我輩は魔神柱である   作:壬生谷

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美味しい人を亡くしましたね……。


我輩は魔神柱である

 我輩は魔神柱である。序列八番、七十二柱の魔神が一人、バルバトスである。

 我輩は今、絶賛困惑中である。いつの間にかめちゃくちゃ死んでいたのである。まるで見当がつかぬ。

 

 話は一二月二二日、午後8時30分のことだ。我らは王の意向の元、人理の焼却に刃向かうカルデアの者共を排除するため、七つの拠点で彼奴らを待ち構えていた。

 

 王はセレモニア原始聖堂にはナベリウスを。

 IIの座にはフラウロスを。

 IIIの座にはフォルネウスを。

 IVの座には我輩ことバルバトスを。

 Vの座にはハルファスを。

 VIの座にはアモンを。

 VIIの座にはサブナックを配置した。

 

 全ては3000年という気が遠くなるような年月をかけて組み上げた計画の達成のため。七つの特異点を修正してきたカルデアのマスターを敗北させるのだ。そして、次の段階へと進むのだ。

 全ては我らの計画の為。

 貧弱かつ矮小な身ながらも、しぶとく生き残ってみせた実に不愉快極まるカルデアのマスターどもを、この手で捻り潰してみせよう。

 我々は王が束ねし七十二の魔神である。所詮羽虫程度でしかない人間と、そいつに付き従う英霊を消滅させる程度、容易いことなのだ。

 

 ————そして、奴がきた。

 ナベリウスとフラウロスの奴め、窮鼠に噛まれたな。我輩はその姿を見て確信し、心中で舌打ちした——魔神柱に舌はない、などという指摘はいらん——。

 カルデアのマスターの背後には、かつてマキリ・ゾォルケンに憑依したときに見た英霊たちの姿。全くもって不愉快なものだ。奴が七つの時代を渡り歩いたことにより結ばれた(えにし)というごくごくわずかな経路(パス)を通ってこの世界に辿り着いてきたのだ。中にはゾォルケンと共に王に協力していた英霊も見える。……実に不愉快だ。この不快感、嘆かずにはいられない。

 だからこそ、その根源を抹殺する。

 管制塔という役割に基づき、我輩は口上を述べた。

 

 起動せよ。起動せよ。

 管制塔を司る九柱。

 即ち、パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。べレト。レラジェ。エリゴス。カイム。

 我ら九柱、統括を補佐するもの。

 我ら九柱、末端を維持するもの。

 “七十二柱の魔神”の名にかけて、我ら、この総合を止むこと認めず……!

 

 瞬間、我が身は一刀を以って消滅した。

 その剣は如何なる銀よりも眩い聖剣・クラレント。即ち、円卓の騎士モードレッドによるものであることを意味していた。

 

 だが、それがどうした。

 我らは無限に復活する。そして、永遠にその役割を遂行する。

 統括を補佐し、末端を維持する。

 故に、我輩は役割を阻む愚かな者共の排除を開始した——————!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありえない。我輩は、そう思わずにはいられなかった。

 なんだ、あれは。理解不能だ。

 一騎ずつが一騎当千の英雄であるのは理解している。故に、数度程度の死を体験するのは相対する前から覚悟していた。だが、それまでのこと。持久力と溢れるほどに膨大な魔力を持つのは我らの方。長き時間と共に膨大な魔力供給による攻撃を繰り返せば、すぐに片がつくのは、言うまでもないはずだった。

 

 それは、二度目の死のことだ。

 今の我輩の身は第四特異点に召喚された影響か、マキリ・ゾォルケンとヴァン・ホーエンハイム・パラケルススとチャールズ・バベッジが作りだしたエネミーを構成する物質を一部の素材として作られている。無論、この世界の魔力が大部分であるため、見た目は醜い肉塊であるが。

 そして、その物質はやはり神秘を操る者が使った者である為か、多少の神秘は宿っており、それらはカルデアにとってはそれなりに利用価値があるらしい。

 ……何? 何故魔神柱である我輩がそれを知っているのか、だと?

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……その質問は、この話の重要な点である。全くもって遺憾な話であるが。もう一度言う。全くもって遺憾な話である。大事なところだ。覚えておくが良い。

 

 故に答えよう。何故我輩がカルデアのそのような話を知っているのかを。

 

「これって……、無間の歯車とホムンクルスベビー……。それに、禁断の頁と蛮神の心臓じゃないか……」

 

 復活した我輩は、ふと、カルデアのマスターが震えた声でそう言ったのを聞いた。

 それは、我が身を構成する一部だ。たかがそれ如きに、何故そのような様子を見せるのだ、と我輩は疑問に思った。

 そして、我輩の思考など知る由も無い奴はこう呟いた。

 

 

「ツイートしなきゃ……バルバトスは、歯車とホムンクルスベビーと頁と心臓を落とす(泥する)、と……!」

 

 

 戦いの最中。奴は周りの気を抜かすような、しかし内から燃え上がるような力の籠もった呟きをした。

 そしてその次の動作は、氷の上を滑るかの如き流れを体現した動作であった。それこそ、我輩も少し感心したレベルの。我輩、すごく驚いた。

 衣服から取り出したのは、二○○○年代の人間が使ったという、文明の利器。所謂スマートフォンだ。そして、青い鳥の模様が特徴的なそれを押し、何かを記述し、そしてまたスマートフォンを内ポケットに仕舞った。

 

 たった、それだけのこと。

 しかし、我輩にとってはその動作が核兵器のボタンを押しているように見えたのだ。

 

 

 瞬間。

 我輩は、地獄を見た。

 

 なんだ、あれは。

 我が眼に映ったのは、黒い髪の少年と、橙の髪の少女の姿。そして、彼ら()()()()()()()()()()()()()()()

 一人一人、だ。

 少年少女がたった二人、ではない。

 

 同じ髪の色。

 同じ顔の少年。

 同じ顔の少女。

 同じ髪の色。

 同じ髪の少年。

 同じ顔の少女。

 同じ色の髪。

 同じ顔の少年。

 同じ顔の少女。

 

 同じ、同じ、同じ、同じ、同じ——————‼︎

 

 それは、魔術による小細工で生まれた幻影の類ではない。

 

 否。

 それは、魔術の域にある現象ではない。

 生前の王の死と共に衰退した神秘では、成し得ることのできない魔法の域だ。

 何故なら。

 全てが同じ奴らは、その実服装と性別こそ微妙に違うものの、それらは全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であったのだ!

 

 馬鹿な。我輩は戦慄と、驚愕と、困惑を織り交ぜた混沌とした感情に襲われた。

 スマートフォンはあんな簡単な動作だけで、第二魔法の領域に存在する現象を引き起こすことが可能だというのか⁉︎ 

 

 筆舌に尽くしがたい感情を無理やり抑え、我輩は奴らの数を数えてみる。

 我輩の無数にある眼球一つ一つをぐるりと見渡し、その数を数えること、およそ……。

 

 七○○万を超える、だと?

 

 馬鹿な。

 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な‼︎

 

 カルデアは根源にでも接続しているのか⁉︎

 それとも王はうっかりしてあのスマートフォンが生産される特異点でも生成してしまったのか⁉︎

 

 理解できない!

 

 奴らは何を知り、何を望んでいるのだ‼︎

 本来ならば、我が魔力を前に友は全て消えゆき、お前には無理だという絶望と共に生き絶えていたはずではないのか⁉︎

 目の前の現象への理解を放棄した我輩は、いつの間にか気が狂ったかのように叫び声を上げていた。

 

オォォォ……オォォォォォォォォォ‼︎

 

 そんな我輩の心情など奴らは露知らず。

 しかし、奴らはまた、同じようにニィ……ッ、という不気味な笑みをうかべていた。

 

 嗚呼……、地獄が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度、我輩は死を迎えたのだろうか。

 意識して数えたのは十万を超えたころまで。それ以降は、わからない。わかりたくもない。

 今の我輩はその造形も併せてサンドバッグのよう。或いは、死ぬごとにあの物質を吐き出すのを繰り返す機械だろうか。

 復活と共に、パターンが固定化された流れで魔術師のサーヴァントたちが味方を強化し、流星を降らせたり、事象飽和現象を起こされたり、更には多次元屈性現象(キシュア・ゼルレッチ)を伴った斬撃を浴びせられ、ステッキから極太のビームを放たれた挙句、愛の爆発を受けたり超高速の九連撃を受けたり……。

 挙げるだけキリがないほどの多種多様な攻撃を喰らったのである。

 復活した後、一度死ぬまでの時間たるや、最短で数十秒にも満たないほどだ。

 

 そして我輩は無様に歯車だの紙だのホムンクルスの幼体だの心臓だのを吐き出し続けていた。

 

 地獄は、体感にして七十二年。実際の時間の流れとしては、十二時間も続いた。

 そして今、我輩は再び復活する。

 しかし、供給されてくる魔力はもはやどれだけ送りつけられても足りるはずはなく。

 

 一二月二三日、午前九時四十四分。

 我輩、いや、管制塔バルバトスは、無様に完全制圧されたのであった。

 

 その時の奴らの「バルバトス復活させろ運営‼︎」という理解しがたい叫びを最期に聞いて。


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