我輩は魔神柱である。序列七十二番、七十二柱の魔神が一人、アンドロマリウスである。
我輩は今、絶賛憤怒中である。それはもう踏んだり蹴ったりで、腹が立つことこの上ない。
我輩の元に奴らがやってきたのは、十二月二十四日の夜のことだ。
例の携帯端末が起こした第二魔法もどきによる奇跡によって集結したカルデアのマスターどもは、瞬く間に我輩の周囲を囲んでいった。
バルバトスを始めとした六つの座はその戦法によって皆殺しとなり、残る魔神柱は我輩だけとなっている。なるほど、やはり七つの特異点を渡っただけはあるらしい。数と欲望を武器にした戦い方は、時に多大な効果を発揮するようだ。
しかし、我輩の前ではそうはいかない。
王に供給された豊潤な魔力は他の魔神柱を遥かに越え、ここで奴らを全滅させんとしている。数値に表すならば、他の魔神柱を二〇〇万とするならば、我輩はその三倍の六〇〇万。死した魔神柱の魔力量をバケツ一杯とするならば、我輩は満たされた風呂桶だ。
故に、だ。
我輩が奴らに敗北する道理などない。
敗北する可能性はすべて、我が廃棄孔に捨てた。敗北する未来など不要。
我が王の行う大偉業を妨げるもの全てが不要なり。
特に我輩に愚かにも立ち向かう最後のマスターとそのサーヴァントども。貴様らの存在は不要である。
全ては王の御心のままに。
貴様らは我が力を前に為す術もなく斃れるのだ。
起動せよ。起動せよ。
廃棄孔を司る九柱。
即ち、ムルムル。グレモリー。オセ。アミー。ベリアル。デカラビア。セーレ。ダンタリオン。
我ら九柱、欠落を埋めるもの。
我ら九柱、不和を起こすもの。
無念なりや、無常なりや。
我ら“七十二柱の魔神”を以てして、この構造を閉じる事叶わず……!
*
「よし、十回目! このままどんどんアンドロスットコドッコイを倒していくぞ!」
アンドロマリウスである。
我が名は、アンドロマリウスである。
我輩は魔神柱である。名前はアンドロマリウスである。
奴らの力は我輩を以ってしても敵わないらしい。我輩は慢心していたようだ。不要な感情はすべて排除していたつもりだったのだが。
それは仕方がない。いや、実に不愉快なのだが、それは我輩の慢心が祟ったのだと思う。
しかし。
「いくぞアンドロイド! 素材の用意は十分か!」
だからアンドロマリウスである。名前を間違えるな。
「オラオラへばってんじゃねえぞアンドロメダ! さっさと吐き出せやゴラァ‼︎」
だーかーらー! 我輩はアンドロマリウスである‼︎ ペルセウスの嫁ではない! ええい、何度言えばいいのだ貴様らは! 序列七十二番のアンドロマリウスだと言っているだろう! 何度我輩の名を間違えれば済むのだ‼︎
「アーチャーは宝具展開用意! そのままアリストテレスに打てェ!」
アンドロマリウスである! “七十二柱の魔神”である! 我輩は魔神柱である! 哲学者でもなければアルティメット・ワンでもない! 我輩の名前はそんなに分かりにくいか⁉︎
いい加減覚えるのだ! 我輩泣くぞ! それはもう盛大に泣いちゃうぞ⁉︎
「よし、毛も獲得完了! まだまだ他の奴らよりも多くアングロサクソンから素材を集めていくぞ!」
もう何度言えば分かるというのだ貴様らァ!
あれか、故意でやっているのか⁉︎ 素材を求めるだけでなく、我輩をコケにするとは強欲にも程があるだろう!
「孔明マーリンよろしく! ゴールデン宝具お願い! そのパターンをチョウチンアンコウに繰り出し続けておいて!」
だーーーーーーーかーーーーーーらーーーーー!
もうなんなんだよ。こいつら、我輩で遊んでいるだろ。絶対そうだ。そうに決まってる。だって我輩こんなに名前間違えられた事ないぞ! 王ならちゃんと呼んでくれるってのに! 我輩何か恨み買うようなことしてないのに!
王よ! 我が王よ! こいつら我輩の名前間違えてくるんですけど! 我輩こいつらの相手したくないです!
他の魔神柱用意してくださいよ!
と、我輩は王に念話をして一応懇願してみる。尤も、他の魔神柱はこいつらの所為で全滅されているのでどうにもならないのだが。せめて、魔力供給くらいは強化してくれるだろう。
しかし、現実とは時に非情なものである。
我輩の念話による思念の送信から数秒後。我が王の地獄の底から這い上がってくるような厳めしい低音が脳裏に響いてきた。
〝何を言っているのだ。廃棄孔たる貴様の役割は不要であるカルデアのマスターどもを殲滅させること。その程度が出来ずして何が魔神だ。さっさとやれ。序列七十二番、アンドロズンドコリウスよ〟
……。
…………。
………………。
我輩の名前って……なんだっけ……。
*
……我輩は魔神柱である。名前はまだない。というか多分ない。
現在、我輩はカルデアのマスターとそのサーヴァントどもと交戦している。何故かと問われれば、言うまでもない。王の偉業の達成の為の時間稼ぎだ。
マスターどもがそれぞれの物欲の赴くまま、我輩が死と共に吐き出す魔術品を貪る様はまるでハイエナである。
けれども、そのハイエナの群れは我輩を貪り食うことで我輩を着実に機能停止に追い込もうとしている。虚栄の塵やゴーストランタンという名の
無論、そう簡単には集めさせる気など毛頭ない。あらゆる並行世界のカルデアのマスターには、三国時代の軍師である諸葛孔明や花の魔術師マーリン、即興詩人ハンス・クリスチャン・アンデルセンなどの
このままのペースならばなんとか王の第三宝具によって人理焼却は完了することだろう。
————しかし、ここに例外が存在する。
結果から言おう。二日でやられた。比喩ではない。訂正はない。
我輩はクリスマスの朝を迎えて数時間も経たないうちにやられたのである。
何故か。それは、我輩にとっては理解できない領分である。マスターの一部から「労働終了した」だの「上司糞杉」だのと呟いている姿は見受けられたが、それが我輩の敗北に繋がるとは到底思えないし、それは関係ないのだろう。
結局、その敗因を理解できないまま、我輩は最期の死を迎えたのであった。
いや、次元跳躍したマスターが焼却されていない世界で企業戦士として労働していて、そのストレスをぶつけられたのが敗因であることを知らなかったのは、一種の幸福と言えるのかもしれない。
*
斯くして、カルデアのマスターを妨げる魔神柱は全て死した。
カルデアのマスターは少女と共に、彼の男の元へと走る。
全ては人理救済のため。
少年少女は今、魔術王と相対するのであった。
くぅ~疲(ry
はい。これで我輩は魔神柱であるはこれにて完結となります。なんだか投げやりな気がしますがね。その辺りはご愛嬌ということで……。
あ、活動報告の方でも言いましたが、ソロモン以降の話は書くつもりはないです。
ソロモン戦以降は本当に感動的な物語になっていくので(魔神柱戦でもサーヴァント大集合などのサプライズはありましたが)、あのストーリーをギャグ方面に持っていくのはあまりにも無粋というか蛇足の極みではないか、と思った次第です。マシュやロマ二のアレをぶっ壊すのは……個人的にもあまりやりたくはないですし。
そういうことで、今年最後の更新を以って我輩は魔神柱は完結です。
ちょっとでも手にとって読んでくれて、更にはお気に入り登録や多くの評価、中には推薦すらしていただいた読者の皆様、本当にありがとうございました。