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財布を拾った。ボロボロの汚い財布だった。財布の中を開けると「在留カード」(通称:ガイジンカード)が見えた。外国人の落とした財布だった。外国人にとって「在留カード」は生命線である。提示を求められた際に不携帯であれば、懲役1年以下、または、罰金20万円以下の厳しい処分となる(入管法第23条)。懲役刑となれば滞在許可は即時取り消される厳しい処分が科せられる。
性格は悪いが優しい私は拾った財布を交番へ届けた。交番で警察官が財布の中身を確認すると、現金が4000円と「東京大学」の学生証が出てきた。持ち主は東京大学に在籍する外国人留学生だった。
落とし物を拾うと持ち主に対し「謝礼」(正式には「報労金」)を請求できる。現金が4000円入った財布なので、謝礼の相場は800円、常識的には1000円くらいだろう。
私も長いこと留学生をやっていたので、留学生の苦労は骨の髄まで染み込んでいることから、謝礼を受け取ることはできず請求権を放棄し、交番を後にした(注:「在留カード」から個人が特定できるためこの財布は 100% 持ち主へ戻る)。

同じことがニュージーランドで起きた時のことを考えてみた。40ドルの入った財布が路上に落ちていた(とする)。財布の中には学生IDが入っている。この段階で落とし物が届けられる可能性は 0% だろう。そもそも、ニュージーランドに交番はないので、拾得物(落とし物の正式名)を届ける手間が掛かる。おカネに細かいニュージーランド人が自らガソリン代を支払い、警察署へ届けることはない。警察署へ拾得物を届けた際の交通費を持ち主へ請求することもできない。落とした人も落とし物が届けられることは想定せず、対応する警察官も『落とした物が戻るわけねーだろ!』と一喝し、書類作成も行わない。「ワークライフバランス」を重視するニュージーランドの労働社会では無駄な仕事はやらないのだ。「遺失届」を出すことができないので、拾得物が見つかっても返還されることはない。それ故に、落とし物が届けられることもない。これが、ニュージーランドの日常である。

性格の悪い私は、別の側面を考えた。在留邦人が財布を落とした(とする)。ニュージーランド人のパケハ(白人)が財布を拾い届けてくれた(とする)。在留邦人は『ニュージーランド人とは、なんと、やさしい人(たち)なのか!』と、大絶賛する。まったく同じことを私がやった(とする)。在留邦人は『日本人ならそれが当たり前』『イチイチ、人に言うことではない』『なに? 自慢?』と一喝される。私がよく知る邦人社会の典型例である。

外国人の財布を拾ったことで、つくづく、私は性格が悪いんだなと深く納得したのだ。同時に、ニュージーランドに残らずに良かったと、心の平和を実感した。たぶん、私がニュージーランドに残っていたら、首を吊って自殺していたと思う。ニュージーランドでは自殺が日常的に起きているので、自殺者が身近にいても、誰も何も思わない。「知り合いの知り合い」までさかのぼると、必ず、自殺した人がいる。そのくらいニュージーランドでは、自ら死を選ぶ人が多くいる。

ニュージーランドを絶賛する在留邦人とは対照的に、ニュージーランド人はニュージーランドを厳しい目で見ている。「ポストコロナ」となった2024年3月には、過去最高となる78,000人のニュージーランド人がニュージーランドを去った。半数の行先きは滞在許可が不要で好景気に沸くオーストラリア。この出国ラッシュに伴い出入国者数は52,500人の減少となった。ニュージーランドの本音としては、この52,500人をイギリス人やカナダ人で穴埋めしたいが、高度職業人は世界各地で取り合い合戦が繰り広げられており、世界の僻地にあるニュージーランドへやって来る人は少ない。結果的に、ニュージーランドでは人気のないインド・中国・フィリピンからの移住者だけが増え、これら「人気のない国」からやってきた人たちが人種差別へ繋がる「ヘイト」の根源となる。ニュージーランドで高い教育を受けた有資格者ほどニュージーランドを離れてしまう貧しい現実がある。

日本国内はどうだろう。オーストラリアの好景気と最低賃金の上昇に伴い「ワーキングホリデー」で渡豪する若者が増え、発給件数は14,000件と過去最高を記録。他方、2019年に140万人を超えた海外在留邦人は減少傾向に転じ、10年前と同じ129万に激減。とりわけ「住宅難」と「物価高」に象徴される「生活苦」を理由に、海外からの帰国者は急増する一方である。

「ワーキングホリデー」は、制度上は「休暇扱い」であり、休暇の中で限定的な就労が認められる特例制度である。そのため、働けばしっかり「納税義務」が生じる。私が世界の僻地にあるニュージーランドにいた頃は、1つの職場で勤務できる期間は3か月と決まっており、3か月を超えて勤務することは不可能であった。そのため、海外出稼ぎを目的に渡航する日本人はおらず、稼ぐことも不可能であった。これが、本来の「ワーキングホリデー(休暇扱い)」である。ところが、日本人は真面目で、納税率が高く(=脱税する人が少ない)、犯罪率も低いことから、3か月の勤務期間から1年の勤務期間へ特例措置が取られるようになり、これが制度に歪みをもたらす「新・ワーキングホリデー」となる「海外出稼ぎ」に変わってしまった。この歪んだ新制度により、質の低い日本人が「海外の方が稼げる!」と、訳のわからない解釈で渡航してしまうので、現地で問題が起きる。現地で問題が起きても私の経験のように「日本人は日本人に冷たい」での救済されない。特に日本人男性には厳しい現実が突きつけられる。これは統計上に表れており、日本人男性の平均年齢は19歳である。

それでは、日本人女性は優遇されるのかと言えば、実は、優遇されるんです。これが。それが理由で、日本人女性の平均年齢は34歳を超えた。つまり、日本人男性はほとんどが学生であり、日本人女性はほとんどが既婚者(または内縁関係)にあることは数字が裏づけているのである。
他方、日本人女性の年収(中央値)はニュージーランド人の52%と極めて少ない。少ない所得で物価の高いニュージーランドでどのように生活するのか、という部分が重要になる。

激増する海外在留邦人の帰国ラッシュを見ると、永住資格を手土産に日本へ完全帰国する例が多く見られる。物価の高いニュージーランドへ行ってみるが思うように稼げない。手取りは日本より多くも、出て行くお金も多い。「基礎控除」という概念のないニュージーランドでは、牛乳配達をするアルバイトの高校生も納税をしている(注:ニュージーランドの牛乳配達は夕方に行う)。ニュージーランドは一見、弱者にやさしい国に見えるが、それは、そう見えているだけで、実は弱者に厳しい国である。思っている以上に出て行くおカネが多く、生活が成り立たない。若く生殖能力ある日本人女性は「へそから下」を最大限に活用し、現地の男性と性的関係になることでこの場を凌ぐのが現実である。これを後押しするのが「事実婚」と「別姓」という制度である。宗教的概念を必要としなければ、事実婚と別姓は極めて合理的な制度である。他方、宗教的概念を重視する「キリスト教右派」は、この制度を痛烈に批判している。

この「合理的制度」により、日本人女性はニュージーランドで延命できている。
他方、日本人男性はどうだろう。食えない外国人男性を養ってくれる女性はいないので、若くして帰国を選ばざるを得ない。それが、19歳という日本人男性の平均年齢を忠実に物語るのだ。

楽して暮らせる日本人女性は「勝ち組」なのかと言えば、実は「負け組」である。
すぐに拾われるということは、すぐに捨てられることを意味する。
法律婚を選ばない内縁関係でも永住資格は取得できるため、ワーキングホリデーで渡航し、3年目に永住資格を取得したと「自慢」する日本人女性がたくさんいる。これは「合理的制度」により取得した永住資格であるが、これもまた「合法」なのである。『それってインチキじゃん!』は通用しない。なぜなら「合法」なのである。

私が日本人女性は負け組という理由は、30代半ばで捨てられてしまうことにある。
ニュージーランドには「慰謝料」に該当する解決金が存在しないため「永住資格」を与え、内縁関係を清算する。男からしても自分の負担金なく「おいしい思い」だけを謳歌できる「合理的制度」なのである。
実はこの制度、ニュージーランド国内でも少なからず社会問題となっており、1人の男性が複数の外国人女性と事実婚関係を結び、そのたびに外国人女性に永住資格が発給されてしまう。これは移民政策の枠外の出来事であり、国策に反する行為である。経済力ない外国人女性に永住資格が発給されると生活保護の対象となりニュージーランド側の負担は激増してしまう。外国人の生活保護受給にはニュージーランド国内でも厳しい批判が起きており、移民局は男性の婚姻歴(または過去の内縁関係の調査)による永住資格の発給停止を行っている。

国政調査(令和2年度)は、35歳以上で結婚できる確率は 4.9% と厳しい数字を残している。35歳以上の人は、20人に1人しか結婚できない。国政調査が「真実」を写し出していないことを切に願います。

コロナによるパンデミックで下層の仕事を請け負う人材が激減し、苦肉の策としてニュージーランド政府は正規の手続きを度外視した永住資格の発給を行った。この数、16万5,000件。同時期にオーストラリアも同様の特例措置を講じたが、その数はわずか、1万1,200件。本来は永住資格を取得できない人にも発給してしまったので、今後数年間で、生活保護を申請する外国人移民が激増することは必至である。

私が世界の僻地にあるニュージーランドで惨めな高校生をやっていた当時も、ニュージーランド政府による愚策で大量の外国人に永住資格を発給してしまった。結果的に、英語は話せない、技術もない大量の外国人移住者に生活保護を出すことになり、ニュージーランド国内で大論争になった。私も学校で、街中で、たくさんの嫌がらせを受けた。そのたびに、またニュージーランド国内で「ヘイト」を根源とする人種差別が横行することを考えると、やっぱり私は、ニュージーランドで首を吊らなくて良かったと、心の平和を実感するのだ。