせてはくれぬか?」と続きを促してきた。

 

「父さんから、秘密の部屋は50年前にも一度開かれたことがあると聞きました。それが例のあの人の手によるものであるとも。そしてハリーが持っていたトム・リドルの日記。ハリーはトム・リドルが秘密の部屋を開いた犯人がハグリッドだと問い質す場面を見たそうです。それに父さんがトム・リドルの名前を聞いて過剰反応していたのも理由でした。だって50年前なら父さんは生まれていない。だから過剰反応する理由もないはずなんです」

 

 そこで言葉を区切り、残ったコーヒーを飲み干す。ダンブルドア先生は、語り終えた俺をどこか見定めるような目付きで見ていたが軽く息を吐き、「リオンよ」と声を掛けてきた。

 

「君の推測は間違ってはおらぬ。トム・リドルは闇の帝王であり、かつて秘密の部屋を開いたのもトムの仕業じゃろう。そして今回の事件も彼奴の仕業じゃと儂は確信しておる」

 

 淡いブルーの瞳が俺を見つめる。もう後戻りは出来ないぞと告げるようにその光は鋭かった。

 

「となるとやはり犯人はあの日記でしょうか?」

「そこまでは儂も分からぬ。じゃが、日記だけでこれだけの被害をもたらせるとは考えにくい。ホグワーツにいる誰かを操ってこの事件を起こしたと考えるのが自然じゃろう」

 

 「自然じゃろう」と憶測のように語る先生だが恐らくそれは何かしらの確信を得た答えなのだろう。

 

「そうですか…ありがとうございますダンブルドア先生」

「構わぬよ。呼びつけたのは儂の方じゃからのう」

 

 ダンブルドア先生に頭を下げソファから立ち上がる。扉を開け、退室しようとしたところでもう一つ聞きたいことがあったのを思い出し、振り返る。

 

「ダンブルドア先生。最後に聞いてみたいのですが…」

「何かね?」

 

 

 

「例のあの人は祖父を殺した時、何も思わなかったんでしょうか?親友だと公言しておきながら目的のために切り捨てる……()()()にとって親友とは己のための駒でしかないんでしょうかね?」

 

 それだけ言って校長室を出る。去り際に見えたダンブルドア先生の顔が哀しみに歪んでいたような気がしたが、それを気にかけることは無かった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ダンブルドアがホグワーツを停職となって数日。生徒の引率を終えたレックスは校内の見回りのためにくまなく歩き回っていた。

 そうして三階の女子トイレの前を通ったとき、何か嫌な感覚がレックスを襲う。

 闇の時代を生きた勘が、ここに何かがあると告げていた。

 念のため杖を握り、女子トイレの様子を窺おうと一歩踏み出したところで、壁の中から何かが這いずり回るような音がした。

 次の瞬間、壁が凄まじい音と共に崩れ、ひしゃげた水道管から水が勢い良く噴き出し崩れた壁の瓦礫がレックスに降り注ぐ。

 後ろに下がることで瓦礫を避けたレックスの目は、崩れた壁から『ナニカ』が這い出てくる姿を捉えた。

 

 大木を思わせる太くも長い胴体、黒々とした体表。バジリスクだ。

 

「バジリスク…!?そうか、コイツが石化事件の…!」

 

 レックスはバジリスクの伝承を思い出し、一連の事件はバジリスクの仕業だと確信する。

 バジリスクがその巨体をうねらせ、レックスの方へ振り向こうとする。咄嗟に呪文を唱えバジリスクに攻撃を仕掛けるが、全くもって意味がない。だがバジリスクが呪文が当てられたことで怯んだ事を見逃さず、続けざまに呪文を放つ。

 

エイビス(鳥よ)

 

オパグノ(襲え)

 

杖先から数匹の小鳥を生み出したレックスはその小鳥達をバジリスクにけしかけ、注意を引く。

 

「これは使いたくなかったんだけどな……」

 

セクタムセンプラ(切り裂け)

 

 かつてホグワーツで流行っていた闇の魔術に片足を突っ込んでいる魔法でバジリスクの胴体を攻撃する。

 呪文が当たった場所からはドクドクと黒い血が勢い良く流れ出しバジリスクはあまりの痛みに悶えながら壁や床を壊し、その度に瓦礫がレックスに降り注ぐ。

 

(クソッ…!暴れ方が激しい!)

 

 バジリスクのあまりの暴れっぷりに舌打ちするレックスだったが、廊下の曲がり角から一人の生徒がこちらを見ていることに気付く。

 それを見たレックスは再度生み出した小鳥達で注意を引き、バジリスクの目を見ないよう気を付けながら生徒の元に向かう。

 

「君!ここは危険だ、急いで離れて──」

「好都合だな、レックス・アーデル」

 

 その生徒はレックスに杖を向け、冷たい笑みを浮かべていた。

 もう片方の手には黒い日記が抱えられている。

 

「ジニー…!?いや、まさかお前は──!?」

 

 次の瞬間、レックスを強い衝撃が襲い、体が地面を転がる。ジニーが呪文でレックスを吹き飛ばしたのだ。

 

「ここで貴様を潰せるとは私も運が良い。ダンブルドアは居らず、その次に厄介な邪魔者もここで排除できる。多少のリスクを覚悟でやって来た甲斐があった」

 

 ジニーはレックスを見下ろしながら残酷に笑った。

 

 

 

 十数分後、駆け付けた教師陣が見たのは、破壊し尽くされた壁と床、ひしゃげたパイプに水道管。そして何より、石にされたレックスの姿だった。

 生徒達も騒ぎを聞き付けてやって来る。マクゴナガルとスネイプが辺りを確認していると生徒達を掻き分けながらリオンが姿を見せる。

 

「父さん!!」

「お待ちなさいアーデル!」

 

 父に駆け寄ろうとしたリオンをマクゴナガルが押し留める。

 何故止めるのか。抗議の視線をマクゴナガルに向けるが、悲痛に濡れた彼女の顔を見たことでリオンもほんの少し冷静になる。

 

「スネイプ先生。生徒達を寮に戻してください。アーデル、貴方は私と共に来るように」

 

 そう言うと、マクゴナガルはリオンを伴ってこの場から去っていった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「落ち着きましたか?アーデル」

 

 マクゴナガル先生の自室に招かれた俺は差し出された紅茶を飲み、ゆっくりと体の中の息を吐き出す。

 そんな俺を見たマクゴナガル先生は優しい声音で俺に話しかけてきた。

 

「……はい。すみませんマクゴナガル先生、ご迷惑をお掛けしました」

「構いません。お父様が石にされたのです。取り乱すのも無理はありません」

 

 俺を元気付けようとしてくれるマクゴナガル先生に頭が上がらない。

 

「安心なさい、もう少しでマンドレイクの薬が完成します。そうすれば石にされた人達も回復するでしょう」

「そうですね」

 

 その言葉に幾分か心が軽くなる。まだ亡くなった訳じゃない。石にされただけでそれを治す方法もある。

 

「もう少しここにいますか?」

「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございますマクゴナガル先生」

 

 気を使ってくれているマクゴナガル先生に感謝しつつ、立ち上がって扉に手を掛ける。再度マクゴナガル先生の方を向いて頭を下げると、今度こそ部屋から出ていった。




あと2、3話くらいで秘密の部屋編も終わる予定です

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