【鷲田康・球界インサイドリポート】山室寛之著「2004年のプロ野球-」で20年前の球界再編の新真実が明らかに

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2004年5月10日は、後に球界を揺るがす再編騒動が水面下で静かに動き出した日だった。球団経営が立ち行かなくなった近鉄がオリックスに合併を持ちかけ、近鉄本社の山口昌紀社長が東京・港区の世界貿易センター内にあったオリックス本社を訪問。オリックスの宮内義彦オーナーに実質的な球団譲渡を正式に申し入れたのだ。

「イエスかノーか、この場で決めて欲しい」という山口社長に、宮内オーナが「分かった。(近鉄を)いただきます」と即答。両球団の合併が決まり、激動の半年が動き出すのである。

近鉄、オリックスの合併合意から節目の20年目の5月、球界再編騒動の決定本が出版された。『2004年のプロ野球 球界再編20年目の真実』(山室寛之著、新潮社刊、税別1800円)である。

合併が表に出たのは両球団の合意から約1カ月後の6月13日。選手会の猛烈な反発の中で、西武・堤義明オーナーが「もう一つの合併が進行中」と発言し、球界は10球団、1リーグ制をめぐる混乱へと突入する。

9月18、19日には選手会が史上初のストライクを決行。球界は未曾有の危機に直面するが、最終的には楽天が新規参入してセ、パ6球団による2リーグ制は維持された。12月にはソフトバンクがダイエーを買収し、現在の枠組みがこの年に出来上ることになる。

筆者の山室氏は読売新聞社会部記者から本社広報部長、巨人軍球団代表などを歴任。球界との太いパイプと綿密な取材で新証言、極秘資料を掘り起こし、複雑に絡み合った再編騒動をひも解いていく。

冒頭の山口社長と宮内オーナーのやりとりばかりでなく、巨人戦の放映権を巡る各球団の駆け引き。1リーグ制の旗頭のように言われた巨人・渡邉恒雄オーナーと西武・堤オーナーの同床異夢の思惑。また〝白馬の騎士〟として近鉄買収に名乗りをあげた堀江貴文社長率いるライブドアではなく、なぜ新規参入球団は楽天だったのか。本書では、20年目にしてあぶり出された新事実の数々が明らかにされていく。(スポーツジャーナリスト)

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