今は昔、アサシンといふサーヴァントありけり。野山に混じりて竹を斬りつつ、田畑を汗水垂らして耕しけり。名をば、佐々木小次郎となむ言ひける。その竹の中に、太きタケノコなむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、表面に眼球だらけなり。それを見れば、タケノコ、
起動せよ。起動せよ。
覗覚星を司る九柱。
即ち、バアル。アガレス。ウァサゴ。ガミジン。マルバス。マレファル。アロケル。オロバス。
我ら九柱、倫理を組むもの。
我ら九柱、人理を食むもの。
“七十二柱の魔神”の名にかけて、
我ら、この憤怒を却す事、断じて許さず……!
と言ふ。対して、佐々木言ふやう、「落とし甲斐のある敵よ。これまで燕だけでなく、竜も英霊も斬ってきたが、ここまでの強敵を斬ることはそうそうないのでな」とて、一本の長刀を構えたり。タケノコのクラスはライダー。つまりカモである。
行け、佐々木小次郎。魔神柱に剣の極致を見せるのだ——————!
*
「刀身に歪み無し。全くの無傷であった」
メェェェェェェェアァァァァァァァメンンンンンンンン過去ォォォォン未来ィィィ‼︎
そしてこの始末である。
軍師の指揮&英雄作成&国王一座&マスタースキルマシマシのクリティカルバスターの威力は並大抵のものではない。
その一撃は、数値にして2,772,313という脅威のダメージを引き出し、魔神柱アモンを刹那の内に斬り伏せたのだ。
だが、やはり魔神柱は復活する。魔術王の固有結界によって、魔神柱は何度殺されようと復活することができる。
「ふむ。斬っても息を吹き返すときたか。いやいや、好都合よ。それはつまり、この一刀を魔神柱相手に何度も試すことができるということであろう?」
しかし、佐々木小次郎という男にとって、そのような条理は不利と取るものではない。佐々木小次郎は、英霊ではない。〝佐々木小次郎〟の燕返しが使えるという一点だけで、いるはずのない英雄の殻を被せられた
その亡霊の生前も、剣の術に興味を示し、ただただ腕を振るい続け、大成と同時に死しただけの農民にすぎない。ある並行世界にて行われた聖杯戦争でも、神代の魔術師のサーヴァントによって召喚されるという反則行為を犯していなければ、通常通り山の翁が召喚されていたという記録を持つ極めて異端な存在である。
故に、彼にとって英霊として召喚される機会は生前経験することのなかった殺し合いに参加できるという千載一遇のチャンスなのだ。
加えて、今回は人理焼却というイレギュラーな状況だ。
オルレアンに現れた竜の群れと邪竜ファヴニールを斬り、
古代ローマでレフに召喚されたフンヌの王アルテラを斬り、
オケアノスと名付けられた海でギリシャの大英雄を斬り、
ロンドンでマキリ・ゾォルケンが変化した
アメリカでケルト由来の英傑たちを、狂王となった光の御子を斬り、
エルサレムに生成された太陽王の領地にて召喚された
メソポタミアでは原初の罪である人間悪の一つ、ビーストⅡを斬った。
そして此度の戦いは魔術王とその配下にある七十二の魔神を斬ることができる。
即ち。
カルデアに召喚されてからというものの、小次郎は控えめにいってハイになったというか、イキイキしているのである。
「この辺り、弄った方がいいんじゃないかな?」
「つまらない連中だな、他にやる事ないの?」
「ロミオの悲嘆!」
「遅いなッ!!」
メェェェェェェェアァァァァァァァメンンンンンンンン過去ォォォォン未来ィィィ‼︎
「惚れ直すがよい!」
「地上にあってファラオに不可能なし! 万物万象我が手中にあり!」
「存分に足掻くがいい」
「見せどころよなぁ!」
メェェェェェェェアァァァァァァァメンンンンンンンン過去ォォォォン未来ィィィ‼︎
「まよえ……さまよえ……しね!」
「まよえ……さまよえ……しね!」
「さて、どのバッハがお好みかな?」
「ハァッ‼︎」
メェェェェェェェアァァァァァァァメンンンンンンンン過去ォォォォン未来ィィィ‼︎
衰えることのない一撃必殺。
それもそうだ。彼の剣術はある聖杯戦争において、アサシンというクラスながらもセイバーを凌ぐほどの腕を誇っていた。それがタケノコ如き斬れないなまくらであるはずがないのだ。
しかしタケノコとて覗覚星を司る魔神柱だ。七十二の魔神の思考と理論を束ねる者だ。理性を司る存在ならば、タケノコの武器は野蛮な力ではなく高等な知性である。
そしてそのタケノコのが導きだした手段は……量による圧殺であった。
————我らは覗覚星、七十二柱の魔神、その思考と理論を司るもの! いかな英霊が相手であろうと、我らの知性を焼き尽くす事能わず……!
甦れ、顕れよ、新生せよ! 我ら九柱なくして、大偉業の達成はない!
そして蘇生する。
しかし、その数は今までとは違い三体同時の出現。つまり、この座はタケノコの群生地となったわけである。しかし竹に成長することはない。
そんな悲壮しかない巨大タケノコの群生を前に、佐々木小次郎はというと、これまた涼しい顔でその威圧感を往なした。
「ほう、分身とは。だが、いくら数が増えようと、私の戦い方は変わらん。まぁしかし……これでは些か興が削がれる。ならばこちらも、我が秘剣を振るうときか」
紫煙が靡く。
対立する佐々木小次郎とタケノコ群の間合いは三メートル弱。
それは、タケノコたちにとっては彼を容易く屠れる間合い。彼にとって、ある意味絶体絶命の位置。
しかし————それはタケノコも同じことであった。
それは。
このタケノコとの戦いが始まって以来、見せた事もない剣士の構え。
「秘剣—————」
核兵器じみた魔力が佐々木小次郎を囲む。
もはや長剣は意味を成さない。
懐に入られた以上、その長さが仇となる。
だが。
「————燕返し」
そんな常道など、この剣士の前にありはしなかった。
————稲妻が落ちる。
それは、彼の騎士王の剣戟すら上回る速度で放たれた、魔の一撃。
回避という術を持たないタケノコ群を
——故に、行き場を無くした魔力は自然消滅し、残ったのは叫びすら無く消え去ったタケノコを見て、心底失望した表情を見せる佐々木小次郎のみ。
「……ふん。我が秘剣を前に躱さなかったとは。なるほど、これでは力を振り回すだけの暴れ牛。竜どころか、燕以下であったか」
……タケノコの名誉を弁護するわけではないが。
佐々木小次郎の剣は、全盛期のそれを軽く凌駕している。
何故か。それは、佐々木小次郎の霊基に宿る、
つまりはそういうこと。
佐々木小次郎は、聖杯を用いて霊基を強化し、神代の戦士と揉め手無しでも渡り合える存在となっているのだ。
加えて、この世界は「山育ち」の人間の魂に何らかの補正がかかっている。
つまり、山で育てられていないタケノコに勝ち目なぞ最初からなかったのである。
そして。
タケノコ返しを見事振るった佐々木小次郎は一言。
「まぁ、
と、座にて一人呟くのであった。