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20 Intermission 6

2012.06.12 (Tue)
「何を書いてるんだ?」

そうして、AMIにてA-10の技術指南を行って居る最中。
ある日、空いた時間を使ってパソコンに向かい合っていると、背後からマリアさんに声を掛けられた。

「ちょっと、νGの追加装備の開発状況の報告が来ていたので」

言って、少しだけ身体をずらしてPC画面を見せる。

「……って、それをあたしに見せてもいいの?」
「まぁ、見られて問題になるものでもないんで」

送られてきたメールは二つ。
一つはドクターから。なんでもイギリス、BT兵器のデータを渡すのを渋ったらしい。なんでも「BT兵器の技術を公開する事は、万が一にもわが国のISにとって悪手となる可能性がある」とか。阿呆だ。
当然ドクターは報復行動に出た。その手段が、BT兵器の根幹技術であるサイコミュを学会で発表する、と言うものだ。いや、それはいい。サイコミュといっても、サイコフレーム技術なんかではなくて、純水にNTに許される人の意識の拡大を機械的に察知し、それを用いた思念遠隔操作システムの基本的なところを語っただけだ。まぁ、私に――オーストラリア側には特に問題は無い。問題があるとすれば、論文の発表者の名義が何故か「スバル・スカリエッティ」そう、私になっていたこと。何でやねん。とりあえず文章を読み進めると、なんでも論文と言うのが、私がドクターにサイコフレーム開発を行うに置いて提出したレポートをそのまま論文として発表したのだとか。いやいや、高々400枚程度の文章で論文って無理でしょうに。で、結果としてイギリスは大パニック。発表されたサイコミュ技術は基幹部分だけだった為、応用であるBTに関しては大きな問題は無いらしい。イギリスは盛大に冷や汗をかいたことだろう。で、ドクターってば悪い事に、その混乱の最中にBT技術をしっかり頂戴しちゃったらしい。なんでもドクター曰くBTは「欠陥兵器」らしく、送られてきた設計データには要改良の文字が記されていた。うん、どうせFFに改造する心算だったし。

で、次。νGの強化プランの一つ、HWS用の装備が完成したので、現在パッケージ化中。近々取りに来て欲しい、とMoonLightからのメール。
HWS装備。つまり、ヘビーウェポンズシステム。汎用性及び整備性共に最高値であるνGではあるが、その欠点として汎用型パーツを多用しているため、特徴的な装備が一切――フィン・ファンネルが完成するまで――無いのだ。実際、性能的には互角どころか此方が圧倒している筈のA-10にすら負けた。ぎ、技術は拮抗してたんだからね! 勝てなかったのは手札の数で負けてたからなんだから!! ――と言うわけで、何とか手札の数を増やす為に、新しい装備の図面を引いて、それを月光で開発して欲しいと依頼していた。その結果出来たHWS。どうやら上手く言ったらしい。新たに開発されたのは、機体を覆うドレスのような追加装甲と、肩部ミサイルランチャー、ハイ・メガ・シールド、ハイパー・メガ・ライフルの三種類の武装。ビームライフルすら未完成なのだけれども、どうも小型のビームライフルより、大きいままのハイパーメガライフルのが開発が簡単だったらしい。

ふむ、コレは宇宙に上がって是非テストをしなければ成るまい。


「はー、相変らずアンタん所は色々ぶっ飛んでるわね」
「あはは、コレはあくまで私の研究成果だから、本社はもう少しマシなんだけどね」

NMSS計画とか、あくまで私個人の開発プロジェクトだし。
月光で協力してもらってはいるけれど、NC社のメインはあくまでNext計画。此方は技術蓄積のためのオマケでしかない。

「とりあえず、そういうわけで、そろそろ此処からも撤収しようかと思ってます」
「……そういえば、派遣期間ってもう終わってるんだっけ?」
「ええ。最初は半月って話でしたけど、ついつい長居しちゃいましたし」

私がこのシドニーの開発局に来てもう既に一月近く。そろそろ私も本業に戻る、丁度いい頃合だった。

「んじゃ、いっちょ盛大にお別れ会でも開きますか!!」
「マリアさん……」
「よっしゃビールだ!!」
「マリアさん……」

「そうと決まれば」と他の整備員に伝える為か、作業ブロックの方へとかけて行ったマリアさんの後姿を眺めつつ、小さく苦笑するのだった。




    ※※※※    ※※※※    ※※※※    ※※※※




そうしてその翌日。二日酔いで頭がくらくらしながらも、何とかISを操って大気圏を離脱した。
――え? 未成年の飲酒運転? ハハハ、ソレハ日本ノ法律ダヨ。オーストラリアノ法律? ワタシ学校行ッテナイカラワカンナイヨ!!

因みに、νGには単独での大気圏離脱/突入能力を持たせている。
一応宇宙での活動を想定しているISなので、そういった能力は寧ろ必須なのだ。
そうでなければ隕石の一つや二つ押し出せないしね。

「あー、此方ゼロセカンド、νG。MoonLight、コレより入港します。許可を」
『此方MoonLight。セカンドちゃんオヒサー!!』

管制官の阿呆の声と共に放たれるガイドビーコン。
何時の日か「ガイドビーコンなんか出すんじゃないよ! 死にたいのかい!!」とか言ってみたいものだと思う。
まぁ、今のところ敵対的な組織は存在していないから、多分大丈夫だとは思うけど。

とか、そんな如何でもいい事を考えていると、いつの間にか月光の港に入っていた。
港といっても小さなコンテナのような物で、ISでここを訪れる私用に博士達が用意してくれた簡単なものだ。入港を確認すると、次にエアが注入され、次いでPICによる仮想重力が展開。
ストっと音を立てて地面に脚をつけた。

「――うん? はい、セカンド」
『あ、セカンドちゃん? 博士達がNTラボで待ってるから、此方に直行する事、だって』
「あー、了解です」

管制官の阿呆からの連絡を受けて、指示通りにラボに向かって足を進める。
因みにNTラボは、私が提唱するNT論を聞いた博士達が、「それならばNT研究の為のラボを開設しよう」とか言って、月光に勝手に増設したニュータイプ研究用のラボである。

因みに余談だけど、このNT論、これまたドクターの手によって学会に発表されてしまったらしい。といっても此方はオカルトが入ったような荒唐無稽な話で、殆どの学者達には一笑に付されたらしいが。
ただ、一部の学者さんたちは私の論文を好き好んで呼んだらしく、前のサイコミュの論文とあわせ、一部で私の名前は「NT論の第一人者」として有名になってしまっているらしい。

「ハーバート博士、エルザ博士、お久しぶりです」
「おぉ、セカンド遅かったではないか、我輩待ちくたびれて放置して二日目のミルクラーメンの如きほのかな腐臭を放ち、間違って手を伸ばした瞬間訪れる天にも昇るような脳の痺れと腹を押そうおぞましいほどの腹痛に冒されたかのような倦怠感を感じたジェーンが窓を向いて窓に! 窓に! まどぐふおぅ!!」
「ゴメンねセカンドちゃん、この馬鹿はすぐ黙らせるからちょっと待ってね」

そういってハーバートを引きずっていくエルザ博士。「ちょ、待て、待つのであるエルザっ!!」あの二人は普段からそうなのだ。「ちょ、それはバール!? 何故この宇宙にバールが、ちょ、それを振りかぶってどうする心算であるかっ!!」人目もはばからず何時もイチャイチャと。見ている此方の気分にもなってほしいというものだ。「イヤアアアアア!!! バールはイヤアアアア!!! だからってサイコフレーム(鉄筋型)もラメェェ!!」此処に所属している研究員って、7割男性で、その上宇宙にあるこの研究所は出入りが制限されている。というか、簡単に出入りできないのだ。ISでも使えない限り。「あ、あ、サイコフレームの共振、光が逆流す、ウワアアアアアアァァァァァァ!!!!!」それゆえ、あの二人のイチャイチャを見てストレスを溜める研究員が増大。もう本当、そろそろ全員に地上での休暇を与えたほうが良いのではないだろうか。一応ドクターに打診しておこうと思う。

「……って、あれ? ハーバート博士は?」
「あぁ、ウェスト君なら少し休憩に行ったわ。そのうち還って来るわ」
「そですか」

何かニュアンスがおかしかったような気もするけど、エルザさんが言うならきっとそうなのだろう。

「とりあえず、出来てるアレを見せましょうかしら」
「是非」

言って、エルザさんがパネルに向かってコードを打ち込む。
と、そのコードに反応し、研究室奥にあるマルチロールコンテナが切り替わり、RX93のコンテナがガチャリと音を立ててセットされた。

ガコン、と音を立てて開放されるコンテナ。

「うわぁ……」

中から現れたのは、純白の装甲。
νGを模して作られたイミテーションの上から、まるで純白のドレスでも着飾るかのようにして纏われた純白の装甲(ドレス)。

「ヘビー・ウェポンズ・システム。構想は理解できてたから、折角だしデザインも少し弄ったわ」

女の子ならお洒落しなきゃねー、とエルザさん。
いや、確かに私の送ったHWSの構想外略図と設計図は元ネタのHWSっぽく無骨なデザインにしてましたよ。と言うのもさ、私ってばほら元男じゃん。だからさ、いまだにお洒落とかそう言うのをすると、なんとも気恥ずかしくなってしまうのですよ、はい。しかも段々身体も女性っぽくなってきてるし、何よりこのドレスっぽいHWSを見て、ちょっと嬉しくなった辺り、精神が肉体に引きずられているというか。
とりあえず。

「エルザさん……」
「うん?」
「完璧です、博士」
「光栄の極み」

違う、思わずネタに走ってしまった。

「有難うございます、エルザさん」
「いえいえ、私は私の仕事をしただけよ。デザインは……そうね、趣味よ」

などなど言いつつ、イミテーションに装着しておいた装甲をパッケージ化。
即座にνGにインストールする事に。

「セカンド、νGを」
「はいはい」

そういって差し出す左腕。
左腕に装着した純白に黒いラインの入ったバングル。それが、νGの待機状態だ。

「それじゃ、ちゃちゃっとやっちゃいましょうか」

そういって、バングルにケーブルを接続し、投影されるディスプレイに向かって猛烈な勢いで指を走らせる。
此方も此方で、フィッティングを手伝う為に意識を集中。
サイコフレームによってνGと私の接合率はかなりの数値を誇っている。こちら側からの思考操作でシステムを操作するくらいはわけない。


15分ほどそうしていただろうか。

「――っと、こんなところかしら」

不意に顔を上げたエルザさんが、にこりと口元に笑みを浮かべた。

「そうそう、少しだけどマイナーチェンジを入れておいたわ。背部ビームサーベルと腕部ビームサーベルの位置を二本とも腰部に移動させたわ。背中と腕じゃ使いづらかったでしょ」
「まぁ、確かに」

νGにはビームサーベルが二本装備されているけれども、腕部ビームサーベルなんて実質背中のビームサーベルの予備だし。

「あと、依頼の通りに四肢の構造を強化して、両腕に衝撃砲を搭載しておいたわ。でも、小型で出力も最低限しか割り振っていないから、牽制くらいにしか使えないわよ?」
「ええ。それを上手く使うのは此方の仕事です」

そう、そして漸く実装できた。
νGの両腕に実装された圧縮砲。そして強化された機体。
この時点で、漸く戻ってきたのだ。切り札、振動砲が。

「それじゃ、早速展開してみましょうか」
「了解!」

研究室の一角、実験用のスペースの中心。
そこにに立って、左腕を胸の前に構えて――。

「展開」
「――相変らず、見事な展開速度ね。台詞の最中には既に展開してるでしょ」

当然。だって台詞はあくまで気分であって、正直思念操作で無言でも展開できる。
のだけれども。そういう言葉を口にする以前に、私は思わず鏡に映った自分に目を丸くしていた。

「うわ……」
「こら、女の子が鏡に映った自分を見て、ウワはないでしょウワは」

なんだろう。鏡に映った自分は、自分で言うのも何だけれど、中々キレイだと思う。
思うのだけれども、元男である自分がそう思ってしまうのが何だか負けたような気分になって、でもやっぱりキレイな自分を見て何だか嬉しくて、でもその嬉しさがもう自分が違ってしまっているのだと自覚する要因になっていて。
ええい、何時もの自分らしく行く!! 面倒くさい事はもう考えない!!

純白のドレス装甲。ワンポイントとして入る黒のライン。
それはまるで、御伽噺に出る戦乙女の姿にも似ていて。

「いや、エルザさん、コレは「うわ」ですよ」
「そうかしら。似合ってるしきれいだと思うわよ?」
「あ、有難うございます」

――だから何を喜んでいる自分!! 嗚呼、頬に血液が!! 体温が!!

「さて、それじゃ次ね。武装の確認をしましょうか」
「はいはい」

頷いて、一度νGを格納する。
管制室へと赴くエルザさんを見送り、私自身はIS用の港へと行こうとして――。

「セカンドっ!!」
「ひゃっ!?」

突如後ろから此方へと引き返してきたエルザ博士に声を掛けられて、思わずそんな声を漏らしてしまった。
……私が、「ひゃっ」だってさ。ハハハ。

「ど、どうしました?」
「今地上からランチがとどいたのよ!!」
「は? お昼ごはん?」
「そりゃlunchよ! じゃなくてlaunch! 輸送用ボート!!」

見事な突っ込み。コレもISの普及にかけて日本語が共通語になったおかげと言うものだ。
息も荒々しい様子のエルザさん。喋るのも億劫なのか、その手に小さな投影モニターを握ると、此方へとそれを投げてきた。(本当に投げたわけではなくて、投げるという動作にエフェクトを付けながらデータを転送する最近流行のお洒落デバイス。私はあんまり使わない)
慌ててそれを受け取り、此方の画面で表示。

「って、えええ!? 嘘っ!!」

そうして其処に表示されていたのは、コの字型型の、放熱板と良く勘違いされるオールレンジ兵器。
貨物リストに記されたフィン・ファンネルのデータと、ドクター・スカリエッティの署名が記載されていた。

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