小田原にある地球博物館に行きたいと思っていたら、ジャストタイミングで車で熱海に来た人がいたので、運んでもらった。最初は楽しく話していたが、徐々に「なんだかこの人の声が無理だな」と感じるようになり、無理な理由を考えた。なんとなく、弱い振りをしているように聞こえた。人間には三種類いる。湿っている人と、乾いている人と、潤ってハリがある人の三種類だ。ドライバーの方は、表面的には湿っているけれど、内面的には死ぬほど乾いているタイプに見えた。そのことを伝えたら、なんだか変な感じになり「私と一緒にいない方がいいと思う」と言われて、私は小田原に捨てられた。

ドライバーの方は「自分は自分に自信がない」と言った。常に周囲に合わせて、常に周囲の顔色を伺って、流されまくりながら生きていて、人といると疲れるから一人になるのだけれど、さみしがり屋だから一人で居過ぎると頭がおかしくなると言った。他人との会話についていけなくて、何かあるとすぐに「わからないわからないわからない」となって、混乱する。混乱している空気感が周囲にも伝染して、関係者全員が混乱する。そんな悪循環を生きているように見え、さぞかし生きづらいだろうなと思った。

私は、捨てられる前の車内で屁について考えていた。屁が臭い時、屁と自分を同化させて恥ずかしがることも隠すことも誤魔化すこともできるが、開き直って「俺が臭いのではなく、俺が食べたものが臭いのだ」と言うこともできる。俺が臭いのではないと言える人は、屁と自分を切り離せる。だから、一緒にいる人も「くっさーい！」とか言いながら和気藹々と過ごせる。だが、屁と自分を同一化させてしまった人は、湿った空気感を漂わせながら「生まれてきてごめんなさい」と絶望の淵に自ら落下して、恥と罪悪感の権化になる。カラッと「ごめんね」と言える人には、周囲も「まったくもうやめてよね」とカラッと言えるが、屁と自分を同一化させてしまった人には「臭い」とは言えない。そんなことを言ったら、多分、臭いと言われた人は生きていけなくなって、自殺をしてしまう。

これが「弱い振りをしているように聞こえた」の正体であり、屁と自分を同化させるなと思った。自分を屁と同化させると、周囲の人も「臭くなんかないよ」と嘘を言って慰めなければならない。だが、臭いことに変わりはないので、陰でこっそり「あいつは臭い」と言われることになる。悲劇だ。本当は臭いのに、誰にも臭いと言ってもらえず、更に臭くなる屁のループ。負のループなんてものではない。屁のループ。自分と屁を同化させるな。問題は、臭いことではない。自分と屁を同化させて、勝手に自爆をすることだ。食べたもの【過去】が臭いだけ。屁【未来】が臭いだけ。現在の自分は、無味無臭である。屁に振り回されると、人生全般が屁っ放り腰になる。過去は過去。未来は未来。究極的な意味では、現在の自分とは関係ない。自分と屁を同化させるなんて、どうかしている。

別れる間際、ドライバーの方から「私のことを思い切りぶん殴ってください」と言われた。私は「自分でやってください」とお答えした。自分で自分をぶん殴る。自分で自分を否定して、自分で自分をぶち壊しながら生きるからこそ、自分を貫くことができる。自分を大事にすると自分を失う。自分を守ると自分が死ぬ。自己嫌悪なんて中途半端なところであぐらをかいていないで、自分に小さな死をプレゼントする。誰かの役に立ちたがる人間ほど、うまくいかなかった時に誰かのせいにしたがるものである。愛は地球を救うなどと言っている暇があったら、まずは自分を救え。まずは自分の役に立て。自分ができていないことを他者に求めるな。自分と屁を同化させるなんて、どうかしている。拳でぶん殴る代わりに、音楽でぶん殴ってやる。THE PRESENTSのこの曲を君に贈る。メロディーも最高だが、楽曲はライブで聞いてくれ。