我輩は魔神柱である   作:壬生谷

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続きました。


耐えろフラウロス

 魔神柱フラウロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐なカルデアのマスターを除ねばならぬと決意した。フラウロスにはマスターの思惑がわからぬ。フラウロスは、七十二柱の魔神の一人である。魔術王の意向に従い、カルデアの管制室を爆破させ、ローマでアルテラに真っ二つにされたりして暮らして来た。けれども自らに降りかかる災難に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 一二月二二日未明フラウロスはレフ・ライノール・フラウロスという名を持つ人間の姿に化け、野を越え山を越え、それなりに離れたこのセレモニア原始聖堂の前にやって来た。フラウロスには父も、母も無い。いるはずがない。王と七十二柱の魔神の同僚と暮らしている。この同僚たちは、七つの特異点を越えてきた或るマスターを、近々、抹殺する役割を与えられていた。最終決戦も間近なのである。

 フラウロスは、それゆえ、カルデアのマスターを待ち伏せやら三日後のクリスマスの祝宴の御馳走作りやらをしに、はるばる聖堂にやってきたのだ。まず、六つの座の下見をしたのち同僚を置き去りにし、それから聖堂付近をぶらぶら歩いた。フラウロスには竹馬の友があった。ナベリウスである。今はこのセレモニア原始聖堂で、溶鉱炉をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

 歩いているうちにフラウロスは、神殿の様子を怪しく思った。何かがくる。もうすぐ人理焼却が達成され、三〇〇〇年かけた計画が終わるというのに、けれども、なんだか、そのせいではなく、神殿全体が、何かを感じ取っている。小物なフラウロスも、何かを感じ取っていた。虚空を見上げ、しばらくしていると、王の世界の外から介入がくるのを感じ取り、カルデアの連中が間も無く来る、と確信した。そして離れた場所に移動し、聖堂付近を遠目から眺めていると、やがてカルデアの制服をきた人間と、大盾を持ったサーヴァントの姿が現れた。彼らこそフラウロスを激怒させたカルデアのマスターである藤丸立香とそのサーヴァントであるマシュ・キリエライトだ。

 

「レイシフト、成功しました!

 ですが、シフト時に今までにない干渉があって……。今のイメージは————」

「……ウルクで見たイメージと同じだ……」

「良かった、先輩も無事です! 後は周囲の状況ですが————」

『ああ、こちらもモニターしている。そこが時間神殿なのは間違いない。そして————この反応は、メソポタミアでいやというほど計測した反応だ。

 七つのクラスに該当しない霊基。人類悪と言われた災害の獣。クラス・ビーストの反応が、その空間を占拠している!』

 

 聞いて、フラウロスは拍手した。「その通りだとも。少しは鼻が利くようになったなカルデア」

 フラウロスは不遜な男であった。レフの姿のまま、のそのそ彼らの目の前に入っていった。たちまち、カルデアの者たちを驚愕させた。警戒されて、遂には戦闘になったので、フラウロスと愉快な仲間たちは臨戦状態となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 気がつけばフラウロスはサンドバッグとなっていた。比喩ではない。訂正はない。

 魔神柱は膨大な魔力と共にカルデアのサーヴァントを強化する素材で出来ている。某弓兵の口上風に言えば、体は素材で出来ていて、血潮は魔力なのだ。心は知らん。

 また、フラウロスはクラス・ビーストたる魔神柱の癖に、ディライトだかワークスだかなんだかわからない何かの干渉を受けた結果、何故かクラスが槍兵(ランサー)へと変貌していた。事実である。これもまた訂正はない。

 そして案の定カルデアのマスターはその潤沢な報酬に目を輝かせ、またツイートしたのである。あのバルバトスが感心することで定評のある流れる動作で。

 現れる最後のマスターたちの軍勢。奴らが繰り返すのは……言うまでもない。蹂躙! 蹂躙‼︎ 蹂躙‼︎‼︎

 その暴威は、征服王の軍勢にも匹敵する、大いなる大義を掲げた者たちの宝具。

 あらゆる並行世界の最後のマスターたちの物欲により形成されるのは、フラウロス銀行包囲網。

 それは五〇〇日近くカルデアで過ごした中で味わった、英霊の霊基再臨やスキルのレベルアップの頓挫による彼らの苦難。どの特異点を周回しても、雀の涙ほどの素材しか落とさないエネミーどもに向けた彼らの怒り。

 狂気の四十八時間メンテナンスやらキャッシュに保存されたデータやらクッソ倍率が低いガチャ効率やらなんやらへの絶望。

 それらを味わったマスターたちは今、フラウロスに殴り込みにかかるのである。

 言い換えれば。

 フラウロス曰く、「遠くでバルバトスがフルボッコになっていると思えば、いつの間にか自分もそうなっていた」のである。

 

 つまり、フラウロスはバルバトスが犠牲になった地獄を、今現在味わっていたのである。

 

 

「これぞ大軍師の究極陣地。石兵八陣(かえらずのじん)! 破ってみせるがいい……」

「これぞ大軍師の究極陣地。石兵八陣(かえらずのじん)!」

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀! 無明……三段突き‼︎」

 

 

何故、ここまでの力をオォォォォォォ…………ッ‼︎‼︎

 

 

 死ぬ。

 

 

「お任せを。夢のように片付けよう」

「つまらない連中だな。他にやる事ないの?」

「ではお前の人生を書き上げよう。タイトルは……そう、貴方の為の物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)、だ」

「██████▅▅▅▃▄▄▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▅▃▃▄▅▅▅━━━━———‼︎」

 

 

何故、ここまでの力をオォォォォォォ…………ッ‼︎‼︎

 

 

 また死ぬ。

 

 

「まよえ、さまよえ……しね!」

「結び、開き、私という女に溺れてちょうだい!」

「ハーハハハハハハハハ‼︎ 行くぞ、我が愛は爆発するウゥゥゥ‼︎」

 

 

何故、ここまでの力をオォォォォォォ…………ッ‼︎‼︎

 

 

 更に死ぬ。

 

 死ぬ。

 死ぬ。

 死ぬ。

 死ぬ。

 死ぬ。

 死ぬ。

 

 繰り返される死の連鎖。尋常でない苦しみに、フラウロスは絶えず絶叫を続ける。

 魔神柱とて、痛覚は存在する。死の痛みは、どんな苦しみよりも重い。

 数時間前に陥落したバルバトスも、そして今物欲地獄の被害に遭っているフラウロスも、それを毎秒受け続け、何度も何度も痛みに喘ぐほかないのである。

 しかし、王からは全く支援されない。やだ、七十二柱の魔神たちって社畜なの? ……という冗談はさておき。

 

 そして、今に至る。

 フラウロスは、第二のサンドバッグとなっていた。七〇〇万を超える、カルデアのマスターたちの餌食となっていた。

 バルバトスが無間の歯車・蛮神の心臓・禁断の頁・ホムンクルスベビー量産サンドバッグならば、フラウロスは英雄の証・八連双晶・竜の逆鱗・混沌の爪・槍のスキル石量産サンドバッグなのである。

 そも、八連双晶や混沌の爪という僅かなエネミーしか吐き出さない貴重な素材を前にして、暴れないマスターとサーヴァントなんぞいるはずがないのである。

 

 つまりはそういうこと。

 フラウロスの敗因。

 それは、クソ貴重な素材を持ちすぎたことに他ならない。バルバトスと同じパターンに、フラウロスは陥ってしまったのだ。

 目の前で純金の宝物を身体中に身につけているくせに、護衛もつけず、それなりの護身術ももたず、動きがトロい不用意で隙しかない間抜けが狙われないはずがない。

 彼らはそれを見事に体現したのである。

 

 つまり。

 フラウロスとレフ・ライノールは、七十二柱の魔神の癖に、間抜けで愚鈍で弱々しいにも関わらず、不遜で下劣で小悪党染みた気性を持つ、小物であるわけだ。

 

 ……まあ尤も、自分で召喚したアルテラに、物の見事に真っ二つにされ、レフ・真っ二つ・ライノールになってしまったのを敵前に晒してしまうような奴だから、仕方ないのかもしれないが。


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