困惑・6
「全く、アイツは何考えてるか分からん;すまんな、跡部」
「いえ」
入江の姿が食堂から消えると、跡部は隣に座る鬼にも分からないくらいに小さく息を吐き、ふっと緊張を解いた。
入江が苦手だというのは、全くの嘘という訳ではないのだ。
鬼はといえば、跡部の溜息には気づかなかったが、雰囲気が変わったのには気づいた。
今まで毛を逆立てた猫のようだった跡部がスッと力を抜いたのが肌で感じられた。
「お前、ベッドが合わないらしいが、眠れんのか?」
「熟睡はできませんが、全く寝れない訳でもないですよ」
「そうか、まあ色々あるだろうが、ここに来たからには頑張れや」
「勿論。あと…鬼先輩」
「なんだ?」
「先日はありがとうございました。お礼を言うのが今頃になってすみませんが…」
食事するナイフとフォークを置いて頭を下げる跡部に、鬼は首を捻った。
「何の事だ。心当たりねえが」
「他のコートの高校生達に絡まれてる所を庇ってくれたでしょう」
「なんだ、そんな事か。別にワシの助けがなくても大丈夫だったのかもしれんが、ああいう見苦しい真似は好かんからな。
それに今は同じコートだ。部の後輩みてえなもんだし、そう思や、そんなに特別な事じゃねえだろ」
「そういうものですか。俺はそういう経験がないので」
「ああ? お前、1年の時とか先輩にいびられてばっかいたのか?」
(7に続く)
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